- k a r e s a n s u i -

- ワールドリーダー 第十一話 -

 さて、時は流れて三日後。
「……いやぁ、圧巻だな」
「そうですね、異形も多い事ですし」
「たかが千人されど千人、か。頼もしいな」
「ま、なんつっても鍵を握ってんのはあんただからな、救世主殿」
「茶化すな、ロギアス。リトス様にはこれから一仕事していただくのだから落ち着かせてさしあげろ」
カインよ……そゆこと言われると余計緊張するんだが……。



ワールドリーダー第十一話



場所はティオノ中心の広場。中心に設置された一段高いステージの陰から覗き見をしているのだが……眼前には俺の両隣にいるカインとロギアスを除いた総勢千百十五名の異端者。先日を以って集結を完了した異端者達を集めてこれから決起集会が開かれるわけだが……。
「……やっぱ俺が演説しないと――」
「駄目です」
「駄目だ」
「あ、さいですか……」
 見事なシンクロ。何でも他の異端者の里にも救世主伝説は伝わっているらしく、何か俺エラい事になってませんか?ってな感じ。しかもこいつらに対して演説をぶたないといかんのだからもういっぱいいっぱい。
「……立てよ国民よ、とか言うわけにもいかんしな……。まあ、なるようになれだ」
「せめてなるようにして下さい……」
 泣き言は取り敢えず無視して壇上へ。
 二人を引き連れてステージ中央に立つと、さっきまでのざわめきはどこへやら。鎧袖一触……じゃなくて水を打ったようにとはこの事か。
「―――」
 ごくり、と唾を飲み込む。なに、今まで散々読んできたじゃないか。こういう場面で何を言うべきかぐらいは頭に入っている。
 ……と自分で自分を励ましてみたり。あ〜でももう俺は壇上に立っているわけで。後には引けないしもうやるしかないわけです、はい。


「ごほん……。良くぞ集まった、同胞達よ」
「皆は、異端の民として生地を追われ、愛する者を奪われ、この地にやって来た。寄せる絶望と軍勢は果てしなく、それでも頼り得る物は己の力。そして縋り得る物は救世主」
「聞けば、伝説に残る救世主は初めからいたわけではないという。集いし者の中からそれに至ったのだという」
「ならば、如何程の苦難にあろうとも、何を恐れようか!? 汝らの前に立つ者を見よ! 救いの主は既に在る!」
「救い、護る。その為に私はここに在る。ならば、世界をも救ってみせるは必定!」
「汝等も私も、ただ生きている。その権利は生きている以上絶対。ただこの世界に居合わせたが故に巻き込まれたというのなら、私は迫る死を拒絶しよう! 望み夢に見、そして願う物の為に護ろう! この身が在りながら護れぬなどという事は在り得ぬし、在り得る事など誰が許そうとも私が許さぬ!」
「汝等が願うはこの世界の未来。ならば、護ると誓おう! 違わずに、私は導こう!」
「我が名はリトス! 世界を読み、そして導く者なり! 共に輝ける未来を綴ろうではないか!」
「―――」

 
 ……夢を見ていたような、不思議な感覚がする。陶酔というのか何というのか、言葉が勝手に出て来たような。意外と俺ってそういう才能あったのかも知れない。
 ……とは言え聴衆のリアクションはと言えば。
『………』
 ……全く以って薄い。ないに等しい。これは、まずったんだろーかと思って振り向いてみれば。
「「………」」
 カインとロギアスも無言。呆然、と言うべきなのか。いやこれちょっと本当にまずったのか?

『……お』
 ……お?
『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』
「おぉおおおおおおおおおっ!?」
 なんじゃこりゃあ!? 溜めか!? さっきまでの沈黙は溜めだったのか!?
「……リトス様」
「なんだちょっと待て今呆然としている最中だ……って何でお前らまで平伏してる!?」
 予想外の展開ですよ?
「……いや、恐れ入りました。やはり貴方は救世主に相応しい」
「……ああ。最初ん時のあほっぷりが嘘みてぇだ……」
「え……なに、そんなに凄かった?」
「はい……。話し始めはそうでもなかったのですが、すぐに言葉に力が篭もっていると言いますか、鼓舞するような響きをもって聞こえるように……」
 ……なるほど、ひょっとしたらこの世界(物語)に於いて「救世主の言葉」ってのにはカリスマ性が付与されるっていう設定がされてるのかも知れん。後半部分は言葉が勝手に出てきた感じだったんだが、それもその設定に引っ張られたからかも知れないわけだ。……なんだか怖いくらいに都合がいいな。ここまで手を加えてあるなんて、これの世界の著者……若しくは先代の「登場人物」はよっぽど力が強かったんだろう。
「……その所為で矛盾や破綻もあるみたいだけど、と」
 歓声に右手を振って舞台を降りる。ヒーロー何だかアイドル何だか。まあどちらにせよ求心力を得たわけだから良しとしようか……。


 で、舞台裏での密談。
「……これで、心配事は一つ無くなったわけですね」
「ん? ああ、そうだな。つーかこれさえ乗り越えてしまえば後は大した問題はなかろうよ」
「あ? 何の話だ?」
 わかってなさそうなロギアス。……まあカインはその異能といい、どちらかといえば参謀タイプだから切れ者であるに越した事はないが……。
「……あのさ、いくら救世主だなんていっても、実際に支持されないと話しにならんでしょうが」
「……ああ! 要は認められなけりゃ誰も付いてきてくれねぇって事か」
「ま、そゆこと」
「ですが、あれほどのパフォーマンスを見せたのですから杞憂に終わったわけですね」
 ……そこまでべた褒めされるとむず痒い物があるんだが――
「事実なんだからしょうがねぇだろ」
 と一蹴。一種の教祖か何かになったみたいだ……。まあ、救世主伝説自体一種の信仰なんだからあながち間違いというわけでもないわけで。

「では、これから軍団編成を?」
「そうだな……。各個の能力を正確に把握し、ある傾向に極度に特化した部隊を編成した方がいいだろう。バランスよくしたって物量で劣るんだから効果的とは言えないだろう。それにゲリラ戦が主体になるだろうからな。例えば強襲部隊、援護部隊、撤退補助部隊といったように、迅速にヒットアンドアウェイを行えるようにするとか編成が終わったら、自己の能力を自在に使えるようになるまで徹底的に訓練だ。……ま、こんな感じか?」
「そうですね……では、そちらは私が担当しましょう。貴方はロギアスとともに戦場に適した地を探してきてはいかがでしょう。地の利は元より我々にありますが、それを更に強固な物にしない手はないでしょう」
 ……む。確かに。矢張りこいつは参謀向きだな。
「わかった。ついでだから色々仕掛けておこう」
「げぇ、トラップかよ……。趣味じゃねえな」
「好き嫌いで勝てる戦争か?」
 ……ま、実際俺が限界まで力振り絞れば何やっても勝てるだろうが……それは俺にとってリスクが高すぎるし……なんか、やりたくない。
「わーってるよ。ま、嫌でも真っ向勝負させざるを得なくなるだろうし」
「納得の仕方としてはどーかと思うが……まあそうだろうしなぁ」
 戦意があるのはいい事だし、まあ構わないだろ。
「うっし。んじゃ、行ってくるぜ。留守の間は任せたぞ」
「はっ」



 さて……早速ロギアスを連れてお出かけなわけだが。
「なあ。少数が多数を待ち伏せするのに都合のいい場所とか、思い当たるか?」
「あ? そうだな……」
 にやり、って、なんか急に楽しそうな顔になりやがって……。
「この森は、俺達にとっては庭も同然だからよ。子供ん時から遊び場だったんだ。秘密基地じみたトコから水場の場所まで大抵は頭ん中に入ってるぜ」
「………。そうか、そいつは心強いな」
 楽しそうにまあ……。子供ん時からって事は、つまり子供の時からここで暮らさざるを得なかったって事だろうに……。捉え様によっては辛い記憶なのに、それを前向きに捉える強さ、か……。
「――うらやましい、な……」
「? なんか言ったか?」
「――あ? ……いや、なんでも」
 ……なんか口走っちまったか……。集中集中。
「んじゃま、敵さんの斥候が来てるかも知れんし、隠密、緻密、綿密に行こう」
「あいよっ」

(了)
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(c)Ryuya Kose 2005