- k a r e s a n s u i -

- ワールドリーダー 第十三話 -

「ん〜……」
 涼しい夜風がアルコールで火照った顔を撫でていくのが気持ちいい。その風に乗って聞こえてくるにぎやかな声をBGMにして酔い覚まし。うむ、風情があるのぉ。
「な〜にを悩んでいるのかな?」
「……悩んでるつもりはないんだけどなぁ」
「そ〜お?」
「悩んでるっつーか、こう……説明し辛い違和感が……例えば……」
「例えば?」
「……カラスが人語を喋ってるような違和感」
「だってここ樹のてっぺんでしょ。人型取ったら座れないでしょ」
「……だからって不意に現れて人の頭に止まるのはどうかと思うぞ」
 爪がグサグサ刺さっていたいんですが。
「脳天直撃?」
「いや、それ古いから」


ワールドリーダー十三話


「――で、一体なんの用だ?」
 結局頭の上に烏を乗っけたままで会話続行。微妙に重たいが、まあよしとしよう。
「質問したのはこっち。な〜んか、悩んでるよーに見えたんだけど」
「ん……いやだからさ、違和感なんだよ。……なんかもやもやが……」
「もやもや?」
「そ、もやもや」
 もやもやだから判然としないわけで、気持ち悪いっつーかなんつーか。
「まあ今んトコそんなに深刻じゃないからなぁ」
「そんなもんだね〜。それに今はめでたい時だし、楽しまなきゃ損でしょ」
「……だな」
 遥か下からは賑やかな声といい匂い。戦勝の宴は盛大に盛り上がっておりますな。
「……のんびりどんちゃん騒ぎが出来るのも今のうちかも知れんからな」
「そなの?」
「ああ。確かに今日は一方的だったけど毎回こんな上手く行くわきゃないし、ジリ貧だ。それにアレだ、人形とかいう奴もあるとかないとか。切り札が向こうにはあるってこったろな」
「あ、そっか。じゃあそうなった時はやっぱり救世主様?」
「そゆこと」
 ……そゆこと、なんだけど……むぅ。
「……どしたの?」
「……んにゃ、なんでも」
 今はまあ悪い感じはしないし……スルーするに限るな。
「さて、俺は下りっけど、お前はどうする?」
「貴方が望むなら同伴しますけど〜?」
「ん〜……任せる」
「んじゃこのままゴー♪」
 なんか烏の奴えらくご機嫌……。まあいいんだけどさ。
「んじゃ、しっかり?まってろよ」
「ほへ?」
 樹の天辺付近から、こう無造作にひょいっと飛び降り。レッツノーロープバンジーですな。
「うぇっ!? ちょ、ちょっとま――」
 うーむ、浮遊する感覚……ってか実際には落っこちてるんだけど。あ、勿論頭に乗っかってた烏はそのまま。なんせ「このまま」ってご指定が来たんだから。
「きゃぁあああああああああああああああああっ!? は、羽がぁ〜っ!?」
 慌てふためく烏。つーかお前飛べるんだから――って、
「あだっ!? ちょ、爪、爪! 頭に食い込んでる! 痛い痛い! 離せって!」
「は、離せるか〜っ!!!」
 ぎゃーぎゃーやかましいまま垂直落下。頭の上では烏が錐もみ状態に。そしてそれに連動して爪がぐいぐいと頭に……っ!
「いやいやいやマジで痛い!」
「か、髪の毛に絡まってぇええええっ!?」
「な、なんとかしろーっ!」
「な、なんとかって……あっ、そうだ!」
 なにやら打開策を思いついたのか声を上げる烏。そして……。
「……いよっと!」
「おお、解放された!」
 掛け声と同時に頭にぶっ刺さってた爪がなくなる。
「あ〜痛かった……っと」
 すたん、と地面に着地。もうちょっと離れるのが遅かったら、幾ら能力使ったとは言えちょっと危ない事になってたかも……って、ところで奴は何をやったんだ? と思って上を見上げてみれば。
「あ、なるほどね」
 確かにそうすれば髪の毛に絡んだ足は離れるわな。
「も〜、っとにびっくりした……」
 とかぶーたれる烏はただいま人型モードで飛行中。空中での変形(?)って、なんかかっこいい気がするのは俺だけじゃあないよなぁとか思ってみたり。
「……ちょっと。何考えてるの? ほんとにびっくりしたんだからねっ?」
「いやなに、いきなり頭に乗っかってきた事に対してのお茶目なお返し」
「お茶目違う! いじめだった! このいじめっ子!」
 うがー、と文句を言う烏。びっくりしたからか怖かったのか、ちょっと涙目なのが……こう、ね? あれなのよ、わかる?
「……萌え」
「真面目に聞けー!」
「あっはっはっはっは♪ ……いや、ありがと。気が楽になった」
 顔を紅くして怒る烏の頭をくしゃくしゃっと撫でてやる。
「むむ……まあ……許す!」
 もごもごとやってたけど結局はにへらっと笑ってお許しが出されましたですね。いやはや……こいつと話してると気が楽になるなぁ。人を食ったようなトコも実はウブなところも。なんとも付き合いやすい。
「ま、最後の宴会だろうし、ぱーっとやらないといかんよな!」
「そーだそーだ!」
 おー!と気勢をあげて二人で宴会場へいざ出陣。


「おー、お前ら飲んでるかー?」
「か〜?」
 カラスモードに戻った烏を頭に乗っけたまま宴会場に突撃。見た感じだいぶ盛り上がってるみたいだが。
「あぁ、リトス様」
「おーっす! あんたも飲んでっか!? がははははははっ!」
 むぅ、カインの奴は飲んでもあんまり性格変わらんのか、つまらん。豹変したら面白かったのに。ロギアスはロギアスで面白みに欠ける酔い方を……。
「まぁ楽しんでるみたいだからいいけど」
 その他ぐるっと見渡してみると……あ、ディアム発見。皆から離れたところでちびちび飲んでるが……ふむ。
「なぁ、カインよ」
「はい、なんでしょう?」
「ディアムがよ、隅っこで一人寂しく呑んでるんだが」
 と言うとカインはなにやら戸惑うような、でも嬉しそうな。
「そうなんです、普段はこういう場には絶対に出てこないんですが……。いや、でもいい事じゃあないですか」
「ふむふむ……んあ?」
 善き哉善き哉と頷いているとつんつんと頭を突付かれる。
「クワァ……クワッカクケ、クウェ」
「そりゃなあ、俺がフル稼働すりゃあ話は早いかも知れんけど、それじゃあ結局なんも変わらん気がするし。自立出来るようにならにゃあ」
 戦う以外でもちゃんと役立ってんのね、って言われても、副次的な結果とは言え意図しなかったわけでなし。
「……それにこーゆーとこまで考えて進めないと合格点もらえない気もするしなぁ」
「クエ?」
「ああいや、なんでも」
 さて、他には……むむ、宴会場となっている広場中心部の若い娘の集団の中にエスカ発見。しかしよく見れば女性陣は大体二つのグループに分かれてるみたいだな。これは一体どういう差分がなされているのか。
「……あ、リ、リトスしゃま〜」
「お?」
 ちょっと意識を逸らしていたらどうやらエスカに見つかった様子。しかしなにやら舌っ足らずな気が。
「リトスしゃま〜……うひゅひゅ……」
「ちょ、お前酔いすぎ!」
「わらしぃ……お役に立てましたかぁ?」
 真っ赤な顔をして千鳥足で寄って来るエスカの右手には一升瓶……って一升瓶!?
「くびっ、くびっ……ぷっはぁ……。うひゅひゅ、こんらにおしゃけがおいふぃいのははじめてれす……」
「ラッパ飲みかよ……」
 予想外の人物が豹変したな……。
「あのでしゅねー! わらしはぁ、さっきみんなとはなしれきめたんれす! もうちょっとだけ、もうちょっとだけがんばっれみよ〜って」
「みんな?」
 皆ってのは多分さっきまで一緒にいた集団の連中の事だろうけど……。
「わらしたちはれすねぇ、どーしてもさいごれ逃げちゃうなんじゃくもにょたちのあつまりらったんれす……。れもぉ、わらしが作戦のメンバーにえらばれてぇ、リトスしゃまにしかられてぇ……しゅこぉ〜しだけ、がんばれたんれす。それをみんらにはらしたらぁ……みんらもがんばっれみおお、って事になったんれす……。で、これはそのおいわいなんれすお? うひゅひゅひゅひゅひゅ」
「あ〜わかったわかった、わかったから少し離れろ酒臭い」
「あ〜リトスしゃまがつめたい〜」
「ええいまとわりつくなっ!」
「クォ……クワァッ!」
 サクッ!
「あいたっ!」
「ああっ、エスカの脳天から血が噴水のようにっ!?」
「クケーーーッ!」
「うわわわわっ? た、大変でしゅお〜っ」
 サクっと頭をやられたエスカを威嚇するように俺の頭の上で威嚇する烏。つか、お前は一体何をやってるんだ?
「あ〜、ほれエスカ、治癒系の能力持ってる奴んトコ行ってこい」
「は、はいぃ〜」
 へろへろと千鳥足で駆けて行くエスカ。むぅ、大丈夫だろうか。
「……んで? 何でまたあんな事した?」
 烏に詰問すると、「つーん」ってな感じでそっぽ向いて答えやしねぇし。
「お〜い、黙ってねぇでなんか言えよ〜」
「……むぅ」
「お」
 ぽんっと軽い音がしてカラスモードから人型モードにチェンジ。ふくれっ面して……なんか俺を睨んでますかな?
「おいおい、一体どうしたってんだよ?」
「……なんか、や」
「矢?」
「なんか、やなの。心理的にとか生理的にとかそういうんじゃなくって、なんかこう……、もっと根本的なトコから来る『嫌』なの」
「……じぇらしぃ?」
「ちぇいっ」
 サクッ!
「痛っ!」
「茶化すな〜! 馬鹿〜!」
 スコンっと俺の頭を一突きしてばっさばっさと逃げ出した烏。残された俺はぽかーんと見送るしかないわけで。
「……なんだかなぁ」
 

 ……とまあ、最後の晩餐は過ぎていきましたとさ。
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(c)Ryuya Kose 2005