- k a r e s a n s u i -

- ワールドリーダー 第八話 -

 ………。
 え〜、私は今、この迷い子の里の神殿に来ています。集まった皆さんは、皆緊張した面持ちで一点を見詰めています。非常に緊迫した、しかし決して悪い物ではない空気が満ちています。何と言いましょうか……期待が張り詰めている、といった感じでしょうか。
「……俺、苦手なんだがこういうのは……」




ワールドリーダー第八話




 大勢に見詰められて、しかも救世主扱いだぞ? 俺はどこぞのアンダーソン君じゃないんだぞスミス。それにここはザイオンじゃない。
「………」
 つか、スミスって誰よ。ザイオンってどこよ。見事に混乱してるな俺。
「……ふぅ」
 まぁ、こういう役どころなんだから仕方が無いか。設定である以上は足掻いても仕方が無い。
 それにまあ、一時間に及ぶ説得の末にどうにか「救世主さま」と呼ばれる事は回避出来たわけだが……。
 救世主という肩書きがあればそれで呼んでもらえれば済んだのだが、拒否した以上は別の名を考えねばならないわけで、それも結局――
「ん〜、じゃあリトスで」
 とかって非常に投げやりに決めてしまった。因みにリトスはStoryのアナグラムだったりする。ま、アナグラムって程大層な物じゃないが。
 そんなこんなで、今俺はこの世界がおかれた状況について説明……というか上奏を受けている。
「世界中には、ここの様に元の住処を追われた者達が住む集落が数多くありました」
「……ありました、か」
「はい」
 沈痛な面持ちでカインが頷く。
「八十八箇所あった異端の村は、この村を残して全て滅ぼされました」
「………」
「かろうじて生き残った者達は、現在この村に向かっているはずです。そういう取り決めになっていましたから」
「……伝説、ってやつか」
「はい」
 


 ――伝説。
 この世界の異端者達の間に古くから伝わる神話。
 いつの時代かはわからないが、少なくとも遥か昔。今と同じ様に異端者狩りが行われていた。世界中にあった隠れ村は次々と滅ぼされ、遂には一番大きな隠れ村、ティオノを残すのみとなった。ティオノには、辛うじて生き残った異端者達が終結し、最後の抵抗を試みようとしていた。だが、如何に異端者が超能力を有していようとも、絶望的なまでの戦力差は如何ともし難い物であったし、何よりも異端者同士での統率が取れていないため、纏まった抵抗をする事が出来ずに少しずつ追い詰められていった。
 だが、そんな折に現れたのが、一人の次元違いの能力を持つ異端者だった。信じられないほど強力な力を持つその男の下に異端者達は統率され、迫る二十万の世界中から集まった異端狩りの軍勢を退けたのである。男は軍勢を退けた直後に行方不明になったのだが、その偉業は神話として永く語り継がれ、そして今日に至るのである……。

「……? ちょっと待て。それだけなら俺がその救世主を投影されるには不十分だろ。超絶的な能力者だったら他にもいる可能性があるだろーに」
「ええ。ここまででしたら確かに。ですが、ここで重要となってくるのが……」
 言いながら後ろを振り返り。
「この、少女なのです」
「???」
 いや、そんな事言われてもさっぱりなんだが。
「先ほどご説明しました神話は、飽くまでその救世主様ご自身のなさった事のみでして、実はまだ続きがあるのです」
「……どんな?」
「はい。救世主様がいなくなってすぐに、ティオノの村に少女が現れました。人々が尋ねると、少女は「救世主を待っている」、と答えたそうです。眠りもせず食べもせず、ただ待ち続ける少女は時折烏の姿になり救世主を探して飛び回るのです。人々は、いつの日か再び自分たち異端者に苦難が降りかかるのだという事を覚り、少女を巫女として奉り、救世主を誘うのを待ち続けた……と、伝えられています」
「……なるほど、ね」
 つまりはその烏が連れてきた俺が今回の救世主ってわけか。
「合点がいった。ならば俺が救世主なのは当然なのだろうな」
「はい。……我々は、心待ちにしていたのです。我々では、最早どうすることも出来ない状況にまで追い詰められていました。ただ伝説に縋る事しか出来ぬ事を悔しくも思いながら、それでもきっと……、と」
 思わず溢れた涙を拭うカイン。見ればロギアスも護衛三人衆もその他諸々も涙してる。
「……わかった。これも運命っていうかむしろ設定なのだろう。この俺が、見事お前達の救世主になってやる」
 力強く宣言した俺に、滂沱する皆さん。ま、設定である以上は仕方のない事だし、なにより彼女と一緒に居続ける事の絶対条件がこの物語の完結なのだから。
 救世主だろうが破壊神だろうが、何だってなってやる。

 そう決心してみると、何だかやる気になってくる物でカイン達との連帯感みたいのも生まれてくる。なんだか、とても心地いいというか、そんな空気が満ちているのを感じる。


 ……んで、そんな中で。
 のーてんきにニコニコしながらこっちを見ている件の烏少女がいるわけなのだが。
 ………。
「なあ、カイン」
「はっ。何でしょうか」
「……さっきの話で聞く巫女の少女と、この――」
 と言いながらちんまい少女の襟首を掴んで持ち上げる。
「――ちっさいのとって、どーにも同一の存在とは思えないんだがなぁ……」
「……それは……」
 ……いや、そこでお前に口篭られても。
「し、しかしこの方が巫女の少女である事は確かなのです。なにしろ、三つ目の烏に変身する事が出来るのですから」
「ふむ……」
 じぃ、とちっさいのを見詰めてみる。
「じぃ………」
 む、なにやら相手も見詰めてきた。当然視線は交錯するわけで。
「「じぃ……」」
「むむむぅ……」
「むむむぅ……」
 ………。
「……ふっ」
「……ふっ」
 ガシィッ!
「You are my friend!」
「Me too!」
――友・情・成・立・!――
 ウィンクをしながらがっちりと固い握手。嗚呼、何か青春って感じ?
「ってちょっと待って下さい! 二人の間で一体何が!?」
 おお、冷静なカインが遂にツッコミを!
「成長したなぁカイン」
「何の話だよっ!」 
 スパァン!
「痛っ! ロギアス、お前はドツキツッコミ派なのか」
「どうでもいい!」
「素早いな」
「〜〜〜っ!」
 ……まあ、お遊びも程ほどにしておくか。
「話を戻すが、別に何があったってわけじゃなくてな。単に目を見て気が合いそうだと思っただけだ」
「そ〜ゆ〜事だね」
「「………」」
「んぅ? どう〜したの二人とも?」
「……いや、そーいやあんた普通に喋ってるじゃん。巫女だ何だって崇めてた相手が、こんな能天気な喋り方したら、そりゃ呆けるだろ」
「ん〜? そんなもんかな?」
「そんなもんだ」
 こうして二人の間で話は完結したわけだが、呆然としたままの者が約二名。……と思ったら目撃した人物全員がぽか〜んとしてやがる。
「……偶像も大変だな」
「そんな事言われてもな〜。何かの縁だから、ってだけで連れて来たつもりだったのに……」
「あん? じゃあ神話とやらとは関係ないのか?」
「ん? や、どーだろ。私は少なくとも数千年単位で存在してきたから、最初の頃の事なんてとっくに摩滅しちゃってるわよ。……それでもこういう行動に出て、結果がこうなったって事は、私自身が忘れていても私という存在自体は覚えていたみたいね。偶然すら必然に変えるほどの、何かを」
「……そうか」
 しんみり。
 う〜ん、こいつとは相性がいいみたいだな。これなら俺が救世主の再来だ、ってのも、まあ悪くないと改めて思わされたり。
「それじゃ、もう私は行くわね。普段はここにいるから何かあったら来て
くれればいいから」
「あ? どっか行くのか?」
 そう問うた俺に、笑顔を向けて。
「散歩よ。貴方とであった偶然をなぞりに」
 一瞬にして見覚えのある烏に化けると、彼女はバサバサと飛び去っていった。
 それを俺は見送り――
「さて……いい加減正気に戻ってくれないかな……」
 未だにアホ面晒している皆様を省みて溜息を吐いた。


(了)
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