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戦国ランスオリキャラであれこれ

 その日は割とすぐにやってきた。

 普段よりも大分早い時間に評定の開催を知らせる陣太鼓が鳴り響いたのを聞いて、ああ決断したんじゃなぁとなんとなくわかったんじゃ。

 まあ、実際時間的余裕はまったくないしの。早い決断は有り難い事じゃ。

「問題はその決断でどっちに転ぶか、じゃが……。出来れば種子島にとっても有益であればええのぉ」

などとぼやきながら、麻耶を引き連れ評定の間へ。



「みんな……集まってくれてありがとう」

 開口一番、風丸殿は深々と頭を下げられた。あ〜、なんつーか決まりじゃね。だってホレ、頭を上げて、そこに見える目元に真っ赤に泣き腫らした後が残っとる。

 ほんとに一晩、悩んで悩んで悩み抜いたんじゃろなぁ……。

 ……あ、事情を知らん朝比奈殿や安部殿が戸惑っておられる。

「風丸様、頭を上げてくだされ。我ら家臣団、風丸様の力になると決めております。そのように頭を下げずとも……」

 などと諌める百万殿。しかし風丸は譲らない。

「いや……僕は頭を下げなきゃいけない。そうやって忠誠を誓ってくれてるみんなを、裏切るような決断をしようとしてるんだから……」

 ざわ、と。

 それは一瞬じゃったが、確かに同様が漣のように走ったのがよくわかった。  

すぐにそれが収まったのは、流石歴戦の、といったところじゃが。

「風丸様、それは――」

「その前に、聞きたい事があるんだ。――織田、それと毛利の占領地域に対する支配体制について」

 問い掛けに対して逆に返された質問。その内容が意味するところを察せぬものは、誰一人としておらず。
 何故、と問い掛ける者も、固く握り締められた風丸殿の両手を見てはあろうはずもなく。

 やがて搾り出すようにして、朝比奈殿が語り始める。

「……まず毛利ですが、かの国はあまり内政面に頓着はしていないようですな。戦えれば、相手が屈服すればそれでよし、後は軍事力を奪った上で、元々の統治者たちに丸投げする形ですので、以前とそれほど変わらぬ自治が可能なようです。しかし当然若干政情が不安定になり、また毛利の兵は柄が悪いので治安も悪化の傾向にありますな」

 あ〜……そりゃそうじゃろな。つーか髪型からしてひでぶであべしな感じじゃから、見た目だけでも穏やかならぬ雰囲気を醸し出してしまうじゃろうし。

「うん……。では織田は?」

「織田は、従来の占領方法と同じですな。旧来の統治者を排除し、新たな行政官を送り込む。治安や経済などは概ね良化する傾向にありますな。……しかしどうにも、異人が国主となってからは、その国の女性に対して無体を働く事が非常に多い……とも言われておりますな。振る舞いも非常に粗暴であり、些細な事で切り捨てられた者も多いとか……」

 あ〜、やっぱそうなんか。いや、色々聞こえて来てはおったからのぉ……。攻め落とした城の姫は悉く餌食になったというし、町の見目良い娘の話を聞いて襲いに行ったとも。

 ……これだけ聞いたらただの鬼畜じゃね? とか思ってしまうわい。今の明石には未亡人もわんさかおるしのぉ……。まずいんじゃね?

「そうか……」

 そう呟いて、しばし黙考する風丸殿。

 今後の明石を大きく左右するだろうこの決定、流石においそれと結論が出せるものではないわな。



 まあそんな風にして待つ事しばし。

「……うん」

 重臣たちもひそひそと何事かを言い交わしている中、その風丸殿の言葉は、不思議と大きく聞こえた。

皆が一斉に――それほど乱れてはいなかったが――居住まいを正し、その運命の言葉を待つ。



「僕は……明石は……毛利に降伏する」



   ざわ・・・

                             ざわ・・・



 動揺するのも無理はないっ……
 何故ならっ……何故ならっ……毛利は仇っ……
 風丸の親兄弟を殺した仇だからっ……
 だがっ……今風丸はその毛利に降伏すると言った……

 何故っ……どうしてっ……



「旦那様、顎といわず顔中が奇怪な形に変形してますよ」

 チッ……もうちょっと浸ってたかったんじゃが……戻らなくなっても嫌じゃし。
 しかし、毛利か……。毛利家への恨みは深かろうが……よく決めたもんじゃ。
 まあ、長く戦ってきて、ある意味で縁が深く理解も深い毛利の方が、いきなり後ろから殴りかかってきた織田よりかは信用しやすいしの。毛利・織田双方に取られた領地を見ても……気に入らないがぬへによって織田は大きく後退しとる。
 もしここで織田に降っても、毛利にかなり侵攻を許している現状では、織田に降っても姫路の国土を守りぬくのは難しい。

 逆に言えば、今毛利に降れば、織田に姫路を蹂躙される可能性は低くなる……というわけじゃな。



 で、まあ。

 風丸殿もその辺りは理解していたようで、重臣たちにそんなような理由を説明しておる。

「……理由としては、こんな感じになる」

 ……ほお、という感心の色を含んだ吐息は、儂が漏らしただけではないらしい。
 少し前の……少なくとも、儂が援軍にやって来た時に、無邪気に喜んでいた時の風丸殿には出来なかっただろう、その冷静な思考。
 まあ、冷静さを装っただけじゃろうけれども、それでもその決断を下せた事は充分に評価に値するじゃろう。
 重臣たちの中に涙ぐむ者がいくらかおるが……その成長を見とっての涙である者も、少なからずおろうの。

「……あいわかり申した。我ら家臣団、風丸様のご意向に従いまする」

 ふ、と一瞬笑みを浮かべ。朝比奈殿を皮切りに、家臣団全員が平伏した。
 この瞬間こそが、風丸殿が率いる明石家が、真に誕生した瞬間なんじゃろうな。
 ……それだけに皮肉じゃな。その時が、明石敗北の時でもあるというのは……。

「我々種子島からは、何もいう事はありませんな。織田の侵攻こそは予想外でしたが、それ以外は予想以上の成果を上げる事が出来ましたのでな……」
「うん……成章殿には、本当に世話になりました」

 そう言って、深々と頭を下げる風丸殿。きっとそこには、先日の儂の言葉に対する礼も……含まれとるんじゃろうね。
 ジジイの説教(笑)とかウザい事この上なかったろうに……。ええ子やなぁ(ホロリ



 で、まあその後は。降伏を伝える算段をつけたり、民衆への説明をどうするかとか、色々準備があるので評定は解散。
 風丸殿は仔細を詰める評定を別室にて開くとの事で、今此処にはおらん。いるのは……。

「やってくれましたな……」

 仏頂面で儂と麻耶を取り囲む朝比奈殿はじめ重臣中の重臣の方々DEATHよ。わぁい儂死んだかの?

「HAHAHA、何の事ですかな?」

 うん、内心冷や汗だらだらじゃ! 君主に降伏を吹き込んだ、となればそら黙っとるはずもない。

「惚けてもわかりますぞ。先日、風丸様が内々に柚原殿を招き、何事か相談なさっていたのは承知しております。その日から、風丸様は深く思い悩まれるようになりました。それに、先程風丸様が柚原殿に声を掛けられましたが……あれで確信いたしましたな」

 おぉう……ばれてるのぉ。内心どころか、朝比奈殿たちからは見えない背中側だけで冷や汗を垂れ流すという、なんとも無意味に器用な事をするこの身体……ってこら麻耶、匂いを嗅ぐな自重自重!

「HAHAはは……。いやなんとも、差し出がましい真似を……」

 べたぁ、と平べったくなって頭を下げる。
 まあ……伝えた内容自体に間違いはないし、あれも一つの真実じゃ。そこは、間違っていない、はずじゃ。
 しかし伝える相手と、時期。これがやはりよくなかったのぉ……。まだ幼い国主に取り入り、降伏を囁き、結果的にそれを決断させた……。
 うん、普通に「毛利じゃ、毛利の仕業じゃ!」って結論に至るわな。

 しかし、儂らが毛利の手先である、と言う判断を下す事は出来ない。なんせ此処暫くは、儂らはずっと毛利と死闘を繰り広げておったからの。
 しかも、儂は毛利元就、毛利てるの両人と直に戦ってもいる。で、実際毛利てるの肩を撃ち抜いてもいる。
 そこまでやっといて、「実は儂は毛利のスパイで、あれは演技だったんじゃ!」「な、なんだっt(ry」とはいかんよなぁ。儂も死に掛けたし。
 じゃからして、問題は他国のモンが余計な口出しをした、という点なんじゃが……さて。

「……ふう」

 ……なんか緊張しつつ反応を待ってたら溜息を吐かれたんですが。
 なんぞこれ、どういうリアクション?

「……いや、わかってはおるのです。風丸様の決断は名より実を、名誉より命を重んじたならば、一つの正しい方法であると。そして、先達である我々が、その選択肢を風丸殿に示すべきであったのだと……」
「しかし……我らはそれを伝える事が出来ませんでした……」
「……朝比奈殿……安部殿……」
「いや、些か……過保護すぎたのでしょうな。先代の風雷様はじめ……喪った者が多すぎました故、少々臆病になっておりましたか……」

 そう零す朝比奈殿は、苦笑しつつも、何処かさばさばとした雰囲気を漂わせておった。

「今の風丸様の姿を見て、思い知りましたぞ。風丸様は、一回りご成長なされた……。これは、柚原殿のお陰」
「と、とんでもありませぬ! そのような言葉をいただけるような事ではとてもとても!」

 いやいや、内心はどうあれ許しちゃいかん、許しちゃいかんよ朝比奈殿に安部殿! 儂が余計な口出しをして、明石の命運を左右してしまったのは事実じゃ! 事が露見した以上、けじめはつけんといかん!

「そうですな、礼を述べる事は出来ませぬし……」
「何のお咎めもなし、というわけにも、確かにいきませんな」

 ……あれ、なにこの予定調和っぽい流れは。

「ごほん。……雇われの傭兵という身でありながら、国の政に口出しをし、大勢を左右したその不届き、真に許しがたいものである」
「よって、柚原成章はじめ、種子島からの援軍には、一週間以内に国外へ退去する事を申し付ける」
「な、なんじゃってーーー!?」



 人はそれ、実質無罪放免という。
 や、だってどの道早いうちに丹波に戻らんといかんわけじゃったしね。ここは素直に温情に感謝じゃなぁ……。

 

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(c)Ryuya Kose 2005