- k a r e s a n s u i -

- ワールドリーダー 第十話 -

……妙、だ。
何が妙って、あの烏だ。
……あれ、どう考えてもこの世界の「オリジナル」じゃない。性格が違い過ぎる。存在が違いすぎる。意図したものかどうかはわからないけど、多分、あれは「加筆」された奴だ。
この、俺みたいに。


この世界に於ける異分子。イレギュラー。異端。
果たして、それがこの世界の未来にどんな影響を与えるのか……?
………。
………………。
………………………。



「……駄目だ……シリアスは性に合わない……」
 




ワールドリーダー第十話




 がっくりと膝をつく。そう、OTL←こんな感じに。
「なに情けない事言ってるのよ……。でもま、らしいといえばらしいのかな?」
「生理的なものだ、勘弁してくれ……」
「はいはい」
 なんか、完全に上下関係が決まってしまったような気が。「彼女」といい烏といい、こういうタイプに弱いんだなぁ、俺……。
「ま、情報は色々いただけたからよしとするか」
「む〜、感謝の念が足りない〜」
「はいはい」
 不満げに口を尖らせる烏の頭を苦笑しながらわしゃわしゃと撫でてやる。
「わ、わわ、ちょ、ちょっとぉっ!?」
「わはは、照れるな照れるな」
「〜っ」
 顔を真っ赤にして何事か喚きながらも嫌がる様子は見せない。
くく、この方向でからかうとどうやら弱いみたいだ。今後の為に覚えておこう。


さて、烏から得た情報をまとめてみるとこうなる。
まず、この世界の文明のレベルは決して高くない。主要動力は人力や動物で、先進地域では蒸気機関が台頭してきているが、絶対数は少ない。ただ、ところどころで明らかなオーバーテクノロジーが見つかっているとか。といっても具体的な物はわからないが。超古代文明の遺産だ何だと一部で騒がれているらしい。件の「人形」ってやつがそれと関係してくる可能性もないわけではないだろう。某機動戦士とかが物語のベースになってたりしてたら、ちょっとかなり面白いかもしれないが……。
あと、異端者についてだが、これには千差万別あるらしい。所謂奇形児――指が一本多いとか――に知的障害といったものから、異能を所持しているものまで。両者は一応別物なのだが教団にとっては何の変わりも無いようで、ただの身体的・精神的特徴を持っただけの人達も「秩序に悖る」として処断されている。言ってしまえばとばっちりのようなものか。
そも、秩序って何ぞやと小一時間問い詰めたいところではあるが、主題はそこではないので放置の方向で。
次に、我等が異能の者達の総勢は、このティオノにいるのが百十二名で、世界各地から集まって来ている者達を含めると、最終的には千人ほどになるだろうとの事。
「千対十万か……」
 はっきり言って、お話にならない。
 別段戦闘訓練を受けたわけでもない者がいきなりの実戦で一人頭百人を相手にするなど無理無茶無謀。
「○双乱舞連発するならまだしも……百人抜きはちょっとなぁ……」
「ほらそこ逃避しない。……でも、みんな能力持ってるんでしょ? それで何とかならないの?」
「無茶言うなって……。皆が皆戦闘向きの能力持ってるわけじゃないんだから。それに、能力自体持ってない人達だっているんだから」
「あ、そっか。アルビノとか指が多いとか両性具有とか?」
「ま、そういうこった」
 実のところ、どれだけの人数が戦闘に対応できる能力なのかはまだ把握していない。
 していないが……。
「まあ、三分の一いれば万々歳だな」
「……それ、無理じゃないの……?」
「……そこはまあ、だからこその救世主なわけで……」
「あ、な〜るほど」
「リスク高いからあんまり戦闘とかはやりたくないんだけど……ただな」
「ん?」
「な〜んか……妙にやる気になってきたというか……なんかちょっとテンションおかしいかも知れないんだよな……」
「……そうね〜。これだけの事態だからね〜」
「……興奮とはちょっと違う気もするが……まあ、やる気になれてるってのはいいこっちゃ」
 その気になれば「世界を強引に書き換える」事だって出来ちまうんだし、真剣にやらんと命に関わるしな。
「さて、それじゃあ戻るわ。敵を知り、己を知ればってね、自軍の事をちゃんと把握してれば百戦危うからずらしいからな」
「三十六計何とやらってのもあるけど?」
「それは今回は却下」
 逃げてどうするよ。魅力感じてどうするよ。
「兎に角! ちょいと真面目にやらせてもらうぜ」
「まあ、私にとっては都合いいからいいけどね〜」
「そう思うなら応援してくれよ。んじゃ、色々さんきゅ」
「はいはい〜。それ〜」
 ばっさばっさと飛び去る烏。
……人間の姿をしていて、しかも腕を上下に振っているだけなのに飛べるのは一体どういうわけか。聞きたい気もするが突っ込むだけ無駄な気がするから敢えて堪える。そうそう何度も突っ込み入れてやるものか。
「……っと。直に一時間経つな。早く戻らにゃ」
 戻ってカイン達から報告を受けて戦力の把握をして烏から得た情報と併せて戦略戦術を練らないといけない。
「……忙しいなぁおい」
 愚痴を零しつつ、それでも自分が笑っている事は、まあ気付いている。
 つーか俺ってこんなに勤勉だっただろーか。
「……別にいーけどね」



「ソロモンよ、私は帰って来たぁ!!!」
「―――」
「はいごめんなさい」
 高らかな凱旋宣言もTPO外すと痛いだけですね、はい。
「――あ。え、え〜と、宜しいですか?」
「……はい」
 意識飛ばしてしまったか……。言い知れぬ罪悪感が、こう。
「バツが悪そうな顔をするくらいなら最初から普通に戻ってきて下さい……」
というカインの溜息交じりの苦言も正論。
だがテンション高いんだから多めに見て欲しいなと思ったり思わなかったり。
「……こほん。リトス様、こちらの戦力――殊に戦闘向きの能力所有者について色々わかりましたので報告を」
「あ、はいはい。……で、どうだ? 三分の一いたか?」
「……辛うじて、です。現在集結中の同胞達と念話で連悪を取り合っただけなので、絶対正しいとは言い切れませんが。主だったところではトランスフォームやサイコキネシス、パイロキネシス、未来視など……。能力以外でも獣人や鬼種、魔術師と呼ばれる者など……」
「総数は?」
「三百二十五、です。全員がこの地に集結しない限り精確な全体の数がわからないので何とも言えませんが、大体千人弱でしょうから、三割と言っていいでしょう」
「ふん……。そもそも千人しか集まらないって時点であんまり期待はしていなかったが……こんなものか」
「………」
「いいね。一泡も二泡も吹かせてやれるじゃないか」
「! そうですね」
 ……こいつ、さっきまで俺の事疑ってやがったか?
「心配すんな」
「は?」
「俺は今とんでもなくやる気だ。見事、救って見せるよ」
 にやり、と不敵な笑みを浮かべてやる。
「――は、はいっ」
 あ〜あ、嬉しそうな顔しちゃって。烏といいこいつらといい、親しみやすいねぇ。
「どれ、じゃあ仲間の到着を待って軍団編成をし、然る後に戦略を立てて実行といきますか」
 さて、著作・俺、主演・俺の一大英雄譚の幕開けだ。
 処女作で初舞台なのに、そんな感じは全然しない。意外と、俺って「読者」としての才能あんのかも知れんな、とか思いつつ。
 後でまた烏に会いに行こうかな、とか暢気な自分もいたりするわけで。
「……?」
 クリアな頭とは別に、胸のうちは不思議に曇っているような、そんな感覚を抱いていた。

(了)
戻る
(c)Ryuya Kose 2005