- k a r e s a n s u i -

憑依老人は小銃Tueeeee!の夢を見るか

 ――上杉家、テキサス・MAZO国境に兵力を集中させつつあり――

 ここ数日、織田家の市中の話題をさらっている噂である。
 織田家と上杉家は、包囲網の件もあり関係はかなり悪化しているが、それでも未だ宣戦布告には至っていない。しかしながら、この上杉家の行動は織田家との開戦準備であると捉えられてもおかしくはなく、また上杉家の強大さもあって予断を許さない状況となっていた。
 自然、織田家家中の注意も市井の民の意識もそちらに向く事になり。



 ――京――

「結果として、儂らが動きやすくなる、というわけじゃな」
「説明乙」
「……気にしないわよ。ええ気にしませんとも。いい加減慣れてきたし」

 そこうるさいよ。
 とにかく。丹波へ向けて出発した儂らではあるが。その道程は勿論容易なものではない。以前逆のルートで丹波から京を経由してテキサスに入った時よりも、遥かに警戒は厳しくなっておる。ま、戦争になったから当然じゃの。
 加えていえば、儂は織田家から手配が回っておる。呑気に人通りの多い所をうろついてたら、あっという間にお縄→獄門のコンボじゃ。
 そこで、既に織田との決別を決定した上杉がこれのサポートをしてくれる事となったわけじゃな。
 前述したように、宣戦布告はまだじゃが、もう一触即発の状態なんじゃ。動員の動きを見せれば織田も対応せん訳にはいかん。言い訳も武田に対する準備行動だったと強弁する事が出来るしの。
 後は儂らが適度に人目に付かない行動を心がければ、じゃな。

「それにしても、種子島。結構頑張るのね」
「そりゃあまあ、火力が違いますからねー。あと防御陣地とかも旦那様が仕込んでますから」
「柚美も活躍してる。柚美、成章がいっぱい教えた。だから強い」

 そらなぁ……本来ならこれから何年何十年と掛けて練磨されていくはずの戦術技術を先取りして仕込んだわけじゃんからなぁ。装備はともかく、技能でいえば大したもんじゃと思う。思うが……。

「……成章、うれしくない?」
「! ……そら、なぁ……時代とはいえ複雑じゃよ……」

 手を汚させたくはなかった。危険に晒したくなかったというのが正直な所じゃ。
 ……ま、エゴじゃがね。それにさっさと介入して織田を引かせればいい訳じゃし。



 兵たちはある程度分散させた上で、特定のポイントで再度合流する手はずになっておるので今は儂らだけ。なので結構な強行軍で進んできたんじゃが、いい加減疲労も溜まってきておるので、峠の茶屋で休憩する事となった。勿論、苦労して用意した種子島家の息の掛かった茶屋じゃ。

「あー、茶が美味い……」

 渇いた喉に染み入るわい……。麻耶も虎子殿も、火鉢も草津もお茶を飲み、団子を食べて一心地ついておる。気は急くが……今は茶屋の主人、つまり種子島の諜報員が、警備情報などを纏めてくれとる最中じゃ。それまでは待機というわけじゃな。
 草津がふら〜っと歩いてったのはそんな時じゃった。

「ん? どーしたんじゃ草津や」
「……なんかいる」
「んん? ……あ、ほんとじゃ」

 茶屋からちょっと離れたところで、ござを敷いて座っとる少女。うん、輝くおでこといい幼女が一人というシチュエーションといい、存在感抜群じゃね。

「ん? なんだ、募金してくれるのか?」
「ぼきん……?」
「ほお、まだ幼いというのに募金活動に勤しむとは。感心感心」

 見れば、少女の横には『尼子復興募金にご協力下さい』との張り紙がされた樽。ふむん? 復興募金とな……って、あら何故か少女の広ーいデコに井桁が。

「か、開口一番に失礼な! これでも私は二十歳だ!」
「この切返しの手慣れた感じ……これは本当ですねー」
「あ、判断基準そこなんだ……」
「な、ななな、失っ礼なー!?」

 ……うん、これだけ見てると儂らの方が子供っぽく見えるね。まあそれはさておき。

「あいや、これは大変失礼した。お詫びと言ってはなんじゃが、ほい、ちゃりんとな」

 樽の中へ金5ばかりを投入。

「おお、い、いいのかこんなに?」
「ええ、まあ……。大名家の復興となると相当の資金が必要となりましょう?」
「う……ほ、本当はここまで窮乏はしていなかったんだ。ただ……しゃ、借金を返済したら資金が尽きてしまって……」
「Oh...」

 え、普通はそこら辺まで考慮して資金繰りしねぇ?
 と思ったら、法定限度額のギリッギリを攻めた高金利で爆沈したとか。いやもうなんか「うわぁ……」としか言いようがない。

「ううっ……借りないぞ……もう絶対借りないぞ……」
「……うん、その、なんだ。このお茶はサービスじゃから、まず飲んで落ち着いて欲しい(´・ω・`)」

 うん……儂が水を向けて泣かれてしまったわけじゃから、ねぇ? すごく申し訳ない気持ちで一杯なんじゃよ。
 年齢の件の無礼も含めて、一服奢らせてもらう事にしようかの。



「成る程……。主家再興の為に、ですか……」
「ああ。それが臣下の務めというだろうもの」
「だそうですよ旦那様」
「開発したいだけの誰かさんとは違うわね」

 そこうるさいよ。
 うん。物乞いしておられた少女にお茶を飲ませて落ち着かせると、まあ節約生活のせいもあってか、腹の虫が泣き出したので団子も提供。申し訳なさそうにしながらも手が止まらなかったところを見るに、大分切り詰めた生活だったんじゃろなぁ。
 で、まあ腹がくちくなれば落ち着いても来るわけで。素性は伏せた上で自己紹介をし、少女……山中子鹿殿の話を聞かせてもらっておったわけじゃな。
 何でも、主家である尼子家が毛利家に滅ぼされ、以後は残党を率いて主家再興に協力してくれる大名家を探して全国各地を回っているとの事。
 なんともはや、忠義の鑑じゃね。不幸じゃが。
 だって回った大名家のいずれにも断られ、しかも先々で騙されて……もう聞いているこっちもいたたまれなくなるほどじゃ。

「……それで、資金が尽きてしまわれた、と……」
「ブルーペットですからねぇ……なんともはや……」
「ぅう……。と、とにかく、それで傭兵を雇えなくなってしまったから、何とか我ら十名だけで売り込める先を考えて……織田と合戦中の種子島に行く事にしたんだ」
「! ……ほう、種子島、ですか……」
「ああ。今の種子島の窮状を見れば、我ら十名だけでも売り込む余地はあると思ったからな。それに、織田には以前協力を断られているんだ」

 成る程、確かに。種子島が不利なのは否めんから、そちらに売り込むのは、まあ道理じゃな。しかも希少な陰陽術を使える人材。重彦殿なら受け入れてもらえると思ったんじゃが……?

「……断られたんですか?」
「いや、断るも何も……」

 麻耶の疑問に対してはふ、と大きく息を吐いて。

「流石に既に滅んだ国には、他家の再興はを頼めないだろう?」

 子鹿殿は、理解できない言葉を吐いたのだ。

「……ん?」
「……ほあ?」
「……え、あれ? それ、ちょっと……?」
「……うん? どうかしたのか?」
「……すまぬ。山中殿。もう一度、言ってくれんか? 何故、種子島に、再興の依頼が、出来ないのかの?」
「? ああ、まだ正式には発表されていないから驚くのは無理もないか。でも、種子島は事実上滅びた。謁見を求めて丹波に向かっていた途中で、織田家との合戦に大負けしたのをこの目で見たから、これは間違いないぞ」
「……然様、でしたか……」

 ……ほろびた。滅びた。種子島は、既に滅びた……。

 ―――。
 ――――――。

「っ……」
「――ぁ」
「麻耶、しっかりする」
「……っと」

 ……いかんな。傍らの麻耶が頽れて膝を突くまで、頭の中が真っ白になっておった。
 深呼吸を一つしてみれば、膝を突いた麻耶を火鉢と草津が支え、長尾殿が唇を噛み締めておった。そして、報せをもたらした山中殿は、そんな儂らの反応から察したのだろう、バツの悪そうな顔で儂らを見守っておった。

「……その、なんだ。柚原殿は……」
「……は。お察しの通り、種子島家にて鍛冶師集団及び技師衆筆頭を務めております。……山中殿。申し訳ないのだが、詳しく話を聞かせては頂けないだろうか……?」
「……うん。私が不用意に口にしてしまったのだからな。それに……他人事ではないからな、私が知り得た範囲の事、全て話そう」
「……忝い」

 ……しかし、なんだ。
 母国の敗報に触れるというのは……慣れる事はないんじゃなぁ……。
 儂以上に動揺しとった麻耶がおったから踏ん張れたが、そうでなければ、儂も間違いなく頽れておったろうな……。



 取り急ぎ茶屋の主人に状況を知らせて各地の手勢の取り纏めを。火鉢と草津に気を失ってしまった麻耶を任せてから、山中殿から話を聞く。
 それなりに覚悟を決めてはいたものの、聞いた経緯はやはり堪える物じゃった。

 重彦様以下、戦力を注ぎ込めるだけ注ぎ込んだと思しき反攻戦。恐らく国力の枯渇に耐えきれなくなって賭けに出ざるを得なくなったんじゃろうが、どうにもそれが筒抜けだったらしく。
 最重要目標であるランスの出陣、善戦した末の、織田の撤退。そして追撃した先で待ち構えていた織田の主力……。どう聞いても嵌められたとしか思えない展開じゃった。
 ……包囲網が未成であった為に、唯一優位に立てる筈だった戦略面でも後塵を拝する事になった以上、賭けに出ざるを得ないのは明白で、それを予想するのもまた簡単であった、という事なのだろうが……。
 あの、三八式の弾を切り払ったくのいちを思い出す。破天荒な国主の発想と、非常に優秀な忍者による護衛と、諜報。種子島を挫いたのは、その実この二点に絞られるのかも知れん。
 そして悪い事に、もう一つ……いや、最も気掛かりな事にも、忍者の存在が影響しているのだ。

「……成る程。大体の事情は分かりましたが……、一つ特に聞きたいのですが」

 ……一つ、二つと深呼吸。色々と聞きはしたものの。柚原成章としては、結局のところ、聞きたい事はただ一つ。

「儂の、唯一の肉親。妹の、柚原柚美が、恐らく狙撃兵として行動しておったと思うんじゃが……。なにか、些細な事でもいいから、それらしい者についてご存じないだろうか?」
「狙撃……」
「はい。……恐らく、一人か、そうでなくともごく少人数で行動しておったと思われるんじゃが……」
「………」

 沈思黙考しながら山中殿が茶を啜る。儂も緊張で喉はカラカラじゃが、とっくに湯呑は空になっておったので、つばを飲み込む。
 やけに耳についたその音が聞こえたわけではなかろうが、徐に山中殿が重い口を開く。

「……端的に言えば、心当たりはある。織田が偽装撤退を始める切っ掛けになったのも、多分柚美殿の狙撃だと思う。種子島の将兵が、口々に柚美殿がやったぞ、と言っていたからな」
「………」

 儂が教えた首狩り戦術は、柚美の下で十二分な効果を発揮しておったようじゃ。
 ……そして恐らく……目立ち過ぎた……のじゃろうな……。

「……織田が撤退を始めてすぐ、一部の忍者隊が別行動をとって私たちがいた林の方に近付いてきたんだ。それで……その、這いずるように逃げようとしていた女武将を……捕まえていた」

 口籠ったのは、ほんの一瞬で。山中殿はまっすぐに儂の目を見つめて、言い切った。

「……その忍者のうち、誰かが言っていたのが聞こえたんだ。……柚美、って」
「……っ」
「遠目だったし、かなり汚れた格好をしていたから容姿は細かくはわからないけど……。短髪にカチューシャ、大きな鉄砲を携えていた。それ以上の事はわからない……」

 ……柚美にだけ話したギリースーツや迷彩ペイント。敵兵が口にした、名前。
 ……認めよう。
 柚美は――捕まったのだ。

「〜〜〜〜〜!!!!!」

 ぷつ、と何かが切れた音がしたのかどうかは定かではないが。次の瞬間には、目の前が真っ赤になっていた。
 実際に血管が切れたのか、余りの怒りがそう見せたのか。
 そんな赤く染まりかけた視界に――蝋人形のように、白い顔をした、火鉢と草津に支えられた麻耶の姿が。
 そして、幼い容姿に不似合なほど深い色を湛えた眼差しで見詰める、山中殿の姿が――。

「ーーーーーーーっっっ!!!」

 びしり、と奥歯が欠けるほどに噛み締める。噛んで噛んで、激情を噛み殺す。
 だめだ、だめだ、だめだ! 違う、そうじゃない!

「…………山、中、殿。……重ね重ね、申し訳ないが……合戦が起きた日にちと場所をお教え願いたい!」
「……それを知って、どうするんだ?」
「……場所も時間もそう離れていないのなら! ランスをぶっ殺……じゃない! 柚美を助け出すチャンスもある筈じゃ! ……あの鬼畜なら、恐らく柚美をすぐに殺しはすまい……ああ、殺しすまいよ! ならば心が死んでしまうよりも先に、助け出す!」
「……旦那様……」

 麻耶の声が聞こえる。いつもの元気な張りのあるそれではなく、弱弱しく、どこか縋りつくような。
 常日頃はその明るさ強さで儂を支えてくれるが、ああ今はその弱さが儂を引き留めてくれる。

「儂は、あの子に留守を任せると言ってしまった……。きっと今頃泣いとるじゃろう。痛くて、悔しくて、守れなくってごめんなさいって! じゃから、大丈夫だって、がんばったんだって、頭を撫でて、慰めに行ってやらなければならんのじゃ! 文句あるか!!!」

 尋常じゃない怒りは、未だ渦巻いとるが。どす黒いそれを吐き出すように。吐き出した後に残る大切な事、それを麻耶に、自分に言い聞かせるように、あらんかぎりに声を張り上げて。

「うん、その意気やよし!」

 そして、山中殿は。そんな無礼な儂の口上に、にっかと大きく笑って見せたのだ。

「軽々しく口にしていいとは思わないけど、柚原殿の気持ちは、わかるつもりだ。私も、そうだったからな」
「あ……」

 ……そうじゃ。思えば山中殿も、主君戦友部下家族諸々を失った過去を持っておられる。
 生き残った仲間もあちらやこちら、遠方やら天上へと散り散りになり。故郷を追われて僅か十名で流浪の身となり、それでも、ただ復讐に身を窶すでなく、主家再興という大願を揺らがずに目指しておられるのだ。
 今この瞬間儂が立っている地平は、山中殿がかつて立っておられたのだ。
 ……いかんなぁ。儂にとっては二度目だというに。……いや、慣れるはずも、慣れていいはずもない、か。

「私だって、元就は憎い。奴の首を尼子家の墓前に供えなければ気が済まないし、それが最高の供養になるとも思っている。……それでも、うん。私の一番の目的は、滅びた主家の再興なんだ」
「………」
「柚原殿の怒りも痛みも、私には我が事のように想像できる。だからこそ、それに溺れて本願を見失って欲しくはなかったんだ。……でも、杞憂だったみたいだな」
「……いえ、正直危ういところでした。一つ間違えば、踏み外していたでしょうな」

 立ち上がり、不安げにこちらを見る麻耶の手を取る。

「あ……」
「お前のお蔭じゃよ、麻耶。お前が……家族がおったから、踏み止まれた。じゃからきっと、柚美も儂らがいるから、きっと踏み止まってくれとる筈じゃ」

 それはただの希望的観測、或いは願望の類か。
 けれども、信じるに足る絆を、儂らは有していた。
 ならば、それを信じるのみじゃ。

「じゃから、助けに行こう。お前の、儂らの家族を」
「あ……。は、はいっ、旦那様っ!」
「おっと、もちろん私も協力するわよ」
「……火鉢。とらこ、めがあかい。なんで?」
「虎子、さっきまでこっそり泣いてたから……そのせい?」
「はいそこ余計な事言わない!」
「……ふっ。いいご家族を持ったものだなぁ、柚原殿!」
「いやはや、自慢の家族ですじゃ」

 いや、ほんとに。

「ちょ、私は家族じゃないわよ!」

 ええい、こまけぇこたぁいいんだよ、もう似たようなもんじゃろが。



 とはいえ。状況としては厳しい事に変わりないわけで。山中殿は、実際の段取りについて問うてこられた。
 確かに、儂らの率いる兵力だとちぃと厳しいと思われるのも無理はない、が……。
 まあ、一応考えはある。

「ぬへ……?」
「はい。これは、明石家の秘奥と言えるもの。まあ、縁あって儂らが預かっておりますが……」
「預かって……。という事は、まさか」
「はい。……山中殿は複雑に思われるかも知れませんが……。救出後は、毛利を頼ろうと思っとります」
「むう……」

 うん、実は上杉出立前に保険として伝えておいたのがこれなんじゃよね。
 丹波に向かった後は、そのまま毛利に駆け込んで、織田との戦端を開かせる。
 これ自体は、織田と毛利、双方の気風気性を考えれば、まあ不可能ではないだろう、との判断を直江殿より頂いておる。
 で、織田を毛利が抑えている間に、上杉と北条で武田を挟撃し、叩き潰す。後顧の憂いを除いたのちに、北条と上杉も対織田戦に参戦する……という絵図じゃな。
 机上の空論の誹りは甘んじて受けるが、毛利には、風丸殿がいる。その伝手を使わん手はなかろう。実際問題、丹波から上杉に戻るよりは、そのまま毛利領に駆け込んだ方が距離的に近いしの。
 ……まあ、相応のリスクは背負うような気がしてならないが……。あそこのおっかない長女とは命の遣り取りしたわけじゃし、元就を吹っ飛ばそうとしたわけじゃし。
 逆に、武さえ示せば後を引かずに……とか思わないでもない。とまれ、織田に捕まるよりかはマシ……だと思いたいのぉ。

「確かに……腹立たしい事だけど、毛利なら織田とも遣り合えるだろうな。だが、そうなると私はこの件では手助けしにくくなるぞ」
「いえ、山中殿には十分すぎるくらい力になって頂きましたから」
「……そうだ、じゃあこれを渡しておこう」

 そういって山中殿が取り出したるは……お札?

「! それ……防御式神? あ、でも……ちょっと違う?」
「おお、やっぱり長尾殿にはわかるか。これは、防御式神を部隊全体まで広げた、私のとびっきりだ! せめて、これを持って行ってくれ」
「式神の全体化!?」
「なんと! そんなものを……」
「ああ・同じような境遇の柚原殿には、是非とも大願を成就してもらいたいからな。せめてもの餞別だ」
「いやいや、これはちょっと私たちがもらい過ぎですってば」
「ううむ……。そうじゃ、山中殿、ちょっと待って下され」

 もらい過ぎならお返しすればいいじゃない! という事で、ちょっくら一筆さらさらり、の判子をポン、と。

「代わりと言ってはなんですが……これを」
「うん? ……これは……上杉家への紹介状!?」
「はい。山中殿は、主家の再興に協力してもらえる大名をお探しでしたな。上杉とはそれなりに縁もありますし、ちょうど、儂について陰陽師部隊の長尾殿が抜けていますからな。儂程度の紹介でも、幾らか効果はあるでしょう」
「おお……! 何とありがたい! 何と礼を言えばいいのか……!」
「なんのなんの。これ以上はお礼合戦になってしまいますからな、これでお相子という事で、一つ」
「むむ……わかった、だが、本当に感謝する!」
「いえ……。山中殿も、お気を付けて」

 シンパシーと感謝の念を互いに抱きつつ。ある意味で戦友ともいえる相手に別れを告げる。
 互いに道は見えはしたものの、そこには茨が生い茂っておる。
 油断なんか微塵も出来はせん。
 それでも、そこに道は見えているんじゃ。あとは、突っ走るだけじゃ!



 こうして、儂はランスめの思惑通りに柚美の下へとひた走る事になる。
 それはランスのみならず、儂を知る者ならば誰の目にも・・・・・明らかな事であったのじゃ。

 

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(c)Ryuya Kose 2005