- k a r e s a n s u i -

憑依老人は小銃Tueeeee!の夢を見るか

「……臥薪嘗胆……欲しがりません、勝つまでは……贅沢は敵……むしろ織田と義景公が敵……(ギリギリ」
「や、公は勘弁してやってくれんかのぉ」

 気持ちはわかるんじゃがね。新婚の体が夜泣きするんですよねわかります。
 ………。
 冗談はさておき。
 部屋に戻って麻耶に事情を説明したら、それはもう渋い顔に。それでも拒否はしなかったのは、儂や義景公の気持ちを酌んでくれたからじゃろうなぁ。いい女じゃよ、全く。

「……で、じゃ。雪姫殿の説得は、お前に任せてもいいかの?」
「そうですね、立場は違うけど、境遇としては似たようなもんですし、同性の方が説得もしやすいでしょうしねぇ」
「ん。火鉢も付けるから、滅多な事はないじゃろうが……気を付けてな」
「危険度で言えば旦那様の方が危ないと思うんですけどねぇ」

 二人揃って苦笑いをして、数秒間だけ抱き合う。それ以上は未練じゃし、それ以下で憂いを拭えるほど達観してもおらん。

「……ん、充電完了」
「内部電源じゃから長持ちはせんからな」
「はいはい。んじゃ、お先に」

 ん。湿っぽいのは今日の天気だけで十分じゃわい。

「さて……草津」
「……ん」
るぞ」
「ん」





「おーおー、盛りおって」

 気配だけだった雨は、一時間ばかり前から降り始め、今ではもう土砂降りと言っていいくらいの雨脚じゃ。
 これではもう鉄砲は使えないので、銃剣を装備して足軽隊のような運用をする、と総大将である義景公からの通達があり、儂は好きに動いてよいという事になった。
 これは義景公の配慮じゃろうなぁ。いざともなれば、儂は上杉にまで逃げていかねばならんわけで。その時に部下を抱えていてはやりにくかろう、っちゅー事じゃろうな。ありがたい事じゃ。
 で、身軽な身の上と装備で塀の上にへばり付いて様子を窺っているわけじゃが……やっぱり鉄砲の弱点は織田も知っておった様じゃな。前回アレだけ鉄砲で痛い目を見た割りに、にじり寄る足取りが鈍くない。それは前回射撃が始まった地点を無事に越えると顕著になった。

「ま、後ろであんだけ煽られれば立ち止まってはおれんじゃろうしな」

 後ろっから剣を振り振りそれ行けやれ行けと言われちゃあ、しがない雑兵としては従うしかないじゃろて。
 しかしランスの奴、自分が相当えげつない命令してるってわかっとるんじゃろうか?
 まあ鉄砲の攻撃がないと知れた今では、躊躇う者どもは少ないようじゃが。

「ふむ……やはりランスの強さが群を抜いておるか」

 で、見ていればわかるんじゃが、やっぱりランスは強い。突破力が尋常ではない。
 さっきまで柴田勝家や森乱丸よりも後ろにいた筈なのに、既に最前線近くにまで来ておる。
 浅井朝倉の兵は、並べる兵数が限定される城門を上手く活用して数の差を埋めておるが……質の差がここに来て顕著じゃな。このままではランスに突破を許すのは時間の問題じゃろう。
 ……しかし。儂らにしてみれば、むしろそちらの方が好都合……かの?
 ふむ。ランスの性格からして、城門を突破すれば一気に天守最上階……雪姫殿がおられる場所にまで突っ込んできそうなもんじゃし、狙うとすれば、そこ、か。
 ククク、ランスめ……貴様の抜けた強さが命取りになる……といいのぉ……。



「ら、ランス様! 突出し過ぎです! ついて行けません!」

 彼は、副官だった。
 いや、むしろ不幸だった。何しろランス隊の副官なのだ。その苦労は言うまでもないだろう。
 上からは3Gの小言、下からは部隊員の不満。常識人の光秀と揃って頭髪の心配をしてしまうくらいには、彼は疲れていた。
 今も彼が補佐すべきランスは、好き勝手に敵を斬り倒して突き進み、もはや隊伍も何もあったものではなかった。
 しかもそれが同じく猪系武将の勝家を煽り、それを追う形で乱丸も前へ前へと動く事になり、軍師の光秀が胃を押さえて天を仰ぐ姿が眼に浮かぶ様であった。

「それは俺様が強すぎるのがいけないのだ。というかこんな弱っちい奴らに手間取るお前達も悪い。という事で、俺様は先に行く。雪ちゃんが俺様を待っているのだー」

 誰もお前なんか待っちゃいねーよ!と叫びたいのをぐっと堪える副官。涙と胃痛も一緒に堪えている彼の忍耐力は賞賛に価するだろう。褒められても全く嬉しくないだろうが。

「ああもう……! 全隊、突破急げ! ランス様が突入なされたぞ!」

 苛立ちやら何やらを込めた彼の怒声が、戦場の喧騒を貫いて響いた。



「ククク……きたぜぬるりと……」

 どこの誰だか知らんが有難うよ! どうやらランスの奴がほんとに突出してくれよったらしいな! しかも後続はロクに着いて来ておれん!

「正に千載一遇! るぞ、草津!」
「ん」

 淡々としてはいるが、戦意は十分。ぬへの機械的な側面は、感情に左右されずに安定したパフォーマンスを齎してくれる。
 草津はこれが初陣じゃが、新兵故の気負いやら緊張やらがないというのは、非常にありがたい事じゃ。
 草津は自身の装備として刀と鉄砲を選んでおる。これは単に手に入りやすかった武装を選んだものじゃ。刀は主力武器で比較的入手しやすいし、鉄砲は現状では使い道がないからの。火縄の状態が実戦使用に耐え得る物を選抜しておる。
 ただ、鉄砲は単発であるが故、刀は人外の膂力と技量の不足、数打であるが故の耐久性の低さで、どちらも使い捨てになってしまうのが悩みどころじゃな。
 ……まあ、今回はそんな持久戦にはならんじゃろうがな。儂らが脱出出来なくなっては元も子もないからの。
 じゃから……。



「おほ、かわいこちゃんはっけーん。メインディッシュ後のデザートにしよう。がはははは」
「……きらい」
「がはは、気にするな。すぐに俺様のハイパー兵器でメロメロにしてやるからな。がはh【ズドン!】はぁあっ!?」
「ら、ランス様! 鉄砲ですよ、しかもまだ何丁も持ってます!」
「……うるさい」
「っ〜、ちょっとムカついたぞ。よし、お前は罰としてお仕置きしてやる事にしよう。ちょっと痛いけど我慢するんだぞー、がはははは!」
「……こうせんかいし」

 右手に刀、左手に着剣状態の鉄砲を構え、草津。銃口をランスに向け――刀を、ぶん投げた。

「どわあ!?」

 剣は斬る物、鉄砲は撃つ物、という常識を見事にそぉい!した奇襲の先制攻撃は、しかしそこはランスもさる者、驚きつつも手にする魔剣カオスで飛来する刀を叩き落とす。

「こらぁ! 刀をぶん投げる奴がどこに【ズドン!】ぬぐあっ!?」

 戦場で一一文句言ってんじゃねーよ、とばかりに今度は普通に発砲。草津自身はそんな事は全然考えていないのだが、そういうタイミングだった。

「ちょ【ぶんっ】貴s【ズドン!】この【ぶんっ】だぁああああっ!?」

 投げては撃ち、撃っては投げ。背負った二種の装備を入り交じらせての遠距離攻撃。ランスが剣しか装備していない事を見越しての、徹底したアウトレンジ戦法。
 機動力と射程で上回る草津の立ち回りに、ランスはなかなか近付けない。
 しかし。

(くそ、めんどくさいな。でも鉄砲も刀も限りがあるからいつまでも続くわけじゃないはず。そうなったら近づいて押し倒してやるのだ)

 そしてその時はやってくる。

 ズドン!

「! チャーンス!」

 即ち、弾切れ。
 背負っていた鉄砲を全て撃ち切ったそのタイミング。ランスは一気に間合いを詰める。対する草津は、刀はまだ残っているが、ここで投擲してしまってはそれで倒せなかった場合、素手で近接戦闘に臨まなければならなくなる。
 草津は両手に刀を持ち、こちらも間合いを詰めにかかる。溜めを要する大技を出させないために。
 両者の距離は急速に縮まり……。

「どりゃあ!」
「っ!」

 激突!
 ギャリン、と激しい金属音!
 打ち込まれた魔剣カオスは、交差した刀に受け止められる。激しく火花が散り、鍔迫り合いの形になり。
 両者の足が完全に止まった・・・・・・・・・・・・

「ぐぬぬぬぬぬっ」
「………」
「がはは、やっぱりパワーは俺様の方が上みたいだな! このまま――」



「――そう、このままじゃ、草津」

 指定した場所。指定した体勢。
 バッチリ有効射程内。三八式の照星は既にランスを捉えておる!


 そう。
 草津のここまでの戦闘は、全てこの儂の狙撃ポイントに誘導するための物。
 ランスが強いのはわかりきっておる。じゃから、儂は安全な距離から一方的に攻撃するという、戦争の常套手段を使わせてもらう。
 卑怯とは、言わせん。
 そして、これ以上下劣な言葉を喋らせる気も、有りはせん。

「――っ」

 ぱぁあああん!





「にんっ!」
「ぐあっ!?」
「っ!」

 ――んな。

「なんじゃとっ!?」

 外した!? いや、誰か飛び込んでランスを押し倒したのか!?
 草津は……距離を取ったか。ランスは水色の装束を着た女……くノ一に押し倒されておるが……生きてやがるか!
 じゃが出血は認められる!

「ここで仕留める!」

 次弾装填!

 ぱぁあああん!

「にんっ! 無駄でござるよ」
「ぁんじゃとぉ!?」

 あのくノ一銃弾を切り払いよった!?
 ドン引きしながらもう一発、撃つもやっぱりこっちも切り払いか! どんだけじゃお前! ここはスパ◯ボの世界じゃねえんじゃ

「草津っ!」
「ん」

 無理無理出来ない出来ない絶対無理無理! 気持ちの問題じゃねーぞ!
 あのくノ一絶対凄腕だって! 呼んですぐ側に控えてくれる草津が果てしなく頼もしい!

「殺せなんだが傷は与えた! ずらかるぞい!」

 くっそ! こんな事なら九九式を使うべきじゃったか。三八式実包じゃあ骨に当たっとらん限り損傷が大きくならんからな。

「おっしゃ逃げるぞGO,go,go!」
「……しっかりつかまる」

うん、そうなんだ。というか運送なんだ。運ばれるんだ。
 見た目年端も行かない少女に背負われて逃げるいい年した大人。でもプライドより命大事に!
 だって現在進行形で逃走中じゃけど、後ろっから殺気ビンビンなんじゃよ!
 テキサスから、出来れば佐渡、せめてMAZOまで。
 何としても逃げ延びねば!





「くっ……くっそーーー! あの野郎、絶対許さーーーん! 絶対ぶっ殺してやる!」
「ういうい。でもランス、そんなに力んだら血が噴き出るでござるよ?」
「わ、わ、ランス様いけません! いたいのいたいのとんでけー!」
「む、ぬ、く……。くそ、これでは雪姫ちゃんに会ってもイイ事出来ないではないか!」
「あー。その事なんでござるが……」





「な……なんだとぉおおおおお!!??」





 後日。
 朝倉義景の処刑が執行され。
 同時に、柚原成章がお尋ね者として織田家の支配地全土に似顔絵付きで指名手配される事となったのである。

 

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