- k a r e s a n s u i -

- ワールドリーダー 第七話 -

 ……烏の話だと、もうちょっと来訪者には寛容なはずなんだけどなぁ、とかなんとか思いながら、後ろ手に縛られ、更に念動力と思しき力で身動きをほぼ完全に封じられた状態で衆人環視の中で正座させられている俺。
 ……ああ、なんか見られててぞくぞくする感じ……っ。

「……って、んなわけあるかぁあああああああっ!!!」
「うるさい黙れ」
「はいごめんなさい」




ワールドリーダー 第七話




「いきなり絶叫しだすとは……こいつ、やばいんじゃねえのか?」
 さっきとは違う目付きの悪い長身痩躯の男がぼやく。つか、余計なお世話だ。ちょっとばかり錯乱してるだけだ。
「いや、しかしこの場所に辿り着けたという事は、この者も迷い子かも知れん」
 おお、さっきのし掛かって来た黒尽くめの騎乗位好きなお方! わかってらっしゃる!
 ……騎乗位?
「がはあっ!」
「うおっ!? いきなり吐血しやがった!」
「い、いや、自分の脳内発言にダメージを受けただけだ……」
「「………」」
 俺の目の前で俺の素性について論議している二人が互いに顔を見合わせる。
 ……あら。呆れられたか?
 そんな俺の心配を知ってか知らずか、今度は俺の顔をじぃ……っと見詰める二人。取り敢えずウインクを返してみる。
「「………」」
 ……可哀想な人を見る眼で見られたですよ?
 ……しまった。せっかく好感度を上げようと思ったのに、選択肢を間違えたか? 他の選択肢は……。

・白目を剥く
・眼球を高速回転させる
・寄り眼にしてみる

 ……どうして錯乱時の俺の選択肢にはこんなのしかないんだ? 
 段々悲しくなってきた。
「……まあ、俺等に危害を加えるような奴ではなさそうっちゃあなさそうだな。……別の意味で危険人物っぽいけど」
「……同感だ。特に後半部には」
 ……物凄い言われようなんですけど。まあ、自分の言動を省みれば当然なのだが。
 つか、考えてみれば俺が必要以上に慌ててた……と言うか、楽しんでたからいけないんだよなぁ。どうやら住民の皆さんも俺の事を闖入者であって侵略者ではないだろう、という風に見てくれてるみたいだし。
 ……その代わり、俺が馬鹿じゃないって事を証明するのが厳しくなった気もしないじゃないけど。
「……ま、いいか。お〜いお二人さんよ。ちょっと俺の話も聞いてくれないか?」
 俺の主張に怪訝な眼を向ける長身痩躯の男。つーかやめろ、そんな眼で見んな。
「あ? 馬鹿の言う事にわざわざ耳を傾けろってのか?」
 しかもなんて暴言!
「馬鹿って言うな! 単にいきなり拘束されて衆目に晒されてちょっと錯乱してただけだ! こんな大勢の前に出るのなんか――」
「……出るのなんか?」
「……な、慣れてないんだから緊張しちまうだろ!」
 数百年振りとは流石に言えず。一応俺はこの世界の登場人物なのだから。
「……うむ。此奴の言う事にもまあ一理ある。ロギアス、話を聞いてやろうじゃないか」
 ロギアス? あの長身痩躯男の名前だろうか。
「あ? マジか?」
 返事をしたって事はそうなんだろうな。……にしてもガラ悪いなこいつ。どっちかっていうと苦手なタイプだなぁ。
「ああ。何よりも、ここはそういう場所だろう? 異端者とされて居場所を無くした者達の流れ着く場所。ならば、ここに置いてやるのは急ぎすぎだとしても、話を聞いてやるのは全くもっておかしい事ではない。それに……」
 一呼吸を入れて目を瞑る。再びその眼が開かれた時、そこには明らかに憎悪の炎が宿っていた。
「……それに、事情も何もかもを聞く事無く、一方的に処分しようとするのは、奴等と同じだ。そんな事は、私は絶対に許せん……!」
「………」
 暫し、場を静寂が支配する。
 俺はその言葉に籠められた怒りの強さに気圧されて。
 ロギアスという名の男を筆頭としたこの地の住人等は……きっと、自分達が味わってきた苦難と屈辱を胸の中で思い返して。
 誰も、言葉を発しなかった。
 
 ――否。発せなかった。

 「他とは違う」
 ただそれだけの理由で、異端として忌み嫌われ、住み慣れた地を追われ、抹殺の対象とされる。いつぞやに読んだ「魔女狩り」とかいう奴に似ているだろうか。
 この集落は、そういった住む場所を無くした異端者達が辿り着く場所なのだと、烏は言っていた。この場所でのみ、彼らは異端者ではなくなり真っ当な存在として生きる事を許されるわけだ。
 とは言え追い出した側からすれば、自分達に恨みを抱えた「何かおぞましい奴ら」が群れて暮らしているなんて、恐ろしい事この上ないだろう。   
 故に今でも時折大軍勢で異端狩りを行っているらしく、その目を逃れるためにこうして結界を張り、木々に隠れてひっそりと暮らしているのだ。
 その苦難の日々、俺の想像なぞ及ぶところではなかろう。
 
 とは言ったものの、俺は根っからの異端である事に変わりなく……まあ、過去に入った事のある本でそれなりに嫌な目に合った事も無きにしも非ず。
 理解出来るなどとは口が裂けても言えないが、なんとも言えない感覚を、俺は覚えた。

「……そう、だな……」
 重々しい沈黙を破ったのは、心底ばつが悪そうな顔をしているロギアスだった。
「怪しいから不審だからってんじゃあ、あいつらとなんも変わんねぇな……。オレら、そもそもそれから逃れるためにここに来てんだもんな」
 つい、と俺に真っ直ぐ伸ばした右腕を向け、握っていた拳をパッと開くと、俺の体を拘束していた見えない力が霧散した。
「ん……」
 軽く手足を動かしてみる。
 ……ん、問題ない。
「……感謝するよ。さっきは醜態を晒して済まなかった。もう落ち着いたし、真っ当な話をする事が出来るよ」
「ふん、どうだかな」
「………」
 俺の言葉に対して対照的な反応を示す二人。方やまるっきり信用してなさそうなロギアス。方や俺の目を見詰めた後、若干口元を綻ばせながら静かに頷く黒尽くめの男。
 ……まあ、どうにかなりそう……かな?
 そんな感触を抱いていると、黒尽くめがふと何かに気付いたかの様に眼を軽く見開き、ずいっと俺の前に進み出てきた。
「……何か?」
 ちょっと怯みながら聞いてみる。すると彼は申し訳なさそうな表情を薄く浮かべ、軽く頭を下げる。
「未だ名乗っていなかった無礼を詫びたい。我が名はカイン。この集落の纏め役を皆から仰せつかっている」
「あ……こりゃまたご丁寧にどうも」
 軽く拍子抜けしながらも、こちらも一礼。つか、こういう展開が来たって言う事は当然……。
「ところで、其方の名は何と?」
 ――と来るよなぁ……。
 ……さて、参ったな。考えてみれば俺には名前が無い。
 ――誰もつけてくれなかったから……などという事は無く、単に興味と必要が無かったから、有るのか無いのかすら知ろうともしなかった。
 基本的且つ絶対的に、俺は「彼女」と二人きりで存在している。故に互いを呼ぶときに名前を呼ぶ必要も無く、それを知る必要も無かった。
 だがしかし、今現在俺は名前が必要である。まあ、黙っていれば言えない事情でもあるのだろうとか勝手に察してくれるのだろうが、それはそれであんまりおいしくない。隠し事は少ない方が信用されやすいだろうから。      
 まあ、なんでも開けっぴろげってのも逆に胡散臭いが。
「……名乗れませんか?」
 いやいや待て待て。せっかちはいかんぞせっかちは。急がば回れ、待てば回路の日和あり、だ。……ちょっと違うか?
「おいおいアンタ、オレらが名乗ってやったってぇのに名乗らねぇつもりか?」
「いや、そういうわけではないんだがな……つかお前は名乗ってないだろ」
「聞いてたんだろ? ならいいじゃねえか」
「……さいで」
 さて、ほんとにどうしようか……?
「……まてロギアス。彼にも事情があるやも知れん。名乗れぬ理由など幾らでもあるだろう。……そも、名乗る名が無き者など、此処にもいるだろう?」
「そりゃあそうだがよ……」
 むぅ、助け舟を出されてしまった……。まあ、名前が無い(というか覚えてない)のは事実だから……まあ別にいいか。
「あ〜、と。カイン……さん?の言うとおりでな、名前が無い……というか知らないんだ。だから名乗りようがない」
「そうでしたか。知らなかったとはいえ、失礼した」
 ぺこり、と一礼するカイン。なんか「此奴」呼ばわりから「彼」に昇格してるし。きっとこいつは誠実な奴なんだろう。
 ……その誠意に応えないのは野暮だな。
「いや、打算して口籠った俺も悪かった。答えられなければ何か隠し事をしていると思われるんじゃないかと杞憂したからなんだが、それこそ杞憂だったようだな。こちらこそ失礼した」
「……けっ、つまんねぇ打算なんかすっからだよ」
「ああ。本当につまらなかった」
 小馬鹿にしたような口調――まあ、実際したのだろうが――で口出ししてきたロギアスに、軽く笑みを浮かべて真っ直ぐに灰の瞳を見詰めながら言ってやると、ロギアスは毒気を抜かれたように一瞬間の抜けた面を晒し、
「……ふ、ふん。わかってんじゃねぇか」
 と視線を逸らした。
 ……単純実直馬鹿。ま、これで少しか認められたかな?
「ところで……客人殿。名がない、との事であるが、ならばどうお呼びすればいいかな?」
「ん……。それだよな、呼び名がなきゃ不便だろうし……。なんか適当に付けるか」
「あ〜、おいコラそこの名無しさん」
「ん?」
 ちょいちょい、と後ろからロギアスが方を突っついてくる。
「何だ?」
「名前は取り敢えず置いといてよ、あんたの素性及び此処に来た経緯を説明してくれよ。なんかいつの間にか話がずれてるんだがよ。あんたが取り敢えずは敵意がない事は大体窺えるが、それでも此処に来た事の理由ぐらいはきっちり説明してもらわにゃ。オレらは日陰者なんでな、警戒心が強いのよ」
「その割にはずいぶんと無防備な会話を交わしていた気が……」
「う、うっせーな! 確認とりてぇだけだよ!」
「……という事だが、構わないかな?」
 振り返りながらカインに問うと、彼は
「……まあ、そうしようか」
 と苦笑しながら頷いた。


「さて……」
 集落の奥まった所にある、他より一回り大きな建物に通された俺は、木張りの床にカインとロギアスに向かい合う形で座り込んでいた。
 二人の背後には、野次馬と思しき人だかりが十四、五人ほど。俺の背後には俺の監視――と言うほど厳しくはないが――とカイン達の護衛のための若者が三人。
 計二十人ほどに囲まれているわけだが、この程度ならそれほど緊張はしなかった。
「え〜、と。どこから話せばいいのか……」
 ……さて、どこまで話せばいいのか……。
 説明するにしても、俺には説明できる内容に制限がある。

 彼らは俺にしてみればこの本[世界]の住人である。
 本、と言ったが、これはこの世界が本であるという事を知りえる存在、つまりは一つ上の階級の世界の住人である俺の解釈だ。
 対してカイン達はこの世界を純然たる世界として認識している。ゲームの中のキャラクターが自分がゲームのキャラクターである事を知らないように、彼らも自分達が物語の登場人物であるという事を知らない。
 と言うより知る事が出来ない。作者がそう法則付けているからだ。物語の登場人物が自分の存在に疑問を持ってしまったら、その物語は破綻してしまう。
 同様に、カイン達も自分達が物語の登場人物であるという事を知る事は出来ない。
 しかしながら、俺は今この世界に存在していながらこの世界が本である事を知っている。そして皆に知らせる事も出来てしまう。何たって、俺は作者でもあるのだから。
 そして作者は物語の創り手。いわば神様である。んで神様が「お前は俺の作った物語の登場人物に過ぎないんだよ」なんて言おうものなら、言われた奴は本当に自分の存在を「世界の住人」から「創作された物語の登場人物」に堕としてしまい、「その世界の住人」という枠から弾かれ、結果として存在出来なくなり消えてしまう……らしい。
『登場人物は、その存在の軽さ故に、自身が登場人物に過ぎないという事実の重さに耐えられない』
 ……とは「彼女」の弁だ。

 因みに言うと、枠から弾かれた時に上位世界の人が上の世界に引っ張り上げてやると、その弾かれた奴は俺達みたいな「読者」または「作者」に昇格出来るらしい。「彼女」に引っ張り上げられた俺がその具体例なわけだ。

話が脱線したっぽいが、要するに彼等に彼等が本の登場人物である、と教えるような事は出来ないのだ。ましてや俺は「引っ張り上げる」事は出来ない。
 無闇に人殺しはしたくない主義なので、「上から来た」って事はお教えするわけにはいかないのですはい。


 さて、それじゃあ真実九割嘘一割で行くか。
「そうだな、まず俺の素性だが……どこから来たのか、っていうのが自分でもちょっとわからん。そもそも俺にはこの世界というか風景とかに見覚えが無いんだ」
 ま、どこから来たのかという事だけ伏せておけばいいんだし。
 ……厳密に言えば、この世界に見覚えが無い、ってのも事実とはちょっと異なるんだよな。初めて来たはずなのにどこと無く見覚えがあるような気するし。
「……続きを」
「ああ。気付いた時には、ここから……かなり遠く離れた所に立っていてな。取り敢えず移動しようと思って木の上まで登って――」
「――ちょっと待て」
「ん?」
 何だろう。ロギアスが疑いの眼で俺を見ている。
 ……何だ? 俺、最初の奴以外全部ほんとの事話してるぞ?
「……お前、木の上まで登ったってのはマジか?」
「? ああ、そうだが?」
 そう答えると、ロギアスは「はっ」と鼻で笑い、カインはしかめっ面をした。
「……何だよ。失礼なやっちゃな」
「失礼も何もあっかよ。てめぇみてぇな貧弱な奴がこの森の木の天辺まで登るだ? 冗談、お前に出来るんなら大抵の奴に出来るぜ」
 ……あ。そっか、俺制限外してたっけ。
「……でも、あんたらも何らかの異能者だろ? だったら、何も疑問に思う事なんか無いだろ。ロギアスはサイコキネシスだろ? それに、あんたら全員俺が此処に来る事を事前に察知してたみたいだから、誰か未来予知かクレアボイアンスか持ってるだろ」
「………」
「何と……」
 おお、ロギアスは別として今まであんまり表情を変えなかったカインが眼ぇ見開いて露骨に驚いてる。
 ……って、おや? 何かカインの奴眼球が……。
「……いや、驚いた。確かに、この里にいる者は皆何かしら特異能力を持っていて、そしてそれ故に忌み嫌われここに辿り着いたのだ。察しの通り、私はクレアボイアンス――千里眼の持ち主だ」
「あ、やっぱり」
 何か他の人と目の作りとか色が違うなと思ったら案の定か。
「……いやいや待て待て! って事は何か!? お前も能力者なのか!?」
 何もそんなに驚かなくてもいいだろうロギアスよ。
「まあ、そういう事だ。俺が出来るのは……何というか、その世界での常識を無視する事……かな?」
「何? よく意味がわかんねぇぞ?」
「む……。じゃあ具体例を挙げよう。ロギアス、常識的に考えて、ジャンプして木の天辺まで行けるか?」
「あほかお前は。んな事出来――まさか」
「そういう事だ」
 にやり、としてやると、ロギアスは呆気に取られた様に口をあんぐりと開いた。カインも、やはり動揺は隠せない様だ。その他諸々の皆さんも同様に衝撃を受けている様子。まあ、無理も無かろう。

 俺に限らず、「読者」っていう存在は今いる世界の常識や法則、つまり本の設定をある程度無視出来るのだ。
 しかし、あまりに設定から掛け離れると世界から修正が掛かって存在出来なくなってしまうという難点がある。
 とは言え大抵の場合は修正が掛からない程度の設定無視で切り抜けられるから、卑怯というか反則というか。
 まあ、文字通り「次元が違う」のだから仕方ないのだが。

「……って事は何か? 最低でもこの世界で常識とされている事以上の事は出来るって事か! こいつは驚いたぜ……。いる所にはいるんだな、そういうのって……」
 心底驚いた顔をして俺をしげしげと眺めるロギアス。思ったよりも普通の反応だ。まあ、自分達が自分達なだけに、規格外に対して寛大に出来てるんだろうな。
 ……と感心していると、
「………」
 というやけに静かなカインの姿が目に入った。
「カイン、どうかしたのか?」
「……あ、ああ。いや、何でもない。……それよりも、話が脱線してしまったが……」
 ……明らかになんかあるだろうに。まあ、別に構わないが。
「あ〜、と。どこまで話したか……。そうそう、木の天辺まで、って所だ。んでまあ、どっちの方向に行こうかと思案していると、どこからとも無く三つ目の烏がやって来てな、そいつからここの話を聞いて――」
 
 ――ぴしり、と空気が変わった。
「……三つ目の烏、だと……?」
「? ああ、そうだが」
「本当だな! 嘘や冗談じゃねぇだろうな!?」
「なっ、ちょ、ちょっと落ち着け!」
 俺の言葉を聞くや否や、ロギアスは俺に掴み掛からん勢いで、しかも目を血走らせて問い詰めてきた。
 見れば、カインもただならぬ様子……というか、放心状態になっているし、俺の背後にいた護衛の奴らもカイン達の背後にいた野次馬達も、一様に血相を変えて何事かを囁きあっている。
「……ロギアス。神殿に行って彼女の様子を見て来い。事実なら何か変化があるはずだ。それまで皆は落ち着いて待っていろ。まだ確証は何もないのだ」
 放心していたカインがまず冷静さをどうにか取り戻し、ロギアスに指示を飛ばし場の収拾を図る。
「……っ。わかった、すぐに見てくる……!」
 そこはカインの人望か皆の切り替えの速さか、騒然としていたロギアス以下は取り敢えずは落ち着きを取り戻したようだ。
 とは言え、それこそ風のような勢いで出て行ったロギアス、顔を紅潮させたその他の面々は表面を取り繕っただけ、それにカインもどうにか冷静さを保てているといった程度。明らかに雰囲気が変わっている。それもよい方向への緊張のようだ。
 そんな空気の中で。
「……で。一体何がどーなってるんだ?」
 渦中で真中にいるはずなのに全く事情が掴めていない俺だった。

 ロギアスが出て行ってものの数十秒。風のような速さで出て行ったロギアスは、光のような速さで戻ってきた。
「……どう、だった? ロギアス?」
 自分を落ち着かせるように一字一句慎重に言葉を発するカイン。荒い息を隠そうともしないロギアスは、その問いに対して後ろに回していた右腕を……精確には、その右腕に抱え込んでいた少女を差し出す事で答え――って、
「なんだそりゃあ!?」
 女の子ですよ女の子。そんなものを持ち運んでたらそりゃあ驚きますって。
「おいおい。これどういう「やったぞ!!!」……事って誰も聞いてねえ……」
「遂に……遂にオレ達の代で……っ!」
「やっと……報われる日が……っ」
「! おい見ろよ! ロギアス様が抱えてるあれ! あれってやっぱり……!」
「ほ、本当だ……。ああ……これで私達は……」

「………」
 俺、蚊帳の外なんですが。
 ロギアスも護衛達も野次馬達もなんか狂喜乱舞してるんですが。
 ロギアスが連れてきた少女が関係してるんだろうが……一体?
「なあおいカイン! 一体何がどうなっているんだ?」
 大騒ぎをしているロギアス達とは対照的に感慨深げに静かに涙を流しているカインに尋ねてみる。
 ……つか、泣くほどなのか……?
「……っ。こ、これは申し訳無い。ですがどうかお許しを。彼らは……私もですが、今日という日を……、いや、貴方という方がいらっしゃる日を何年も、何十年も何百年も待ち焦がれていたのです!」
「……は?」
「貴方は……いえ、貴方様は我等異端の民の救世主でいらっしゃるのです……っ!」
 ………。
 ………………。
 ………………………。
「はぁああああああああ!?」


(了)
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