- ワールドリーダー 第二十話 -
ワールドリーダー第二十話
「……暇ねぇ……」
読んでいた本から顔を上げる。見渡す限り一面の本、本、本、本。暇を埋めるため、欠けたものを埋めるため、目に見える範囲のものは全て読みつくしたといっていいだろう。
「……まあ実際そのン十倍も残ってるんだけどねー」
本の一文に彼の欠片を見つけ、貸し出し履歴に彼の名前を見出し。狂おしいほどに求める心が囁くままに、読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで呼んで呼んで呼んで。
私にとって読む事は呼ぶ事に等しい。ここではないものを我が元に呼び寄せ同化する。読むとはそういうものではないかしらん、と思うようになったのは、はて一体いつからだろう?
「ん?」
そんな事を――何故かはわからないけれど――考えていたら、なにやら地面がうっすらと輝いている事に気がついた。正確には、地面――実際は堆積した本の山の頂上だけど――の下が輝いている。
「お? これはひょっとするとひょっとするかな?」
見慣れたというより最早見飽きたこの発光現象、誰かが本から抜け出てくる時のものだ。まあ私の元に戻ってくる奴なんか一人しかありえないわけなんだけど。
「初めての執筆だから、あの規模の世界にしてはちょっと時間かかったわね〜。主観で……ん〜、一年くらい経ったのかな?」
……いやまあ、大雑把な事この上ないのはわかりきってるのよね、ほんと。こんなだからあいつにずぼらだ何だとからかわれちゃうんだけど……季節の移ろいだとか時計とか変化とか、その他諸々とは縁遠いこの空間だと、時間の経過を把握するのは酷く難しい。すると当然のように時間経過を気にしなくなる。まあ、どれだけ時間が経過しようがあまり関係ないっちゃあないから、それもあるんだけど。
と、あれこれ考えているうちに輝きは更に強さを増して、――唐突にその輝きを失った。
「……って、あれ?」
……出てきませんよ? あれ、てっきり久しぶりに会えるから、お前は犬かといわんばかりに向かってくるとばかり思ってたんだけど。
「よ……っと」
……なんというふつーな登場。お姉さんはちょっと失望しましたよ? とゆーかあまりに盛り上がりに欠ける。これはいけないわねー。ここは一つ私がっ。
「お帰りなさいませ旦那様。ご飯にしますお風呂にしますそれとも私? 何でしたら全部あわせた満漢全席フルコースでお持て成「あ〜、その、ちょっとやらなきゃいけない事があるから遠慮しときます。あ、それと、これ、今回の書き上げた本です。それじゃ、急ぎますんで」……え?」
………。
ぼーぜん、というやつだ。
「なん、なのよ……」
久しぶりの再開だってゆーのに、あの素っ気なさ。というか、どこかぎこちなかったような?
「はっ!? ま、まさかあっちで愛人を作ってきたとか!? それでついでに身篭らせちゃってそれでいたたまれなくなってあんな態度を……取るわきゃないわよねぇ……」
誇張でもなんでもなく、私たちがお互い以外に一定以上の関係を結ぶ事はない。そうでなければ何百年も律儀に待っていたりはしない。
「でもなんか……」
これは、違う、わよねぇ。いつもと。
「これは、ちょっと、怖い、かな?」
これが本の中だったら、別にどうという事はない。限りなく広がる幻想の世界だ、何があってもおかしくはないし驚く事でもない。
でもここは違う。決定的な変革が久しく絶えてなかった、永遠の安寧の庭。
初めて突きつけられたといっていい、あからさまなまでのこの変化は。何か、私たちにとんでもない変化を強いるような気がしてならない。
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「……暇ねぇ……」
読んでいた本から顔を上げる。見渡す限り一面の本、本、本、本。暇を埋めるため、欠けたものを埋めるため、目に見える範囲のものは全て読みつくしたといっていいだろう。
「……まあ実際そのン十倍も残ってるんだけどねー」
本の一文に彼の欠片を見つけ、貸し出し履歴に彼の名前を見出し。狂おしいほどに求める心が囁くままに、読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで呼んで呼んで呼んで。
私にとって読む事は呼ぶ事に等しい。ここではないものを我が元に呼び寄せ同化する。読むとはそういうものではないかしらん、と思うようになったのは、はて一体いつからだろう?
「ん?」
そんな事を――何故かはわからないけれど――考えていたら、なにやら地面がうっすらと輝いている事に気がついた。正確には、地面――実際は堆積した本の山の頂上だけど――の下が輝いている。
「お? これはひょっとするとひょっとするかな?」
見慣れたというより最早見飽きたこの発光現象、誰かが本から抜け出てくる時のものだ。まあ私の元に戻ってくる奴なんか一人しかありえないわけなんだけど。
「初めての執筆だから、あの規模の世界にしてはちょっと時間かかったわね〜。主観で……ん〜、一年くらい経ったのかな?」
……いやまあ、大雑把な事この上ないのはわかりきってるのよね、ほんと。こんなだからあいつにずぼらだ何だとからかわれちゃうんだけど……季節の移ろいだとか時計とか変化とか、その他諸々とは縁遠いこの空間だと、時間の経過を把握するのは酷く難しい。すると当然のように時間経過を気にしなくなる。まあ、どれだけ時間が経過しようがあまり関係ないっちゃあないから、それもあるんだけど。
と、あれこれ考えているうちに輝きは更に強さを増して、――唐突にその輝きを失った。
「……って、あれ?」
……出てきませんよ? あれ、てっきり久しぶりに会えるから、お前は犬かといわんばかりに向かってくるとばかり思ってたんだけど。
「よ……っと」
……なんというふつーな登場。お姉さんはちょっと失望しましたよ? とゆーかあまりに盛り上がりに欠ける。これはいけないわねー。ここは一つ私がっ。
「お帰りなさいませ旦那様。ご飯にしますお風呂にしますそれとも私? 何でしたら全部あわせた満漢全席フルコースでお持て成「あ〜、その、ちょっとやらなきゃいけない事があるから遠慮しときます。あ、それと、これ、今回の書き上げた本です。それじゃ、急ぎますんで」……え?」
………。
ぼーぜん、というやつだ。
「なん、なのよ……」
久しぶりの再開だってゆーのに、あの素っ気なさ。というか、どこかぎこちなかったような?
「はっ!? ま、まさかあっちで愛人を作ってきたとか!? それでついでに身篭らせちゃってそれでいたたまれなくなってあんな態度を……取るわきゃないわよねぇ……」
誇張でもなんでもなく、私たちがお互い以外に一定以上の関係を結ぶ事はない。そうでなければ何百年も律儀に待っていたりはしない。
「でもなんか……」
これは、違う、わよねぇ。いつもと。
「これは、ちょっと、怖い、かな?」
これが本の中だったら、別にどうという事はない。限りなく広がる幻想の世界だ、何があってもおかしくはないし驚く事でもない。
でもここは違う。決定的な変革が久しく絶えてなかった、永遠の安寧の庭。
初めて突きつけられたといっていい、あからさまなまでのこの変化は。何か、私たちにとんでもない変化を強いるような気がしてならない。