- k a r e s a n s u i -

憑依老人は小銃Tueeeee!の夢を見るか

 浅井朝倉家は、はっきり言って弱小国家である。
 や、内政と外交は強いんじゃよ? その二点に限ればJAPANでもトップクラスじゃろう。
 じゃが、いざ戦争に突入してしまえば、さして広くない領地に、それほど多くなく特色もない軍勢は、頼りない事この上ない。

「そんな軍事力の中で唯一使える鉄砲隊を後生大事にしとくのは、馬鹿のする事じゃよなぁ」

 その数なんと千八百丁! 旧式故に継戦能力こそ低いものの、瞬発的な攻撃力は、あの毛利元就隊にも匹敵しよう。
 ……鉄砲千八百丁と比肩する元就のがおっそろしい気がするが、それはさておき。

「本城決戦での切り札にするってのはまだしも、戦線の最後方に置いといても意味ありませんからねー」
「うむ。味方が邪魔で射線が確保できんからの。確保できる≒前衛壊滅じゃからな。それじゃあいい的じゃ」

 兵力の集中という点からは、本城決戦は已む無しといったところじゃろうがな。

 あれから。
 儂らは急いで朝倉義景殿の下へ赴き、加勢を提案した。以前の明石家の時とは違って、種子島家と浅井朝倉家は同盟国じゃ。加勢するに何の問題もないし、鉄砲隊の指南という名分もある。
 復興指揮やいざ敗戦した時のための外交に忙殺されておった義景殿は、防衛線の指揮にまでは手が回らず、息子たちにそれを任せて負ったようじゃ。しかし流石の息子連中も、鉄砲隊の運用に長けた者はおらず、儂らはそこをついて首尾よく鉄砲隊の指揮権を委譲してもらう事に成功したのじゃ。

「習熟の時間は全く取れんかとも思ったが……」
「あのパンダ無双のおかげですねわかります」

 事情は知らないし知らされもしなかったんじゃが。一時は本城に迫るかという勢いだった織田の軍勢じゃが、どういうわけか突如凶暴化したパンダが山から溢れ出し、なんと織田を押し戻したのじゃ。
 あれ、絶対偶然じゃないじゃろ。方法はわからんが、誰かが使役していた、ように思える。朝倉側の言葉を濁した感じからして、彼らの意図したものではなさそうじゃが……まあ踏み込んで知る必要があるでなし。そのお陰で鉄砲隊を訓練する時間が確保できた事をただありがたく思うだけじゃ。
 火鉢と草津じゃが、こちらは完全に遊撃戦力とさせる事にした。部隊を率いさせるわけにもいかんし、かといって遊ばせておくにはその戦闘能力は勿体無さ過ぎる。
 自爆特攻はもちろんさせないが、指揮系統を狙った一撃離脱を耳にタコができるくらいに教え込む。こんなところで死なれては、毛利で頑張っとるじゃろう風丸に申し訳が立たんしのぉ。




 姫路における戦闘において、織田家は明石家と交戦したわけじゃが。実はこれ、大きなアドバンテージじゃよね。ぬへの脅威は知っとるかもしれんが、鉄砲の脅威は知らんわけじゃからな。
 まあ全く情報がない、とは言わんが……種子島の鉄砲隊運用術は、控えめに言っても他の国を圧倒しておるじゃろう。
 しかも今回は城に篭っての防衛戦。補給面においての不安がかなり軽減されておるからの、これもおいしい。

「……まあ戦術面ではいいんじゃが、戦略面では詰んでるような気がひしひしと……」
「上杉の援軍はまだしばらくは期待できませんからねぇ……。ほい、お茶」
「お、すまんな」

 制式採用された〇五式ライフリングカスタムと、今回も持ってきた【お守り】の整備をしつつ、麻耶の淹れてくれたお茶を飲む。うむ、優雅な戦前ティータイムじゃ。

「朝倉の皆さんが焦燥してるってのに、暢気なもんですねー」
「言うほど余裕があるわけじゃあないんじゃがね……」

 本来なら戦わずにして勝つ筈じゃったというに……。まあ今更じゃが。

「外様の儂らがそこまで死に物狂いになってもしょうがないからの」

 もちろん最善は尽くすし尽力もする。じゃが死力を尽くす必要はないわけで。いよいよともなればぬへ二人に抱えてもらって脱出するつもりじゃ。これはもちろん朝倉義景殿も承知の事。本来なら儂らは使者であり、打算と善意で客将をやっとるだけじゃからなぁ。

「ですねー。仕事さえきっちりこなせばそれで構わないでしょう」

 んー、流石は種子島の女、って事なのかね? このドライさは。仕事人って感じ? まあこんなところでは死ねないっちゅーのもあるじゃろが……っと?。

「成章、多分織田が来た」
「ほ。わかるか」
「……戦の気配」

 ……それなんて達人? まあいいわい。

「んじゃ、頼むぞい。火鉢もしっかり守ってくれ」
「旦那様こそ、私を未亡人にしないでくださいよ? 草津、あなたにかかってるから、しっかりね」

 この会話からもわかるじゃろうが……今回、儂と麻耶は別行動をとる。
 麻耶には火鉢が護衛について、千二百人の鉄砲隊を率いる。残りの六百は儂の進言で突貫工事で作られた鉄砲櫓に配備されとる。これであっという間に溶かしてやんよ! 信長○野望乙。
 で、草津を護衛に従えた儂はと言えば……。



「こちらスネーク、配置についた。指示を頼む」
「……?」

 あ、草津は気にせんでいいぞい。独り言じゃから。
 さておき。まあ遊撃戦力、じゃな。野戦じゃないからそこまで自由に動けるわけではないが、地の利はこちらにあるわけで。狙撃ポイントとか抜け道とか、そういうのは把握しておる。
 何でこんな事をしとるかっちゅーと、今の織田の行動は、要はランスという人間の意思が反映されとるわけじゃな。ランス以前・以後で行動が激変しとるのが証拠じゃ。

 ――だったら、ランスさえ死ねばいいんじゃね?

 そう考えるのも、まあ自然じゃないかのぉ?
 加えて。儂の持っとるサンパチは、実は当時九七式狙撃銃への改造を考慮されるほどに銃身精度の高かった代物なんじゃよね。
 うん。狙撃しようぜ!と言わんばかりの好条件じゃな。この体になってから、体格も以前よりよくなっとるし。残弾が三しかないから試射ができないのがネックじゃが……。

「殺ってやるぅ、殺ってやるぞぉ!」

 哀れ落城、逃走にも失敗……なんて事になれば、麻耶が陵辱の憂き目を見るのは必定じゃろう(←惚気)。
 それを避けるためにも、ここで殺るのが一番じゃ!

「……来よったな」

 おー、見る限り主力が揃っとるのぉ。あのやけに錬度の高そうないい動きする足軽隊は、噂に名高い柴田勝家隊じゃろうな。で、その隣に展開しとる武士隊は……森乱丸隊か?
 後方には……見た限りでは軍師隊、弓隊、忍者隊がおるようじゃの。
 ん〜、最近までは織田家に有力な忍者隊はいなかったんじゃがなぁ……。あれか、大和の伊賀家を滅ぼしたからか? もともとあすこは織田家の傘下じゃったはず。それを再度統合して忍者隊も吸収したんじゃろうか。厄介じゃのぉ。
 あの弓隊もそうじゃ。もともと織田家の弓隊は丹波長秀っちゅう重臣くらいしかおらんかったと思うんじゃが……率いとるんは女性に見えるのぉ。またぞろどっかの姫君か女武将かをコマしたかなんかしたんじゃろうなぁ。
 軍師隊は、まあ順当に明智光秀じゃな。前はグータラ、今は色狂い。さぞかし苦労しとるじゃろうて……。
 ……本能寺の変とか起こしてくれたらありがたいんじゃがなぁ。秀吉に当たるんが見当たらんけど。
 ……で。前線の真ん中に位置する武士隊は、なんか隊列が不恰好じゃが覇気が尋常じゃあないのぉ。あれ、か……?

「草津や、あの武士隊の大将っぽい奴、わからんかの?」

 ぬへの(従来の)基本戦法は、敵陣に突貫してひたすら指揮官・大将首だけを狙うというもので、到底戦法と呼べるものではないんじゃが……着目したのは指揮官クラスの人間を探し出す事が出来るという点じゃ。
 その際に必要となる識別能力・視力は人間の比ではない。電探っちゅーか観測手っちゅーか。そういう使い方をしてみようかな、と思ったわけじゃな。

「……どんなの?」
「……そう言えばどんなのじゃろうな?」

 あれ、そう言えば異人で色情狂で鬼畜で強いって事は伝わってるけど、見てくれとかその辺の情報があんまりないのぉ。

「……JAPANの人間とは一味違う感じの武装とか……?」

 それで探せってのは無茶振りもいいとこじゃろJK……「……なんかいた」……ゑ?

「……ピンクのもこもこ」
「……は?」
「ピンクの、もこもこ」
「……えー……」
「もこ……ふわ……」

 ピンク……? え、イメージと乖離しすぎとるんじゃが。つーか男でピンクでもこふわって……ん?。

「草津、それ、男?」
「おんな」

 そ れ を 早 く 言 え ……って、こっちの指定した条件には入ってなかったから仕方ないか。

「あー、条件追加じゃ。男。野卑っつーか下品な感じがすればなおよし」

 多分、じゃけどね。そこいらは。でもお上品な見てくれとはとても思えんからのぉ。

「……もこふわのとなりになんかいる」
「ほぉ?」
「……よろい……ほかとちがう。きんぞくせい」
「ふむん……西洋鎧って事かの? 他にはそれっぽいのはいるかの?」
「(ふるふる)」

 んー、じゃあ暫定的じゃがそれを目標Aにしとこうかの。

「……あ号標的のほうがそれっぽいかの?」
「?」

 こう、象徴するものというか見た目というか。

「まあいいわい。一応もこふわにも注意しといてくれぃ。……機会があれば、狙っていくぞぃ」
「わかった」

 さて……頼むぞ麻耶。
 ……え、朝倉の兵? んなもん頼りに出来ません。言い含めてはあるから大丈夫じゃとは思うが、精々必死に麻耶の鉄砲隊を守ってくれりゃあ十分じゃ。
 ちゅーか、それ以外に打つ手ないしの。あの大海嘯……じゃない、パンダの突撃もあれ以来起きとらんし。上杉もまだまだ来れんじゃろうしなぁ。

「或いは、ここで儂が奴を討ち取れれば……」

 やれやれ、難儀な事じゃわい。





「ふん。あれだけ偉そうにしておいて、全然弱っちいじゃないか」

 織田の陣。肩に担いだ西洋剣をぽんぽんと遊ばせている異人の男。勿論渦中の人物、ランスである。
 彼は今、有り体に言って、非常にわくわくしていた。
 ちょっと前までは、浅井朝倉が非常に無礼な通達をしてきたのでムカついていたのだが、その使者は自らの手で罰を与えていたし、今では城に攻め込まんとしている――つまりは北陸一の美姫と名高い雪姫とのエッチが目の前まで迫っているのだ。それを事もあろうにランスに落ち着けというのは、酷というか既にギャグのレベルだろう。

「それは仕方ないでござるよ、ランス。この国、政略結婚でここまで大きくなっただけで、本格的な戦はほとんど経験してないんでござるよ」
「へー。じゃあ雪姫ちゃんが俺様の物になるのも時間の問題だな。よし、だったらすぐ攻めよう。今攻めよう」
「ういうい。じゃあ戦闘開始を伝えてくるでござる」

 決死の覚悟の浅井朝倉勢とは全く異なり、緊張感の欠片も感じられないランスたちであるが、戦い慣れした織田の兵と実戦を知らない浅井朝倉の兵とでは、勝負にならないのは始まる前からわかりきっている。
 ランスの余裕は油断にも等しいだろうが、それを周囲があまりきつく言って諌めないのも、その事実を理解しているからだろう。
 ……言っても無駄であるとも理解しているのだろうが。さておき。

 改めて戦場を俯瞰してみよう。
 まず、織田側。
 前衛中央にランス率いる武士隊が千二百。右翼に柴田勝家の足軽隊千五百、左翼に森乱丸の武士隊千。後衛中央に明智光秀の軍師隊千、右翼左翼にそれぞれ山本五十六の弓隊八百、鈴女の忍者隊七百。総勢六千二百の軍である。
 対する浅井朝倉は、前衛両翼を反撃に燃える鬼昌と越前守の足軽隊がそれぞれ八百、その間に守られて、謎の部隊(笑)千二百が頭陀袋をすっぽり被って待機している。
 後衛には浅井久政の軍師隊六百と、国主朝倉義景の僧兵隊八百が着陣していた。

 城攻めにおいては、攻め手は守り手の三倍の兵力云々、などとよく言われるが、それに照らし合わせれば、織田方は些か兵力が心許ないとも思える。
 しかし、先日の地震の影響で、頼りの城の耐久力は激減しているし、復旧作業に人手を取られて各隊とも定数には程遠く、そして震災戦災の二重苦で士気も低い。
 この一戦に関して言えば、天の時も地の利も、明らかに織田に味方していた。
 人の輪こそ、崖っぷちの浅井朝倉の方が団結しているだろうが……そんなものも蹴散らし飲み込むのが、ランスと言う英雄であった。
 そしてランス自身も、いつもどおりに暴れ、いつもどおりに勝利する、そう単純に考えていたのだ。



 けれどここには異分子がいる。
 紛れ込んだイレギュラー、柚原成章。
 引っ提げた、これまた異質な兵器でもって、いよいよランスと対決する――。

 

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