- k a r e s a n s u i -

憑依老人は小銃Tueeeee!の夢を見るか

 はい、やってきましたテキサス!
 砂漠風味の地形が想像されますが、実際は温帯草原と平原が中核を占める……わけではなく。
 いわゆる越前の事じゃな。なんでテキサスなんじゃろ。本気でわからん。

「どうかなさいましたか?」
「ああ、いえ。義景公の温情に感謝しておりましただけです」

 益体もない事を考えとった儂に怪訝そうな表情を向けるのは、義景公から儂らの対応を仰せつかったという朝倉二十二郎どの。
 ……国主の一族の人間が応対しとるわけじゃから軽視されてるわけではないんじゃろうが……。聞けば義景公には百人近くの子どもが居るとか。その二十二番目とか、これはどう判断すればいいんじゃろ……。

「そうですか? では、こちらが父が書いた紹介状となります。父も昨今の織田の行動には頭を痛めておりまして、外交工作に力を注いでおります。ですので、今回の申し出は私たちにとっても渡りに船だったのですよ。」
「おお、それは心強い事ですな。浅井朝倉の文と上杉の武。この両輪があれば織田なぞなにするものぞ。感謝いたしますぞ」
「はは、ご謙遜を。種子島も鉄砲という大きな力を持っているじゃありませんか。我が浅井朝倉は国家の方針もあって軍事力はお粗末なものですが、種子島家から買った大量の鉄砲がありますからね、心強いですよ」

 あ〜、そういえば在庫一掃セールの時の一番の大口の客は浅井朝倉じゃったな。あれでかなり種子島家の国庫は潤ったもんじゃ……。





「でも所詮は浅井朝倉ですからね〜。宝の持ち腐れじゃないですか?」
「……まあ、そう言ってやるな」

 もちろんこんな暴言は城を離れてからしてますよ? 聞かれたらさすがにまずいからのぉ。
 しかし、まあ。言っとる事は決して間違ってはおらんじゃろう。
 浅井朝倉はその政略が要となる国。同じJAPANの国に対しては、その外交戦略はなかなかに有効であった、のだが。
 今の織田は異国人がトップじゃからの。常識が通じない……というかなにも考えてないっぽいから、策が策にならんのじゃ。んで、単純な武力はアホみたいにあるから、結局は力押しで磨り潰されるのがオチじゃろ。

「とはいえその外交ルートは確かなもの、と」

 実際、儂が行った時には既に北条には連絡済みじゃったし。ただ、北条は対武田に軍事力の多くを割いとるから、あまり期待はしすぎないでくれ、とは二十一郎どの。
 しかしそうなると、上杉もあんまり期待出来んかも知れんのじゃが……。

「でもまあ上杉は国主が女性ですからね〜。また違った反応の期待できる、かも」
「そうじゃな、そこは抑えておきたいポイントじゃ」

 女の敵!ってトコをプッシュしていけば、或いはのぉ?
 ま、合戦さえあればどこへでも顔を出すみたいじゃし、程々には期待させてもらおうかの……。
 義将・軍神と名高い上杉謙信、さてどういう対応を見せてくれるやら……。





 因みに先行して送られた、種子島の使者が行きますよ、という書状の扱いは

「謙信様、浅井朝倉から書状が来てますよ」
「……? ………(くぅ」
「はいはい、ご飯が先ね」

 こんなだったらしい。





「上杉領へようこそ、謙信様より案内を命じられた長尾虎子です。ここからは私が先導します」
「これはご丁寧にどうも。柚原成章ですじゃ。道中よろしくお願いいたす」
「任せてください(……ですじゃ? 変な人)」
「……柚原麻耶と愉快な仲間たちです(くまミミ……ケモノ属性持ち……しかも虎……同じネコ科……キタコレ?)」
「火鉢、です」
「………………」
「ほれ、草津や」
「…………草津」
「あ、はあ。よろしく(……なんか、ホント変……)」

 MAZOとテキサスの国境。そこで儂らを出迎えたのは、上杉の陰陽師隊じゃった。長尾虎子と名乗ったその隊を率いる少女は……なんというか……くまミミじゃった。
 因みになんぞ思うところでもあったのか、麻耶の挙動が不審なのは取り敢えずスルー。なんかろくな事にならなさそうじゃし。
 しかし、陰陽師か。種子島には晴天祈願の巫女くらいしかいなかったから縁薄いからのぉ。ちょっと珍しいかもじゃな。
 それに、武士や足軽と違って陰陽師や巫女はなんというか、超常的な力を発揮するじゃろ? 科学技術に基づく鉄砲とは正反対の性質を持っとる、ともいえる。
 一応資料で調べてはおるが……正直、興味がつきんのじゃよね。

「虎子殿……で、よろしいですかな?」
「はい? 別にいいですけど、なにか?」
「いえ、儂ら種子島の人間にとって、陰陽師というのは些か馴染みが薄うございましてな、色々と興味があるのですじゃ。問題ない程度で構いませぬから、話をお聞かせ願えませんかな?」
「あ〜、この人、根っからの技術者だから、未知の仕組み、とかそういうの大好きなんですよね。ほら、足軽とかは種子島にもフツーにいたからもう興味も薄れてるけど、陰陽師は種子島じゃちょっと珍しいから。かくいうわたしも興味津々。苦しゅうないから教えて? ね?」
「ちょ、迫ってこないでよ!?」

 ……うん、こういう時麻耶がいると楽じゃのぉ……。初物相手だとしてもATフィールドを中和しています! ……序と破は観たけど、Qは観てないんじゃよなぁ、儂。
 とまあ微妙に前世(?)を思い出してひとしきりしんみりしてから意識を戻せば、そこには陥落した虎子嬢の姿が……!

「わ、わかった! わかったからその手を離っ……ぁ、やぁっ……」

 ……違う方向にも陥落しそうじゃの。まあ眼福という事で。
 あと草津、あなたは見ちゃいけません。火鉢は……まあ後学のためにどうぞ。



「……もともと私は北条の出なんです。北条と上杉は対武田の関係で縁があるし、私は謙信様に憧れていたので、それで移ってきたんです」

 ほうほう。

「陰陽術っていうのは、大陸の魔法みたいなもので、紙に特殊な墨で字を書いて――」

 ふむふむ。

「過去には初代北条早雲っていうすごい陰陽師がいたのよ。それで――」

 なるほどなるほど……。



 〜中略〜



「って一体いつまでどこまで語らせる気!?」
「儂の知的好奇心が満足するまで」
「旦那様の好奇心は百八式まで。残念ながらまだ折り返し地点にすら」
「きっぱり言い切った!?しかもこの倍も喋らせる気なの!?」

 いやあ、だって、ねえ?
 実際興味が尽きんじゃろ。儂にとっては正にファンタジーが現実となって目の前にあるわけじゃからなぁ。

「うわ……なんか怖い目……」
「遥か彼方の真理を見据える目、と言ってください」
「なによそれ、惚気?」
「もちろん」
「はぁ……」

 少女、虎子は疲れたように頭を押さえる。
 最初は良かったのだ、謙信様から直々に任務を命じられた事は誇らしいし、その時自分と同じく城で待機していたライバルではなく、自分にそれが命じられたという事実は、自尊心と優越感を大いに満たしていた。
 しかしどうだ、実際会ってみれば、なんともめんどくさいというかなんというか。
 しかも四人中二人はなんか普通じゃないっぽいというか人間じゃないっぽいというか。

「悪い人たちじゃあないっぽいのが救いだけど……はぁ」
「ん? ああすまん、喋り疲れたかの?」
「別にそういうわけじゃあないけど、まあ気疲れは」
「む……そりゃ悪い事したのぉ。今後は、時間はたっぷりあるわけじゃし、おいおいゆっくり教えてもらえれば、それで充分じゃ」
「聞かないって選択肢はないの?」
「あ〜……。まあ勘弁しとくれ。正直楽しくて仕方ないんじゃよなぁ」

 子どもっぽいとは思うんじゃが。そういって、照れくさそうに頭を掻く成章は、本当に楽しそうで。

「……まあ、別にいいけど」

 だんまりの道中や、それこそ県政みたいなやつよりかはよっぽどいいか、と思う虎子であった。





 さて、MAZOを抜けて辿り着きましたは佐渡! なにやらハニーの亜種であるゴールデンハニーとやらの死体(残骸?)が埋まっとるらしく、それが上杉の資金源らしいの。羨ましい事じゃ。

「しかし道中、見事に女性武将ばっかりでしたね〜」
「うむ。種子島にもお前さんや柚美がおったが、比べ物にならん比率じゃ」

 ちゅーか、男仕事しろ。影も形も見当たらんとはどういうこっちゃ。いやマジで。

「上杉はカンペキに女性上位の国だから。男はてんで役に立たないくせに文句ばっかり言ってるし、県政なんか特にそうよ」
「県政?」
「謙信様の叔父よ。事あるごとに女をバカにして……ムカつく奴」
「ふむん?」

 あ〜、そらまた面倒な……。叔父っちゅー立場は無碍にもできんじゃろうし。内部にそんな軋轢を抱えとったんかいな……。

「でもまあ」
「うん?」
「謙信様がきっちり手綱とってるし、大事になんてならないわよ」
「……ほ。それは頼もしいの」

 声に滲むは絶対の信頼、と。大したもんじゃわい。
 しかし、天に煌く英傑を堕とすのは地を這いずる矮人、というのは一つの真理ともいえよう。下手な事態にはならんで欲しいもんじゃ。



「いい!? 絶っっっっ対に! 無礼な態度取らないでよ!」
「はーい」
「ほーい」
「くっ……」

 おお、さすが陰陽師、見事な自制心を発揮しよった。
 ま……ここは上杉の城、大広間の手前。襖一枚隔てた先には上杉謙信とそれを支える諸将がいる場所なのだからそれも当然か。
 浅井朝倉から既に話は通っていたらしく、謁見は速やかに行われる事と相成ったわけで。引率役の虎子がそのまま案内役となってここまで来たわけじゃ。
 しかしどうでもいいが虎子嬢、すっかり遠慮がなくなってまあ。
 まあ打ち解けて悪い訳でなし、弄れば面白いし。火鉢と草津に対しての反応も、まあ正体を知らないとはいえ良好と言える。……あれ、割と優良物件じゃね?
 因みに火鉢と草津は別室で待機じゃ。

「長尾虎子、種子島よりの使者をお連れしました」

 そうこう考えてるうちにお披露目でござる。「入りなさい」という声を受け、虎子嬢がつう、と襖を開ける。

「おぉう」

 そこはパラダイスでした。十数人からの女武将が居並ぶその光景は圧巻、それも大半が見目美しいともなれば、まあ壮観な事よ。
 しかし、どれほどの人数がいようとも、恐らくそれに埋もれる事はないと確信できる存在が、上座にいるわけで。
 ……あれこそが上杉謙信に相違なかろう。

「虎子、任務お疲れ様です。――そして初めまして、種子島の使者殿」

 で、その脇に控えるちょっとキツめの美人おでこが直江愛……じゃな。
 カリスマはあれど内政能力がない謙信の脇をがっちり固める、むしろ謙信よりも重要かもしらん重臣らしいが……この場でも謙信を差し置いて声を掛けてきたという事は、どうやら事実のようじゃな。

「ははっ。まずは国境よりの護衛、ならびにこの迅速な会見の設置、感謝の念にたえません。儂は柚原成章、此度の交渉の全件を任されております。よろしくお願い致しますぞ」
「副使の柚原麻耶です」
「直江愛です。よろしくお願いします」

 ん、やはり直江殿が交渉相手となるか。コレも、一筋縄では行くまいな……。
 ま、なんにせよ交渉開始、じゃな。



「――とまあ、以上が織田の所業ですな」
「同じ女として怒りを抱かざるを得ない」
「……噂には聞いていましたけど、それほどですか……」
「は。……種子島が明石へ内々に援軍を送ったのは先ほどお話したとおりですが、もし未亡人だらけになってしまった彼の国が、横槍を入れてきた織田の手に落ちていたらと思うと……」

 儂の言葉に顔をしかめる直江殿。まあ、容易に想像出来る上に有り得そうな話じゃからなぁ。
 うん、交渉相手が女性だけに、やはり織田の異人の所業を伝えたのは効果覿面じゃな。
 ……まあ女性に昼間っからそんな事話す自分に少し凹んだような気がしないでもないけど。まあ直江殿も羞恥よりも嫌悪が先立っておる様子、頬は僅かに染まってはおるが、怒りが故のものであろうな。

「我ら種子島は、この織田家と毛利という好戦的かつ暴虐甚だしい二国と国境を接しております。如何に我らが先程献上しましたような優れた兵器を持っておるとはいえ、二国同時に相手取るのは愚の骨頂。。そして上杉家も武田という宿敵がおり、それは織田とやりあう片手間でどうこうできるものでなし。つまり双方にとって、織田の動きを静止する事は理に適った事と言えましょう」

 これが理での攻め口じゃな。武田は強い。織田と武田の二国を同時に相手取るのは、如何な軍神率いる上杉とて難しい。先に織田を潰すにせよ、武田を攻める際の後顧の憂いを断つにせよ、この提案は役に立つ。軍師ならば無視できようはずもないじゃろ。

「……同時に、織田のその目に余る蛮行。これを黙って看過するというのは、妻を持つものとしても、一個人としても許せるものではありませぬ。義将と呼ばれる謙信殿ならば、この気持ちわかっていただけると思いまする」
「……確かに」

 そして情での攻め口。そも、謙信殿はJAPANのどこでも合戦があれば東奔西走、戦を厭い蛮行を嫌うお方。
 なれば織田のそういった側面をアピールすれば、乗ってくると思ったんじゃが。
 ……実際、織田の――というか異人のやり口だと、禍根を多く残すと思うんじゃよね。【前】も従軍慰安婦だなんだと問題になっとったし。
 ん? でも戦国の倣い云々で済ませられかねない問題でもある……のか? 正直戦国とかその辺りの日本の性文化はえらい事になっとるし……。
 ……ま、まあ別に儂までもがそれに倣う必要はないわな、むしろ糞食らえじゃ。  そしてまあ、目の前で険しい表情になっている軍神様もまた、面白くは思っていない様子、じゃな。

「……愛?」
「そうですね……。大義名分もありますし、情理双方とも理由が揃っています。問題があるとすれば武田ですが……それも北条が参入すれば解決しますね」

 んむ、おおむね好感触……かの? 先立って狙撃銃として使える試作版〇五式十丁を献上してあるし、これだけ場を整えておればのぉ。

「うん……。北条家の参加が条件となるが、上杉も対織田包囲網に参加しよう」
「ご決断、感謝いたしまする」

 はい、メイン盾きた。これで勝つる! ……ほど甘くはないじゃろうが、まあ小国でしかない種子島にとって、かなり頼もしい壁役になってくれる事じゃろう。
 いや、壁役どころかJAPAN最強の声もある謙信殿、もし戦場で織田の異人と戦うような事があれば、ひょっとして……とか思ってしまうわい。
 いやはや、そんな予想外が起きればいいが、……さてどう転ぶやら。

 

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