- k a r e s a n s u i -

戦国ランスオリキャラであれこれ

 で。
 あれから三日が経ち、既に毛利への降伏の使者は発ち、入れ替わるように前線におった種子島の鉄砲隊が撤退し、順次丹波へと帰還を始めておる。
 姫路国内への事前告知も既になされ、安堵と落胆が綯い交ぜになったような、一種異様な雰囲気が立ち込めておった。



 そんな中で、儂は再び風丸殿に呼び出されておった。

「久しぶりですね、柚原殿」
「はい。風丸殿は……随分と忙しくされておられたようで」
「それは、まあ……。でも、必要な事で、僕が選んだ事ですから。きつくても、辛くはないです」

 色濃い隈に、少しこけた頬。けれども言葉からは何処かさわやかな印象が伝わってくる。こりゃあ、化けたのぉ……。
 などと感心しておったら、勘付いたのじゃろう、風丸殿は苦笑して頭を掻いた。

「おかげさまで、少しか国主としての自覚を身につける事が出来たみたいです。ありがとうございます」
「あ〜、いや、決して礼を言われてよいような事ではないのですが……いやはや」

 ううむ、純朴なところを残しつつ、国主としての威厳や貫禄を身につけつつある……。儂の余計な言葉でここまで成長なさるとはなぁ、予想外です、じゃ。

「さておき……今回は、柚原殿に手伝って欲しい事があるんです。……というより、種子島鍛冶師集団及び技師衆筆頭の、柚原成章殿に、ですね」

 ふむん? 技術者としての儂に、って事か。
 ん〜〜〜。

「……ぬへ、の事ですかな?」

 この結構ぎりぎりの状況下で時間を割くほどに風丸殿が重視しており、わざわざ儂に……しかも技術者としての儂に相談を持ちかけるネタ、となれば選択肢は総多くないからのぉ。
 果たして予想はずばり、風丸殿はこくりと頷かれた。





「この先に、ぬへが保管されている秘密の小屋があります」

 あれからすぐに北の裏口から城を出て……獣道を通り森を抜け、と、恐らく明石家直系の者しか知らないであろう秘された道筋を辿り、儂と麻耶はそこに連れてこられていた。

「ここが……」
「はい。ぬへたちが保管されている、秘密の倉です」
「うぅむ、まさしく秘密の部屋……じゃない、秘密の倉じゃのぉ……。しかし、よろしかったのですか? このような……正に明石の最重要機密とも言えよう場所に、他国の者を案内して……」

 や、儂も戦時中に兵器開発に携わっておったからのぉ……。なんか気になるというか落ち着かんというか……。
 ま、まあ落ち着かん理由は、未知の兵器に対する好奇心が影響してもいるんじゃが……。
 その点麻耶は「ほへー」と暢気に感心したような声を上げて……なんというフリーダム。

 とまあ儂がそんな風にきょどっておると、なんぞ風丸殿に笑われたんですが。

「それは気にしなくても大丈夫ですよ。もうじき、これは「明石の機密」ではなくなりますから」
「ぬぐ……それは……むぅ」

 あ〜、皆まで言わせるかね儂も……。
 しかし、苦さは見せつつもこうして口に出せる辺り、これはもう乗り越えたか。

「男子三日会わざれば、じゃな」
「呂蒙乙」
「りょもう?」
「や、なんでもありませんぞHAHAHAそして麻耶お前は自重しろ」
「はいはい。や、でもなんかこれ楽しいんですよね」

 ああ、いかん……。寝物語に色々喋った儂の自業自得じゃが、麻耶がどんどん妙な方向へっ……。



 取り敢えず麻耶をしばいた後、儂は風丸殿と連れ立って倉の中に入った。麻耶? あいつは罰として外で待機。

「父が残した手紙では、ぬへは全部で五体いるはずです。これまでに……生野、夕餉、縄取を僕は起こしてきました。残るは火鉢と……手紙によると、試作型の草津ですね」
「ふむ……。しかし、移送するにも何にせよ、このままではのぉ」

 目の前には八つの大きな樽。そしてそこに繋がる幾多のチューブ、その中には蛍光の緑も毒々しい液体がゆっくりと流れておる……。いやなんとも、これは……。

「柚原殿?」
「――はっ!?」

 いかんいかん。興味はあるが、優先事項を間違えてはいかん。

「取り敢えず、開けない事には何も出来ませんし……。僕は火鉢を。柚原殿は草津をお願いします」
「お? おうおう、了解したぞい」

 ぬぅうう、なんぞ緊張するわい……ッ。未知との遭遇じゃ!

「では……オープン!」

 ばこん、と樽の蓋を開けると……そこには、若草色の髪をし、ぼろい布きれを申し訳程度に身体にまとった女……少女がいた。

「これが……ぬへ、か」

 間近で見るのは初めてじゃが……いや、本当に見た目はただの人間じゃな……。
 などと見つめておると、ぬへ……草津がこう「ぱちっ」と目を開いたんじゃ。

「………」
「………」
「………(汗」
「………」
「………(滝汗」
「………」

 な、なんぞこれ!? なんか純粋な目で見つめられてるんですけど!
 と、取り敢えずほわっちゃねーむ?

「あ〜……、なんじゃ? あれじゃ、お主が……草津、じゃな?」
「………(コクリ」

 おお、反応した。死んでたわけではなかったんじゃな。
 ……なんぞ開け方悪くて殺してしまったかと思ったわい。

「………」
「……あ〜、と喋れないんかの? もし喋れるんなら喋ってくれ」

 なんじゃろう……凄くやりにくいんじゃが……。ここ最近はずっと周りに饒舌な奴ばっかりおったからのぉ……麻耶とか麻耶とか麻耶とか。

「……しゃべる」
「お、なんじゃ、喋れるんか」
「………(コクリ」

 ふむ……意志の疎通は可能、会話も可能。じゃが、会話事態はあまり得意ではなさそうじゃな……。

「めーれー」
「ん?」
「めーれーは?」

 めーれー? ……命令の事か。

「いんや? 特にないんじゃが……ああいや、風丸殿と相談せんといかんからなぁ」
「……どーしたら?」
「……取り敢えず待ってたらいいんじゃないかのぉ?」
「……まつ」

 言うや否や、儂の足元に座り込んで、焦点の合わない目でぼーっと虚空を眺めている。
 ……なんじゃこりゃ? あれか、待機状態……なのかの? 命令がないから。
 ……ま、まあともかく、今後を決めるのは風丸殿じゃし、任せればよかろうな。

「あ〜、草津や草津」
「……めーれー?」
「いんや、お前さんに命令をするのは明石風丸殿じゃ。すぐにこっちに来ると思うから、そしたら風丸殿に命令を求めてくれぃ」
「やだ」

 なん……じゃと……?

 いやいや待て待て。クールじゃ、KOOLになるんじゃ柚原成章!
 ひょっとしたら聞き間違え課も知れんじゃろ? そうじゃきっとそうに違いない。じゃから、まだ慌てるような時間じゃない……。

「いんや、お前さんに命令をするのは明石風丸殿じゃ。すぐにこっちに来ると思うから、そしたら風丸殿に命令を求めてくれぃ」
「やだ」

 なん……じゃと……?

 いやいや待て待て。2……3……5……7……。落ち着くんじゃ……素数を数えて落ち着くんじゃ……11……13……17……19。「素数」は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字……儂に勇気を与えてくれる。

「いんや、お前さんに命令をするのは明石風丸殿じゃ。すぐにこっちに来ると思うから、そしたら風丸殿に命令を求めてくれぃ」
「やだ」

 なん……じゃと……って、これなんてRPG的エンドレスリピート?
 まあいい。……よくはないが。
 しかし、なんで拒否られるかね? 兵器であるなら入力された命令には従うもんじゃろうが……。

「柚原殿? どうしました?」
「おお、風丸殿。丁度よかった」

 声に振り向いてみれば、炎髪灼眼……じゃない、紅い髪に朱の布切れをまとい、両端に分銅のついた鎖を携えた女性……あれがぬへ、火鉢か。それを引き連れた風丸殿が。
 んむ、丁度いいので聞いてみるとしようかの。

「実は、これこれしかじか」
「かくかくうまうま、ですか……ひょっとして……」

 風丸殿に事情を説明すると、なにやら思い当たるところがあるようなリアクション。

「多分、ですけど」
「はい」
「ぬへは、最初に命令をした人間の言う事を聞くようになっているんだと思います」

 ふむん? まあ、それは妥当だろうのぉ。
 まあ、明石の当主の一族のみ命令権が……とか考えもしたんじゃが……それだとどうやって判断しとるのかがわからん。まあ呪的なものだったら出来そうなもんじゃが。

「しかし、儂はまだ命令はしてないはずなんじゃがのぉ……?」
「……めーれーされた」
「……へ?」
「しゃべれってめーれーされた」
「………」
「………」
「………」





「そ、そんなアヒルの刷り込みみたいな事で……orz」





 嗚呼……今の儂は史上最高に美しいorzを体現しとるじゃろう……。

「ないわ〜……これはないわ〜……」

 嗚呼もう……これはずどんと沈むしかないわ……。
 明石のれっきとした財産であり、しかもこの状況下に於いて毛利に対するカードにも成り得ただろうぬへを! 不注意で支配下に於いてしまうとか……。

「申し訳もございませぬ風丸殿ぉ! この状況下でこのような失態……!」
「いえ、お気になさらず。むしろ……これは好都合かもしれません」
「……なんと?」

 べべたぁ、と床に平べったくなった儂に掛けられた言葉は……予想外にもほどがあるぞい? なにが好都合なんじゃ?

「元々……僕はぬへたちを柚原殿に託そうと思っていましたから」
「なんですと!?」

 こんな機密の塊を、他国の人間に!?

「柚原殿は……ぬへの事をどう考えていますか?」

 ――む。

「どう、とは?」
「……ぬへは……認めたくはないけど、兵器です。兵器として作られ、多分、戦う事しか教えられていない。でも、それでも……戦うために作られたのだとしても、命なんです。ただ似せているだけなのかも知れませんけど……」

 恐らくは、今までに死んだ三体のぬへの事を思い出しているんじゃろう、内心を吐露する面持ちは、僅かながらも沈痛じゃ。

「僕は……何も知らなかったとはいえ、ただ彼女たちを人間として扱うだけで……。兵器である事を、知っていたはずなのに」

 命でありながら兵器、兵器でありながら、命。
 その両方に同時に目を向ける事が出来なかった、んじゃろうな。
 兵器という側面を見たからこそ呼び起こし、命であるという側面を見たからこそ人の如く扱って。

「僕は……その際を埋める事が、まだ出来ずにいます。でも……」

 内側に向いていた意識が、視線がわしに向けられるのがようわかる。視線に、力があるのがわかる。
 ……ほんに、逞しくなってまあ。

「……柚原殿は、戦争や戦うという事、武器や兵器に対して、主観的に関わりつつも、誰よりも客観的に冷静に対応をしている……。僕は、そう思いました」

 それは……まあ、のぉ。
 年季だけは、一端じゃからのぉ。内容だって、世界大戦やら敗戦やら、どろり濃厚といえるじゃろうし。

「そんな柚原殿なら……ぬへの兵器としての部分も、生き物としての部分も、両方を考えて……きっと彼女たちを新しい在り方へと導いていける。ただの兵器でもなく、ただ哀れまれる人造生命でもない……そんな在り方に」

 ………。

「……儂はそんな大層な者じゃあないんですがのぉ。確かに、儂はぬへの現状の在り方は気に入りませぬ。しかし、それは運用方法が気に食わないだけの事。ヒューマニズム……いや、倫理観に基づいてでは決してありませぬし、よしんば改めたとて、兵器を兵士へと変える程度。……預かる事に、まあ否はありませぬがそれでよろしいのですな?」

 より兵器として洗練させようとして、その結果として兵士へと至る。
 人間味を付加させる分だけ、いっそ残酷かも知れん。
 それを認められるのか? 人に限りなく近く、しかし決定的に異なる兵器である。その事を、受け止められるのか?



「はい。……今はまだ、難しいかもしれませんけど、いつか必ず。それが、僕の責任ですから」



 その問いへの答えは、背負う事を知った、君主のそれじゃった。

「あいわかり申した。ならばぬへ二人、お預かりいたしましょうぞ。生きる事と戦う事、そのどちらをも兼ね備えた、まるで人の如く鍛えてご覧に入れます。ですから風丸殿も、その時までに存分にご自分をお鍛え下され。そして、その暁に、ぬへを……というか火鉢を、ですな。迎えてやってくだされ」
「はいっ!」



 こうして、儂は風丸殿と再会するまで、という期限付きで、ぬへ二体を預かる事になったんじゃ。
 やれやれ、予想外もいいところじゃわい。





「あ、因みに火鉢を説得するのはご自分でどうぞ」

 儂ぁ知らんぞい。

「………」
「え、ええ!? ……うっ、そんな子犬のような目で見られると……」

 ……やれやれ、本当に先が思いやられるわい……。
 じゃが、まあ……そう悪い気分では、ないかの……。





 倉の扉の向こうから伝わってくる禍々しいオーラさえなければの話じゃがなッ!
 つーか見えないはずじゃろ!? しかも草津は懐いてるだけで別に疚しい事など!
 いや、そんな! あの手は何じゃ! 扉に! 扉に!








 アーーーーーーーーーッ!!!

 

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