- k a r e s a n s u i -

憑依老人は小銃Tueeeee!の夢を見るか

「驚異! 人体の神秘! MAZOの山奥に、食いしん坊女武者の姿を見た……!」
「……多分それはうちの謙信の事を言ってるんでしょうけど、はっきり言って失礼ですよ」
「でも否定はしないんですねわかります」
「……どう否定しろと?」
「「ですよねー」」

 という事で、歓待の宴での直江殿との一幕でした。
 腹ペコ武士王すげー。あの細っこい体のどこに入ってるんだか。胸か? ……でもそこまでじゃあないしのー。全部戦闘時のエネルギーに回っとるんじゃろうか。
 茶碗=どんぶりとか。というかおひつ単位……。

「正直聞いていた印象とは大分違いますねー」
「そうじゃなあ。どっちかっちゅーと、もっと冷たい感じの性格を想像しとったんじゃが……」

 や、正直ゆるゆるじゃろ。戦場とは別の顔って事かの。儂らは敵対はしておらんからな、敵対した相手からの印象とは、やはり全く異なるじゃろうしのー。
 願わくば、そのおっかない側面は知らずにいたいもんじゃ。

「……それは別として、この料理と、あとそっちの肉料理。これ包んでもらっても? ツレがあと二体……もとい二人おるんで」
「さすが旦那様、他所様の宴会場でもその図々しさ。家計に優しい親切神経ですね。あ、こっちの煮付けもよろしく」
「あなたたちね……」

 そんな固い事言わんといて欲しいわ。あれじゃ、デコが広がるぞい?
 ……まああの国主じゃからして、気苦労は多いんじゃろうが……こまけぇこたぁいいんだよ!!
 それにほれ、謙信殿なんて全く気にも留めずに黙々とモグモグしとるぞい。

「あー、もー……。ああなったら威厳も何もないんだから謙信は……」
「なんというカリスマブレイクじゃ」
「謙☆信☆ぐー(腹の音的な意味で)」
「〜〜ッ……はあっ!」

 うん、相当お疲れのご様子。眉間を揉みほぐす姿が実に様になっておる。いやはや、お疲れ様ですじゃ。

「この私の苦労の半分くらいはついさっきのしかかってきたんですけどね……ッ」

 なるほどそれは申し訳なく。

「ならば儂らはお土産を確保する作業に戻るのでお気遣いなくじゃ。行くぞ麻耶!」
「はいはーい。それではこれにてっ」
「あ、ちょ、主賓がいなくなってどうするんですか! ……ってもういないし。……ったく、なんて使者なのよ、全く……」

 怒り、というか嘆きの声を背にエスケープじゃ。フヒヒ、サーセンwww
 君のところのご飯が美味しいのがいけないのだよ。はははははっ。





「ほーら、お土産じゃぞー」
「わほーい♪」
「……成章、なぜ麻耶が喜んでる?」
「それはな、火鉢や。あれが麻耶だからじゃ。麻耶だからもうどうしようもないんじゃ」
「そう……わかった」
「わかられた!?」
「………………………?」

 こっちはこっちでさっぱりわかっとらんようじゃの。 ちゅーか、いつもより一層挙動が怪しいような……?
 まあ、ようは宴会を抜けだして差配された屋敷に戻り、留守番組に餌付k……じゃない、お土産を振舞っとったわけじゃが。

「ん〜? 草津や、ひょっとして調子悪いんかの?」
「………………? ………………あたまおもたい……」

 レスポンス遅っ。処理落ちしてるぞ!? ……って、処理落ち……?
 あー。ひょっとしてあれかの? 外部からの刺激が随分多くなって、入力される情報の処理がおっつかなくなっとるんか?
 樽の中から外界へ出ただけでも大事なのに、丹波から京、テキサス、MAZO佐渡と歩き回っとるからのぉ。情報過多になるのも致し方なし、か。

「ふんむ……。……ちょっと……頭冷やそうk「ッ!?」aって火鉢ぃいいいいっ!?」
「あ……ありのまま今起こった事を話します! 『旦那様が頭冷やそうかと言ったと思ったら、いつの間にか火鉢が怯えた顔で戦闘態勢に入っていた』。な……何を言っているのかわからないと思いますけど、私も何が起きたのかわかりませんでした……。頭がどうにかなりそうでした……。ストライカーだとか教導隊だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない。もっと恐ろしい魔王の片鱗を味わいました……」

 さ、さすがは魔王様のお言葉……。異界の戦士に対しても恐怖を与えるぜ……ッ。
 ……ま、まあお陰で草津のCPUがますますいっぱいいっぱいになってしまったみたいじゃがな! これは分析するまでもなくデフラグ必須じゃろ。

「ちゅーこって、暫くほっといてやろう。頭整理する時間を与えてやらんとな」
「ほいほーい。ところで火鉢は大丈夫?」
「大丈夫。私の方が頭よく出来てる」

 あー、やっぱ性能差ですか。まあ仕方ないわな。

「んじゃ、あたしらは一足先に休ませてもらいますね〜」
「おう、明日からはまた公務じゃからな、しっかり休んどけぃ」
「暫くはオアズケですねわかります」

 ……や、そりゃあ他所様の屋敷だし? 子供連れだから避けるべきは至極当然なわけですけどね? 若い身体が恨めしいわい……という煩悩はさておき。

「………………………」
「なんじゃ? そんなに見つめて」
「………………なりあきもでていく?」

 正直、「お?」と思ったね、儂は。質問に対して回答ではなく更に質問を返してきた。今まであまり……というか殆ど見られなかった反応じゃな。精神面……思考ロジックに変化が生じとるんかの? 興味深い……。

「ん、まあ面倒みるのは儂が望んだ事じゃメンテするにしても、ついといてやらんと終わった時とか困るじゃろうしな。儂はここにおるよ」
「………………うん」



 で、じゃ。
 麻耶と火鉢がいなくなって、部屋には草津と二人きり。草津はさっきの会話の姿勢のまま、儂の事を見つめたままじゃ。なんか眼球が物凄い勢いで動いとるから、デフラグは進んどるんじゃろうな。
 儂は儂で持って来とった上杉の資料を読んどるから、別に不都合はないわけで。
 どんくらいじゃろうな、一時間はとっくに過ぎたと思うんじゃが……ん?

「………………………」

 無言……のままじゃけど、眼の焦点があってきたの。……パチパチ瞬きしとる姿が微妙にかわいいのぉ。
 さておき。

「……おわった」
「みたいじゃな。どうじゃな? 調子の方は」
「……かいてき」

 ん。「…」の数が減っとるね。重畳重畳。

「んじゃ、どうするかの……っつーても、もう寝るしかないわけじゃが」

 いい加減いい時間じゃしな。麻耶たちももう寝とるだろうし、交渉は明日からもある。やる事がないなら寝てしまうのが一番じゃろう。

「お前さんも、明日からはまた色々連れまわす事になるじゃろうからな。折角整理できた頭だ、明日色々突っ込むんじゃから、今日は寝とけ」

 言いつけてほいっと背中を押す。一応大小二部屋を寝室に使っとるが、麻耶と火鉢は広い方で既に寝とるし、今日は儂が狭い方に一人、じゃな。

「………」
「ん? なんじゃい?」

 押したはいいが動きやせん。儂も鍛えちゃあいるが、戦闘用の人造生命体のスペックにゃあ敵わんわけで、押した掌が背中に張り付くばかり。何がしたいんじゃ?

「……なりあきといっしょにねる」
「ほ? いっつもは麻耶と火鉢と一緒に寝とるじゃろ?」
「……きょうはなりあきがいい」
「ほ……」

 ……嬉しい事言ってくれるじゃないの。

「そか。そかそか。んじゃまあ……寝るか」

 ぱぱっと寝間着に着替えて、草津も着替させる。別に今更恥ずかしがるような歳でもなし、目の前で草津が着替えようが気にならないんだぜ!
 ……まあこれが麻耶だったらわからんがな!

「ほれ」

 布団に寝っ転がって隣をぽんぽん。
 もぞもぞと潜り込んでくる姿が、ああ、なんちゅーか孫みたいで可愛いのぉ。

「ん、いい子じゃ。んじゃ、おやすみ」
「……おやすみなさい」

 答えて、数分も絶たないうちに寝息が聞こえてくる。デフラグも結構負担になっとったんかの?

「しかしまあ……。成長しとるようだの、色々と」

 そう、色々と、じゃな。

 一つ溜息をついて、思考を好々爺モードから技術者モードに切り替える。

 考えるのは生体兵器「ぬへ」試作体、草津の事。
 姫路から連れ出してこっち、火鉢も含めたぬへは非常に多くの情報を入力され続けておる。それまで樽の中だったわけじゃから、正に天変地異と言っても過言ではないレベルじゃろう。
 その結果が今回の草津の処理落ち、ならびにデフラグであるわけ、じゃな。
 火鉢の方に支障が出ておらんのは、まあスペックの違いじゃろうな。

 で、草津じゃが……やっぱり変化は生じてきておる。顕著なのがさっきの行動じゃな。
 これはではこちらが質問し、それに対して反応する、というコミュニケーションのみじゃったが、さっきは明らかに自身の意見を主張しておった。これは大きな進歩じゃ。
 そしてその意思の発露が、儂に対する執着……愛着? まあ細かいところは置いておくとしても、儂に対して悪い感情をいだいている訳ではない、と言えるじゃろうな。
 多少楽観的かも知れんが、むしろ好意的な感情である、とも思えるが……さて。

 他にも、上位者に対する服従姿勢も見逃せないの。基本的に儂の指示には従っておるし、麻耶に対してもそれは同様じゃ。

 生命体であるが故の自律思考と、兵器であるが故の命令への服従。
 この二点に関して良好な進歩が確認できた事は、これは大きい。

 ……人でなしなような事を言うが、儂は草津をただの人間のように育てるつもりは、ない。生体兵器、という存在に相応しく育てておるつもりじゃ。
 火鉢と違って、下手に人道やら何やらを意識して、普通の人間としてのみ成長しても、幸せにはなれんじゃろうしな。
 草津が兵器である事は、生命体である事と並び立つ要素なのじゃ。むしろ製造された理由を考えれば、兵器である事の方が先に立つじゃろう。
 そして道具には使い道があり、それに準じる事が自然であると、儂は思う。
 ……善悪は、さておきじゃがな。こればっかりは、麻耶には任せられん。儂が負うべき責任じゃろう。

 もちろん、人間的な扱いをせんわけではない。むしろ今現在を思えば、孫のような感情を向けておる自分がいる。
 これは後々儂を苦しめるやも知れんが、それは甘んじて受け入れよう。
 兵器として扱い、孫娘として愛す。
 それに草津がどう答えてくれるのか……。
 火鉢の事も含め、それが少しでも幸せなものである事を願わずにはおれんわい。
 我ながら、度し難いもんじゃな……。

 

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(c)Ryuya Kose 2005