- k a r e s a n s u i -

憑依老人は小銃Tueeeee!の夢を見るか

 今回儂が使者として出向いているのは、もちろん対織田包囲網への参加を呼びかけるため、じゃな。織田の暴虐に対抗するため、話の通じる比較的温厚な大名に話を通す。浅井朝倉と上杉。そして北条。この二国には、どうにか包囲網参加を了承してもらえたわけで。あとは北条が加わってくれれば、かなり楽になるんじゃよね。
 しかしまあ、しょーじきやっとれんわなー。毛利は戦馬鹿じゃろ? 織田は……色ボケ?
 そんなのに囲まれるとかなんという無理ゲー。しかも命かかっとるし。
 とはいえ、上杉、北条から敵対されるってのは、恐らく織田に対して非常に大きな圧力となるじゃろう。それに、浅井朝倉の外交能力も侮れん。確か今も朝倉の使者が停戦もしくは降伏の勧告に向かっとるはずじゃし……まずはそこの結果次第じゃなぁ。
 地の利、人の和はこちらのもの。大勢を見れば天の時もこちらにあると思いたいが……さて?





 ところ変わって、織田の城。

「……以上の理由により、浅井朝倉をはじめ、種子島、上杉、北条各家は織田家の暴威に対抗すべく手を結ぶ事となりました。この事実をよくよく考え、返答を願います」
「むうぅ……」
「これは」
「まずい事になりましたぞ……」

 大広間にて長々と口上を垂れていたのは浅井朝倉よりの使者。まずは話し合い、と国是に則って対話による解決を図ったのである。
 要は成章が言ったとおり、停戦もしくは降伏の勧告である。
 よってたかってボコっちゃうよ? いいの? 嫌ならその馬鹿げた軍事行動を慎みなさい。んで、国を牛耳ってる異人を処刑ないし追放しなさい。あと謝罪と賠償ね。
 ……とまあ、砲艦外交というか、ぶっちゃけ脅迫である。
 でまあ、3Gでさえ苦い顔をするような内容であるからして、唯我独尊俺様主義のランスが怒り狂うのは、無理のないというか当然の事である。

「ゆ……許さーーーーーーんッ!!!」

 ざくー。

「ぎゃぁああああ!?」

 ぶしゅー、ばたん。使者は死んだ。

「な……」
「「「何をやっとるんじゃー!!!???」」」

 3Gの3chサラウンドサウンドも手遅れ。哀れ使者はお亡くなりになられました。
 綺麗にバッサリ。これをくらって死ななかった足利超神は、何気に凄いのかも知れないが、さておき。

「ふん。俺様のやる事に他所の連中がいちいちうるさく文句をつけるのがいけないのだ。それに浅井朝倉には雪姫ちゃん、上杉には謙信ちゃんがいるはずだ。どうせいつか会いに行くんだから都合がいいじゃないか。ガハハハハハ!」

 これが真っ当なJAPANの人間に対してだったならば、この包囲網の恐ろしさも伝わっただろうが、幸か不幸か、ランスは軍神上杉謙信の恐ろしさを知らず、北条家の重要性を知らない。
 加えて、上記二国とは、直接国境が接していないので、すぐに軍事行動に出られる危険性が薄いという事もあったかもしれない。

「よし、そこのお前。ちょっと行って使者のお供の連中を捕まえてこい。一人残らずだぞ」

 そしてこの指示である。要はこの凶報がテキサスに伝わらないうちに先手を打ってしまえば、絶好の奇襲になる。
そこまでランスが考えていたかはさておき、結果として最善の手を打った事になる。
 そして3Gも、既に使者が死んでしまった以上は是非もなし。最悪を回避するために動かざるを得なくなる。
 結果、なし崩しにランスが主導権を握り、何故かそれなりの結果が出る、といういつもの流れが発生したのであった。





 ――キュピーン!

「はっ!?」
「ん? どうしたんじゃ?」
「……なんかロクでもない理不尽が発生したような気配が」
「なんじゃそりゃ?」

 ニュータイプかっつーに。

 さて。今儂らがいるのはMAZOの宿じゃ。
 織田包囲網の成立が確定したので、取り敢えずは任務を果たしたわけじゃが。
 なんつーか、一番不安なのって何気に上杉なんじゃよね。
 浅井朝倉は軍事面が不安じゃが、以前旧式とは言え大量の鉄砲を購入しとったし、幾らか補えとるじゃろう。内政・外交面では申し分なし、結束力もあるしの。
 北条は、虎子嬢から聞いた分だと、陰陽師に対し武士が不満を持っとるようじゃが、それ以外に欠点らしい欠点はなく、強力な陰陽師部隊に、当代の当主早雲は、初代に比肩する英才であるとか。天下統一も夢じゃあなかろうな。
 ところが、じゃ。
 軍神上杉謙信の雷名は、なるほど全国に鳴り響いとるじゃろうし、軍事面では不安は皆無じゃ。
 ただその分内政とかそっちがのぉ……。
 無尽蔵とも思える資金力があるとは言え、謙信殿に振り回される軍は確実に負担になっとるし、内政が直江殿に頼り切りというのも不安じゃ。
 なにより、家中の男衆の腐りっぷりったらないわな。特に県政。あれ、多分相当ロクでもないぞい。獅子身中の虫にもなりかねん気がするわい。
 でまあ、取り敢えず謙信殿たちを追っかけて佐渡から移動してきたわけじゃな。県政の近くにおったら、なんぞ取り込みにきそうで嫌なんじゃよね。

「……ま、全ては交渉の結果次第じゃろうが、織田も暫く動けまいて。今のうちに重彦様がなんぞ手を打ってくれりゃあいいんじゃが」

 ――と、その時。

 ――ゆらゆらぐらっ

「む?」
「お?」
「「!」」

――ごごごご!!!

「地震っ!?」
「デカいぞ!?」
「こっちっ」
「……ッ」

尋常じゃない規模の揺れに、とっさに頭を守るものを探すも、火鉢が麻耶に、草津が儂に覆い被さるようにして守ってくれた。
 たしかにぬへの身体能力なら下手に隠れるより安全じゃろうが、しかしこの揺れは……ッ。

「こりゃあ屋敷がもたんぞ! 火鉢、草津! 外に連れ出してくれぃ!」

 ここら一帯にゃあ高層建築も窓ガラスもない! 屋外におった方がいいじゃろ!

「わかったっ」
「……ッ!」

 了解一言、お姫様抱っこで今にも崩れそうな屋敷から脱出した儂と麻耶じゃった……。



「……ぼーぜん、ってやつですねー……」

 麻耶の軽口もまるで軽くなく、むしろ重口じゃねーのっつー感じじゃ。
 あの揺れ。体感で言えば震度五は間違い無いじゃろな。
 幸いにも逗留しとった宿が倒壊する事はなかったが、辺りを見渡せば、崩れとる家屋もチラホラり。死傷者も間違い無く出とるじゃろう。
 しかし一番の問題は……。

「初期微動がかなり短かったからのぉ……。震源地はテキサスか佐渡か邪馬台か……」

 邪馬台じゃったら、そこの住人には非常に申し訳ないが、正直ありがたい話じゃ。じゃが、佐渡、特にテキサスはいかん。
 包囲網の一角を文字通り揺るがす事になるし、被害の程度によっては軍事に回す国力などなくなってしまうやも知れん。

「地の利人の和はあったはずなんですがねー」
「……天の時が織田に……いや、ランスとやらに味方しとるのか……? はっ、冗談!」

 んなわけあるかっつーの! だとしたらどんだけ性悪な神なんじゃ!

「まあいい。とにかく、この事が織田との会談に影響を与えるのはまず間違いなかろう。……テキサスへ急ぐぞい!」

 どういう対処を取るにせよ、後方におっては反応が鈍くなってしまう。今は会議室におるよりも現場におるべき時じゃ!

「合意するにしても決裂するにしても、まずは復興の準備をしないといないですもんねー。荷物まとめてきますよ」
「ああ、頼むぞい。火鉢に草津も、麻耶を手伝ってやってくれい」
「はい」
「……(こくり)」

 ……え? 若い女子供にばっかり任せてお前は何もしないのかって? そりゃあ仕方ないじゃろ、年寄りだもの。
 ……ぶっちゃけ麻耶たちのほうが力あるからなんじゃよねー。レベルも儂よか高いし。

「しかし……こりゃあまずいかも知れんのぉ……」

 これで、ひょっとしたら風向きが変わってしまったかも知れん。まあ使者殿がうまく休戦に持ち込んだりしたら、また違ってくるかも知れんが……

「……なぁんか、嫌な予感がしてきたのぉ……」





 そして混乱の坩堝と化したMAZO、テキサスを抜けて浅井朝倉の城にたどり着いた儂らを迎えたのは、既に国境を突破して迫りつつあるという、織田の軍勢の脅威であった。

「そりゃまあ? この世界にゃあハーグ陸戦条約はないし? 戦争法規だって普遍的なものはないじゃろうけどな? ……それでも守るべき道義はあるじゃろうが……ッ!」

 使者への回答はなされなかった。
 いや、その表現は正しくないかの。織田は確かに回答した。国境付近へ災害救助として展開していた浅井朝倉の部隊を殲滅する、という明快な回答を、じゃ。
 使者団は、どうやら全員が捕殺されたらしく、会談が決裂したという情報を持ち帰れなかったようじゃ。それに震災の混乱もあいまって、浅井朝倉は織田の不意の侵攻に対応ができず、あっという間に国土の三分の一近くを蹂躙されたという。
しかも織田は被災したテキサスの住民に対しての救援活動を殆どしていないため、被災者たちは浅井朝倉の本城へと押し寄せる結果となり、それがまた浅井朝倉の混乱を呼んでおる。

「あの異人にしてこの外道か……ッ! 反吐が出るわッ!」
「信長殿は一体何を考えてアレに実権を渡したのやら……。正気を疑いますね」

 JAPANの人間では考えられないようなこの織田の行動は、間違いなくあのランスなる異人によるものじゃろう。
 色々ふざけているし馬鹿げてはいるが……これしかないというようなタイミングでの侵攻じゃ。これは落ちるのも時間の問題じゃろうな……。

「じゃが、今落ちてもらっては困る。せめて上杉が立て直すまでは押し留めねばならん」

 上杉は武田という敵も抱えておるのじゃ。いま弱みを見せるわけにもいくまい。

「となると、私たちが浅井朝倉に助勢するしかありませんねー」
「うむ。旧式とはいえ鉄砲隊があるしの。それを指揮して、なんとか時間を稼がねば……」

 ほんとは種子島に戻りたいんじゃが……織田は京に兵力を集中させておる。さすがにその中を通って丹波に至るのは不可能じゃ。

「……あれ、なんか既に色々詰んどるような気が……」
「気のせい気のせい。とにかく、被災者のためにもあたしたち自身のためにも、一旦奴らを追い返さないといけないのは事実ですからねー。火鉢、それに草津も頼むよ?」
「はい」
「……がんばる」

 あー、やる気満々じゃね。まあ、儂も義憤やらなにやら思うところはあるし。
 ここは一丁やっちゃるかの!

 

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