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- ワールドリーダー 第十九話 -

ワールドリーダー第十九話



「一つ、言い忘れてた事がある」
「どうしました? 畏まって」
「烏な、あのお前達が巫女としてみていた」
「ああ、彼女ですか? 最近は神殿にいらっしゃる事がほとんどなくなりましたよね。今も何処にいらっしゃるのやら」
 
やはり知らんか。まあ、無理もない。

「んで、その放蕩娘がどうかしたのか?」

 ―――。

「黙れ殺すぞ。侮辱は許さん」
「――ぁ」
 
自然と目が細まり意識がささくれたのを自覚して、次に無意識のうちに向けていたプレッシャーに心身を押さえつけられ口をパクパクさせているロギアスに気が付いた。
 ――いかん。過敏になってるな……。

「……悪かった。少しピリピリしているみたいでな」

 意識してロギアスへの負の感情を打ち消すと、糸が切れたようにロギアスはへたり込んだ。

「………………死ぬかと思ったぞ……」

 だろうね、ちょっと殺気出しちゃったし。でも、

「口が過ぎるからだ。……彼女は消えたよ」
「な――」

 信心の根源は救世主伝説にあったかもしれないが、信仰の対象は彼女だったわけだから、まあショックも大きかろうな。神様が死んでしまったわけだし。……しかし神様ね、的を射てるよなぁ。

「救世主……俺を待つためだけに存在し、存在し続け、そして俺を護って消えた。最初から最期まで、全て俺のためだけだったんだよ、あいつ」

そしてそれはお前達に理解出来る以上に。何年も何百年も何千年も前からずっとそうだった。

「そんな彼女を貶めるような事は、蔑ろにするような事は二度と許されない。俺自身が許せない」

 誰よりも自分を。

「だから、そんな事を言ってくれるな」

 深く、重々しく頷いてくれた彼らは、真実を何も知らず、恐らく誤解しているだろうけれども。その姿はきっと慰めになるだろう……。そう思わずにはいられない。



 結局、この大戦は審問軍の瓦解により、異端側の優勢のまま有耶無耶になって終息した。わかりやすいエンディングを望むのなら、世界を融和による統一に導いてみたり、英雄として凱旋してみたりと色々あるけど……。

「正直、俺に出来るのはここまでだな」
「……行くのか?」

 珍しく敏いね、ロギアス。戦闘以外では鈍いとばかり思ってたけど。

「まあな。俺の役割はここまでかな、とは思ってる」

 それに他にやるべき事、やりたい事があったわけだし。

「まあ、私たちもここまでお膳立てされて、出来ないなどとは言えませんよ」

「俺も二度目でまたしくじりました、だなんて言えるわきゃねぇからなぁ……」

 とぼやいた声は、聞こえてないよね、多分。



「なんとも……数奇な物語だこと」

 少しずつ、光の粒子になって消えて行く、という在り来たりな別れの演出を済ませて、カインの千里眼に見つからないよう偽装しつつ、存在を世界《物語》から切り離す。
色んな意味で世界から浮き上がった身体は、ふわふわと「上」へ上っていく。
見下ろす世界は、僅か数ヶ月の滞在だったにも係わらず、違和感を抱かせない。とは言えそれもまあ当然。当然だった事を知らなかった……否、忘れていただけ。
 ………。

「一万年と二千年前から続いてる〜♪」

 ……突っ込んでくれる人がいないのが寂しい。

「――ま、しかし、そろそろフィナーレだ」
 
実際は「そろそろ」なんてもんじゃ済まないほどの時が経っているような気がしてならないが、この青臭くて煮え切らなくてみっともなくて、それでも当人たちは必死にテンパりながらもがいていた物語は、いい加減冗長に過ぎるだろう。

「読者を待たせすぎだよな、ほんと」
 
 文字の海で幻想にたゆたう時は、心地よいけれど。そろそろ。

「俺は目覚めた。あんたもお目覚めの時間だぞ。……お姫様」







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