- k a r e s a n s u i -

憑依老人は小銃Tueeeee!の夢を見るか

「ちょっと今から織田にカチコミかけてくるんですが、構いま「ちょいさっ!」すんっ!?」

※ただ今大変醜い状態となっております。しばらくお待ちください※



「だいじょうぶ、わしはしょうきにもどった」
「ん〜、まだちょっと駄目っぽいですねー。斜め四十五度っ!」
「テレビっ!?」
「……あの、麻耶さん? あんまり叩くと可哀そうじゃ……」
「大丈夫、昭和産だから」
「しょーわ?」
「き……気にせんでいいぞい。大丈夫、今度こそ正気に戻った」
「……ん、大丈夫そうですね」
「うむ、すまんの、虎子殿。迷惑をお掛けしたようで」
「あ、や、気持ちはわかるからいいけど……」

 聞けば、虎子殿にも弟がいるとか。うむ、シンパシィ。

「ま、落ち着いたからってやる事は変わらんわけで。という事で、これから登城して暇乞いしてくるぞい」
「りょーかいでーす」
「火鉢、準備してくる。草津も、来る」
「……はい」
「……え?」



「――というわけで、これから織田の異人〆に行くんで援護四露死苦」
「……正気とはなんだったのか……」

 朝もはよから押しかけた儂らじゃったが、謙信殿はじめ諸将は既に登城済みじゃった。
 じゃあ遠慮はいらんよねとさっそく要件を告げた儂の背後では虎子殿が愕然とし、正面では直江殿が頭痛が痛いと言わんばかりに頭を押さえ。謙信殿だけが、静かにこちらを見つめておる。

「……成章殿の事、ただ突撃するわけではないのだろう?」
「それは勿論」

 鉄砲屋が無鉄砲じゃあ話にもならん。

「まず、種子島家が緒戦にて後れを取ったのは、織田家の動きを見誤った事、鉄砲隊の初動の遅さに付け込まれた事。この二点が大きいと思われます」
「……動きを見誤ったというのはわかります。私たちも織田の攻勢はしばらく収まると見ていましたから。ですが、初動の遅さというのは?」
「は。鉄砲隊は、通常の部隊よりも必要とする物資が多く、また鉄砲自体の重量もあって、展開、機動力共に乏しくあります」
「成る程。先手を取られると弱い、という事ですか」
「ですねー。でも、多分こっからは粘れると思いますよ。補給線が短くなるし、機動の遅さも陣地にどっしり構えれば関係ないですし」
「重彦様なら鉄砲の全てを把握しておられますから、下手を打つ事はまずありますまい。ですんで、持ち堪えてるうちに織田のケツにキツイ一発を食らわせてやるのが上策かと」

 本質的には技術者じゃから、死ぬまで抵抗するって事は考えにくいが……鉄砲の有用さを骨身に染み込ませるまではやってくれるじゃろう。
 その後に降伏し、自らと鉄砲を売り込むくらいはやるじゃろうな。

「成る程。……どうしますか、謙信様」
「うん。愛の言っていた通りでいい」
「……既に腹案がおありで?」
「ええ。あなたが案外激しやすい性格だって事はわかってましたから、どうせタガが外れて突っ込んでいくだろうくらいは」
「ぐぬぬ」
「まあ、ありがたい事に変わりはないですけど。で、どのような?」
「ええ……。虎子」
「へ? ひゃ、ひゃい!?」
「あなたには、指揮下の陰陽師部隊を率いて丹波種子島に客将として出向いてもらいます。見たところ成章殿とも仲良くやっているようですし、上手くやれるでしょう」
「え……えーっ!? わ、私がですかっ!?」
「ええ。敵地深くに赴く事になるわけですから、成章殿との連携は必須。それが望めるのは当家ではあなただけですから」
「うん。おっつけ向かう事になる私たち本隊に先駆けての先遣隊という事になる。難しいだろうが、虎子なら大丈夫だろう。しっかり頼む」

 謙信殿がそう言った途端。

「!!! は、はいっ! お、お任せくだしゃい!!!」

 うん、噛んだ事なんか気付いてもいないくらいにヘヴン状態じゃね、あれは。そして居並ぶ諸将の中、年若い女子の……あれは足軽大将かの? ともかく、その勝気な雰囲気の女子がぐぬぬ顔になりながらこっちを見とるんじゃが。
 彼女が虎子殿が言っておったライバルの勝子殿かの?
 成る程、ライバルを差し置いて重大任務を任された事が誇らしいってわけじゃな。
 でも危険度とか考えると、どっちかっつーとこっちのが外れっぽくね? 謙信殿からも離れるわけじゃし、ランスに遭遇する可能性も高いんじゃが。その辺はいいんじゃろか。

「謙信様が信任してくれた……ウェヒヒ……」

 ……どうでもよさそうじゃね。
 まあ、儂としては気心が知れとるから連携が取りやすいし、歓迎すべき事じゃねな。敵地を突っ切るわけじゃから、連携は必須じゃし。
 ……しかし、こっからはなかなか連絡も取りにくくなるわけじゃし……。むぅ……。

「……転ばぬ先の何とやら……か。謙信殿、一つ……お伝えしておきたい事がございます」



「さて……。ではこっからは強行軍となる。大変だとは思うが……頼むぞい」

 謙信殿にあれこれ伝えた後。儂らは慌ただしく出立の準備を整えて、今は城門前に集合しておった。
 これより先は年末デスマーチよりもさらに過酷になるかもしれん上に、その先に待ち受けるものもろくでもない可能性が高いとなれば、士気を保つのも大変かもしれん、が。

「ま、やるしかありませんからねー」
「謙信様の期待、絶対に応えて見せるわ……!」
「火鉢……頑張る」
「……柚美、たすける」

 前途多難なれど我ら意気軒昂。頼りになる奴らじゃわい。

「よし……では、出発じゃ!」
『応っ!』

 待っとれよ、柚美……。今、お前の家族が行くからの……!





 ――丹波――

 織田領との国境。種子島領であったそこに、既に種子島家の軍勢はなく、勝鬨を上げる織田家の将兵がひしめきあっていた。
 先ほど行われた合戦では、種子島の不意を突く形となった織田方の快勝に終わり、種子島方が壊走した後の合戦場には、多くの種子島兵の死体と、そして兵装が残されていた。

 今回の急な侵攻は、織田の実質的国主である異人、つまりランスの決断によるものだった。
 3Gをはじめとした重臣達は常識的な判断に則り、急速に拡大する領土の整備に注力したかったのだが、ランスはこれまで散々邪魔してきた種子島家、そして成章に一杯食わせるために今すぐ丹波を攻めると主張したのである。

「奴らが丹波の人間だって事はわかっている。だから丹波を攻めれば、あんにゃろうも慌ててやってくる。そこを叩けば一石二鳥というわけだ。さすが俺様。がはははははは」

 心情的には兎も角、それなりに理に適った主張であったので3Gたちも強く抵抗はせず――したところで変わったかどうかは微妙だが――結果、今回の侵攻となったわけである。

「がはははは。なんだ、全然大した事ないじゃないか」
「でござるなぁ。足軽隊も武士隊も大して強くないでござる」
「でもランス様、まだあの鉄砲が出てきていませんよ」
「ふんっ。あんなもの卑怯な不意打ちじゃなければ俺様の敵ではないぞ」

 テキサスで成章の狙撃を受けたランスであるが、桁外れの戦歴を持つ彼は、成章自身は脅威たり得ない事を看破していた。脅威度でいえば、草津の方がよっぽど上である。
 そして、鉄砲という兵器に関しても、それほど脅威には思っていなかった。他にも鉄砲を侮っている者は数多いが、それは基本的に無知からくるものである。
 しかし、ランスの場合は違う。鉄砲と似ていて、しかもさらに強力な兵器を良く知っているからであった。

「うーん、面白いわ! 私の他にもこんな新兵器を考えてる人がいたなんて!」

 鹵獲した旧式鉄砲を、眼鏡が光らせながら検分する作業服に身を包んだ青髪の女性と、その背に光る鋼色の携行兵器。これこそが、ランスが鉄砲を恐れない理由であった。

「なんだマリア、やっぱりお前のチューリップと似ているのか?」

「んー……似てるところはあるのよ。でも、私のチューリップには及ばないわ!」

 マリア・カスタード。
 新兵器匠LV2を持ち、革新的な兵器を開発し続ける天才技術者である。彼女が開発したチューリップは、実のところ、鉄砲の開発者である種子島重彦がその制作過程においてブレイクスルーを得る切っ掛けとなった代物であり、鉄砲はチューリップのデッドコピーと言えるだろう。

 緒戦での優勢に加えて、新兵器開発に関しては世界有数と言えるだろうマリアの存在。織田方の勝利は揺るがないように見えた。





「……ま、不利だろうがそうそう簡単に好き勝手はやらせねぇけどな」

 種子島家の城。その鍛冶場において、家臣たちを前に不敵に言い放ったのは、種子島家当主、重彦である。
 前線から届く戦況の割に、居並ぶ面々に悲壮感はそれほどなく。むしろここから巻き返してやるという気概が見て取れた。

「然り。緒戦はしてやられたのは確かですが、鉄砲隊の展開が遅れてしまっただけの事」
「うむ。装備刷新した鉄砲隊を展開してからが本番ですからな」

 緒戦において織田と交戦したのは、殆どの人間が、緒戦の苦戦は飽くまで鉄砲隊の不在が原因であると考え。同時に鉄砲隊さえ展開出来れば負けはないと考えている。
 それに、国境付近の失陥は確かに痛くはあるが、見方を変えれば前線までの距離が縮まったと言える。他の兵種以上に兵站が重要となる鉄砲隊にとっては、これは優位に働く事になる。

「取られたのは確かに痛いですが、前向きに考えませんとな」
「……ま、そういうこった。んじゃま、準備も整ったし、わざわざ鉄砲の凄さを体験しに来た織田の野郎どもに、たっぷり教育してやるとするか」
『応っ!』

 答える声も勇ましく、誰もが自慢の兵器を披露出来ると張り切って退出していくのを見送る重彦。
 鍛冶場に残ったのは重彦と、重臣である南部機銃郎ら数人だけである。

「……や〜れやれ、どいつもこいつも勇ましいねぇ……」
「いやなに、若い者はそれでいいでしょうな」
「然り。尤も、アレがいなければ我々も軽挙に走っていたやも知れんなぁ」

 十分に気配が遠ざかってから発せられた重彦の言葉には、先ほどの威勢の良さは見当たらないもので。答える重臣たちも淡々としたものである。
 ここでいうアレとは当然のように成章の事である。
 なんというか、異世界転生の嗜みというか。成章も当然のようにその知識を利用してのプチNAISEIを行っていたりする。
 商業やら政治形態やらの専門外の事項に関しては口を突っ込まなかったが、軍事、開発に関しては思う事があればどんどん発議していた。中でも、こと「やすさ」に関しては口を酸っぱくしていた。

「戦時急造でも品質を保てるような単純な機構、前線での蛮用に耐えうる耐久性、そして新兵でも使いやすい汎用性、でしたかな?」
「作りやすく扱いやすく覚えやすい、か。職人気質の我々では、ちょっと思いつかなんだわな」

 平時に高性能で繊細で芸術的であっても、戦時に仕えなければどうしようもないのが兵器というものである。
 「そこら辺りは……ほら……大日本帝国の技術者だったから……言わせんなよ恥ずかしいじゃろ……」とは成章の弁である。
 因みにそんな事を言っておきながらHo229とかDo335とか80センチ列車砲をみて「ココロがオドル!」と演説をぶちあげた事もあったりするのだが、それはさておき。

「ま、兵器はいいんだよ。問題はアホみたいな国力差と、兵士の練度だ。そこら辺を勘案すると、どうにもなぁ」
「ですな。経験した修羅場の数は確かに多いですが……」
「開発の修羅場ですからなぁ……」

 今の織田は戦に次ぐ戦。薩人マシーンもかくやという修羅の国状態である。兵の練度はJAPANでも有数だろう。

「国力と兵の差を、鉄砲の性能でどれだけ詰められるか、だろうな。そこで、だ。……柚美」
「……はい」
「お前の兄貴が丹波に出張に行ってた時の報告にあったんだが……。お前も話聞いてねぇか?」
「……首狩り戦術の事ですか?」

 種子島家が投入したぬへ。それによる兵を纏める将に対する集中攻撃は、情報伝達や指揮系統の未発達も相まって非常に効果的であった、と成章は報告していた。
 司令官もしくは司令部に対する首狩り戦術。これを選抜された装備と人員で再現できないだろうか、という訳である。

「そうだ。お前と箒星なら出来ると見込んでるんだが……。他にも何人か技量卓抜した奴を選抜して、専用の小部隊を構成するつもりだ。どうだ、その部隊の隊長、一つ頼まれてくれねぇか?」

 柚美は兵としての能力は兎も角、将としては余り優秀とは言い難く、正規の部隊を率いさせるのは不安が残る。
 ならだ後方に下げておけばいいのかというとそうでもない。兵としての能力は種子島でも有数の物であるので、遊ばせておくのは余りに勿体ないのだ。
 更に言えば、唯一の肉親である兄の身を案じるあまり、その身を危険に晒した織田に対する敵愾心が、鍛冶場の炉にも負けんばかりに燃え盛っており、放っておくには些か危ういと思われるほどである。
 夜な夜な柚美の部屋からしゃりしゃりと銃剣を研ぐ音が延々聞こえてくると報告が上がってきた時は、ほんのりと背筋が寒くなった重彦である。

「……了解」

 そんな重彦の内心などつゆ知らず、柚美はあっさりとしたもので、二、三の相談だけしてそそくさと準備に取り掛かる為に退出しようとする。

「あ……そうだ、重彦様」
「ん?」

 しかし去り際に思い出したように足を止め。肩越しに視線を投げてよこす。

「別に……ランス殺してしまっても……構わないよね?」
「なにそれこわい」

 種子島の明日は、ちょっと薄暗かった。

 

戻る
(c)Ryuya Kose 2005