- k a r e s a n s u i -

戦国ランスオリキャラであれこれ

 ――明石降伏。
 その一報は、それなりの衝撃を伴って全国を駆け巡ったという。
 規模は小さいながらも精兵を揃え国をよく治め、また毛利に壊滅寸前に追い込まれてからも驚異的な粘りを見せた精強さは、皆の知るところとなり。
 同時に、そんな明石ですら飲み込み押しつぶした毛利の強さ、それもまた改めて認識されたわけじゃな。




 で。毛利から降伏受諾の連絡が来て、風丸殿たちが詰めの交渉に取り掛かっているだろう頃じゃ。

「……ぃよし。準備はいいかの?」
「……いい」
「できました」
「一万年と二千年前から準備は万全です」
「お前は黙れ」
「(´・ω・`)」

 ……ごほん。
 あ〜、毛利との戦闘で集まったデータや現地改修品含め、種子島からの援軍は既にほぼ全てが明石を離れておる。貴重な実戦データ、運用・整備に熟達した人材たちは、今後の種子島を大いに支えてくれる最重要品じゃからのぉ。
 残っているのは、責任者である儂と、問答無用で着いて来る麻耶、後は儂が勝手に背負い込んだ用件であるぬへ二体……火鉢と草津だけじゃ。

「んでは、ま……。丹波に向かうとするかの」
「……むかうとする」
「妹様、きっと寂しがってますね。むしろ義妹さまですけど」

 あ〜、そうじゃな。柚美にはもう暫く会っとらんからのぉ。元気にしとるじゃろうか……。
 そして、あれだ。やはりこいつを紹介せねばならんのか。あと重彦様にも。儂、曲がりなりにも重臣じゃし。

「……風丸は?」

 ん? と呟きに視線を向ければ……西の方角、風丸殿がいるだろう遥か毛利の地を、切なそうな眼差しで見やる火鉢の姿が。
 ……いや、これで感情がないとか嘘じゃろ。乙女じゃのぉ……。
 さておき。

「まあ、そんな心配はせんでもいいじゃろ。今の風丸殿は、そう簡単に死んだりはせんよ。ひょっとしたら、逆にあのバケモノジジイに気に入られるかも知れん」
「それはそれで苦労しそうですけどねー」
「苦労で済むなら儲けもんじゃろ……多分。それに、ほれ」

 ぺしん、と軽く頭を引っ叩いてやる。

「人の心配なんかしとる場合じゃなかろうがよ。お前さんも、死なない戦い方や、生き方を覚えて、再会した時に風丸殿を安心させられるようにならんといかんのじゃ。それが風丸殿の願いじゃし、約束を受けた儂の責務でもある。つーわけで、手加減はせんからな、お前さんも、暫くの間はこっちに意識を集中してもらわんと、あとで困るのは自分じゃぞ?」
「……わかりました」

 んむ、純粋じゃのぉ……。
 無知故の無垢、兵器故の無知かも知れんが……こうまで一途に想う事が出来るとはの。やはり今までのぬへとは違うのか……?

「……こいつにしたってそうじゃしなぁ」
「………」

 視線を寄越しても、それに気付いても、命じられていないからか別段反応しない草津。……いや、たまに命令や問いかけではない言葉に対しても反応する事はあるんじゃが……基準が全然読めないんじゃよなぁ。
 草津と火鉢とじゃあまた全然違うしの。草津という試作を経て火鉢へと至った……のかのぉ?

「……ま。どれもこれも、まずは腰を据えてからじゃな。出発じゃ!」



Now Traveling...老爺旅行中……





 一方その頃。
 姫路より遥か西、赤ヘルは毛利の城。強大な軍事国家毛利のまさにただなか本拠地に、明石風丸はいた。
 広い評定の間にいるのは風丸以外には二人だけ。しかし風丸には、何十人何百人の前に立つよりもなお重いプレッシャーを感じていた。

 毛利が当主、元就。その長女、毛利てる。
 毛利三姉妹はいずれもが一騎当千、元就に至っては万夫不当。ならば一万と一千の兵の前に立つようなものなのかな、と現実逃避気味に風丸は考える。

「さて。今回が詰めの交渉となるが……なにか言う事はあるか?」

 絶対的な立場の差。それを隠しもしない言い草で、毛利てるが告げる。
 言えるものなら言ってみろ、と言わんばかりである。
 これはあくまで明石が毛利に降伏するのであるからして道理であるが、強者の余裕というものがそれを言わせるのだろう。

(これはきっと油断じゃない、本物の余裕なんだろうな)

「いえ。これまでの交渉で提示した条件で充分です」

 税率の上限や民衆の安全が保障される範囲など、明石側から提示した条件は、どれも名よりも民衆の安寧という実を取ったもの。
 最後は見事といえる粘りを見せはしたものの、結局は完敗した国が示すものとしては、まあ妥当なものであるが……しかし。

「……ふん。つまらんな」

 毛利てるには、その姿勢が気に入らない。

「貴様の父も兄も、名だたる驍将たちも、皆我らを恐れずに挑みかかってきた。同輩が蹴散らされようと、兄弟が縊り殺されようとも、息子が肉片と化そうとも、抗ってきた。それが貴様はどうだ?」

 睨み付ける視線は凍てつくほど。風丸は、蔑みと僅かな失望をその中に見る。

「自分はろくに戦わず、他所からの援軍に頼ってばかり。その援軍も武技ではなく武器に頼っての強さ! 貴様それでも武士の子か!」
「……ッ」

 一喝されて、思わず肩を竦めてしまったが。しかしそれで一つ、思い出した事がある。

(そういえば昔……母上にもこんな風に怒られた事があったかな……)

 ここ暫くは朝比奈や安部などの年老いた重臣とばかり話していたため、うら若いてるの存在は、風丸にとってプレッシャーの源泉でもあったが、同時にある種の清涼剤にもなっていたのである。

(……そういえば麻耶さんは全然そんな感じしなかったけれど。色んな意味で成章さんの相方、っていう印象しかないし)

 それはさておき。

「……抗えば、より多くの命が喪われましょう。それを避ければこその降伏です」
「む……」

 風丸が立て直したのを感じて、てるの顔色が僅かに変わった。

「この先戦い続けたら、明石で死んでいくのは女子供や老人だけになる……。そんな事は誰も望んでいない。だから僕は戦わない事を選んだんです。確かに、これでも僕は武士です。その恐ろしさを知りながら、毛利元就にも怯まずに挑んだ、明石風雷の息子です。悔しい気持ちはあるけど……でも」

 つ、と視線をてるからその後ろ、沈黙を守ったままの元就にむける。

「武士であると同時に、僕は明石の国主です。国主には、国を守り民を守る義務がある。頼りない僕を支えてくれた皆を守るため、僕は武士の本懐よりも国主としての勤めを果たします。これもまた、戦いだと思いますから」

 かといって、武士である事はもちろん棄てるつもりはありませんけどね。
 そう付け加えた風丸を、元就はじいと見詰め。てるもまた、意外そうに……けれど面白そうに眺める。

「ふん……? 甘ったれたガキかと思えばなかなかどうして。どうする? 元就」
「そぉだのぉお……」

 娘に問われて、初めて元就が沈黙を破る。
 本人にしてみればただの呟きなのだろうが、その声量たるや常人がちょっと張った声に等しく、風丸は思わず耳を押さえた。

「風ぅぅうう、だったか?」
「は、はいっ」
「国としてのぉお構えぇ……、し……しと聞かてもらっぁあああぁあ……。しかぁしぃい、でならなんとでもるうぅう」
「む……」
「う……」

 元就の言葉で喜色を滲ませたのがてる。対照的にさっと青褪めさせたのが風丸である。
 てるは経験で、風丸は直感で今後の展開を察したからである。
 そして果たして――。





「いくぞ、明石風雷が息子よ! 貴様の強さを示して見せよ!」
「くっ……僕は負けない!」

 毛利の城は錬兵場。
 荒事大好きなお国柄に加え、ならず者たちが使っているのだからさぞかし荒れ果てているのだろう、という風丸の予想を裏切って、そこは使い込まれている感じはあるものの、清潔で綺麗な場所だった。
 聞けばなんと、この目の前の毛利てるがいつも掃除しているらしい。

(人は見かけによらないっていうけど……)

 そんな風丸の失礼な――しかし妥当でもある――内心を読み取ったわけではないのだろうが。



『そ……その意を違えぬ……我が娘とぉおって証明して見ろおぉお!』



 という元就の一言から始まったこの試合、てるの攻撃は苛烈だった。
 てるの得物は言ってみれば刃物で出来たハタキである。どう考えても使いにくいそれを、てるは巧みに使いこなして攻撃を加えてくる。
 一撃を貰えば最後、狭い間隔でズタズタに切り裂かれた傷口は治りが遅く、大した事のない怪我が致命傷となりかねない。
 故に風丸は手にした刀で、それを必死に受け続ける。

「というか、これは試合なんですよね!?」
「そうだ! 間違いなく死合だ!」
「な、なんだか行き違いがあるような……!」

 声を出す余裕があるのは遊ばれているからだろうという確信を抱きながら、風丸は必死に防御を続ける。
 風丸の現在のレベルは11である。対して、てるのそれは40と風丸を大きく上回っている。加えて実戦経験にも雲泥の差があるので、本来なら瞬刷されてもおかしくはないのだ。

(なのに僕はまだ立っていられる……。よっぽど遊ばれてるんだろうな)

「考え事とは余裕だな!」
「うわっ!?」

 ガキン、と嫌な音を立てて二人の武器がぶつかり合う。今まで以上の力で打ち込まれた攻撃を、風丸は懸命に防ごうとするが。

「足元が留守だ馬鹿者め!」
「あっ……ぐあっ!」

 上体への攻撃に意識を向けさせておいての足払い。踏ん張りが利かなくなった風丸は、当然てるの攻撃を防げなくなり、激しく地面へと叩きつけられた。

「どうした、この程度か!」
「うっ……ぐう……まだ、まだだ!」

 幸いにも――もちろんてるが意図したものであるが――峰打ちであった為に酷い打撲で済んだものの、その苦痛は並大抵のものではない。
 ないが、それでも。膝を突く理由にはなりえない。

「まだ抗うか! おもしろい! 行くぞ!」
「う……わぁあああああ!」

 そんな二人の激突を。

「………」

 元就は、ただ黙ってじっと見詰めていた……。




 数時間後。

「うむ……。もうそろそろ仕舞いだな」
「……ぅ……」

 若干汗ばんではいるものの悠然としているてると。その足元に倒れ臥す風丸。
 風丸の全身に刻まれた数多の傷跡を見ずとも、その立ち位置、構図だけでどちらが勝者であるかは歴然であった。

「思っていたより骨があったな。しかしその骨にも皹が入っていよう。それ以上無茶をすれば取り返しがつかんぞ」

 そのてるのセリフを、風丸は熱を持って疼く、全身の打撲・裂傷に茹る頭で聞いていた。

「みんな……が、老骨に鞭打って……僕よりも幼いような子たちが骨を折って、僕のために……明石のために戦ってきたんだ……。だから、今度は僕が背負う番だから……挫けてなんか、いられない……ッ」
「その意気やよし! しかし体がついてこぬか……。元就、もうよいか?」
「そだのおおぉ……」

 何事かてるが喋っている。元就がこちらを見て何か言っている、が。風丸は動かない。動けない。

(くそ……ッ! これじゃあみんなに……成章殿に……それに火鉢に顔向けできない!)

「ぅ……ぅううううっ!」
「む……。まだ立とうとするか。まだ目も死んでおらんな」
「ふ……ぐっははははは! ぃいぉおお! 気にぃい……ったぁあああ!」

 空気を揺るがす呵々大笑も、最早遠く。
 ただ地を抉って握り締めた拳と、最後っ屁のような眼光一つ残して、風丸は意識を失った。



 ――火鉢……



「む。ようやっと気を失ったか」
「こ……根見せたのぉ……。がまだまだじゃぉ」
「その割に嬉しそうだな元就」
「そ……そうのぉおぉ……。えればモノになるか知れんからのぉ……」
「ふっ……楽しみにしておこう。……誰か!」
「へいっ」

 てるの声に答えて兵が一人。来るやぐったりとしてはいるが生きている風丸に目を丸くする。どうやら殺されるものと思っていたらしい。

「そいつに巫女の治療を受けさせてやれ。長い付き合いになるかも知れん、丁重に扱ってやれ」
「へいっ」





 こうして毛利と明石との間の降伏条約は結ばれた。
 同時に、毛利から明石に通達がいったという。

 それは、明石風丸を毛利家で預かり、客将とする、というものだった。

 そして後に風丸曰く、「この頃は、人生でもっとも爺さん連中に振り回された時期だった」、と……。

 

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