- k a r e s a n s u i -

戦国ランスオリキャラであれこれ

「あ〜……。儂、生きとる?」
「ええ、重症ですけどね」
「そう、か……。あのバケモノ相手にそれで済んだんなら上々、じゃなぁ」

 半分ミイラな姿でこんにちわ、じゃ。

 なんつーか、のう? 毛利てるは、まあどうにか退けたんじゃが。最後っ屁というか、撤退寸前に、毛利元就のぶん投げた大剣が至近に落っこちてきてのぉ……。骨折に打撲裂傷とまあ、元就とやり合ってこれで済んだんじゃから……いい方じゃろ、多分。

 結局、あの戦いで明石は何とか勝利。大将とその娘を退けられた(?)毛利軍は撤退し、明石も元就の逆撃を恐れて追撃はしなかったのじゃ。

「まあ、やられたからっていうか楽しんだから撤退、って感じでしたけどね」
「……なんかそっちの方がやばい気がするんじゃがのぉ……」

 目ぇつけられたんかの? 儂……。
 ないわぁ、それはないわぁ……。毛利、特に元就とは戦いたくないでござる! 絶対に戦いたくないでござる!

 

 

 そんな儂の願いが届いたわけではないんじゃろうが……それ以来、毛利の侵攻は頻度を下げる傾向が出てきた。なくなったわけではないんじゃが、大規模な侵攻はほとんどなく、あっても小規模な小競り合いが起きる程度。戦況は拮抗状態に陥っておる。
 この隙に明石は内政・軍事の充実を図っているが……成年男性が少ないのは変わらないため、劇的な改善は望めまいの。

 儂らはといえば、もうほとんど完熟訓練に移行しておる。不具合の洗い出しは大体済んだし、本国では改良版も作られ始めているらしい。あとは扱う人の錬度を上げきってしまえば、そいつらを小隊指揮官なり教導官なりに回す事もできるしの。
 ま、しばらくは悪いなりに安定しそうじゃな……。

 

 

「などと思っていた時期が儂にもありました……!」

 姫路城の評定の間は、なんというか通夜をやっとるような雰囲気じゃ。
 昨日までは、毛利の侵攻が弱まってつかの間の安定が見えてきたから、空気も軽かったんじゃがなぁ……。それもこれも織田のせいじゃ、まったく。

 まあ、あれじゃ。織田が参戦してきた。

 

 うん、正直明石オワタと思ったわい。だって今の明石に二正面作戦を取る余裕なんぞ、どうやったってないからじゃ。

 それでも、明石は。というか風丸殿は抵抗を選んだ。毛利は種子島の傭兵隊で押さえ込めているから、という希望的観測もあったんじゃろうが……。耐えられなかったんじゃろうな、多分。気持ちはわかる。

 儂らは変わらずに毛利と対峙。明石勢は主力の大半を織田の侵攻に充てておった。
 で、その明石勢、領土を拡大し勢いに乗る織田に蹴散らされ、苦戦を強いられておるらしい。部隊が消耗すれば補充をする事になるが、そうすると必然的に毛利側に回す兵力が足らなくなる。
 となると、如何に鉄砲を擁していようとも、毛利を抑えきる事は出来ず、儂らもじりじりと戦線の後退を余儀なくされていた。

「このままじゃとジリ貧じゃなあ……」
「わたしは正直ジリ貧まで持ち込めただけで上出来だと思いますけどね〜」
「言うでないわ、それは」

 戦力差は圧倒的じゃったからのぉ、一理も二理もあるんじゃが。

「逆転の一手なんぞ、そうそうあるもんではないからのお。厳しいじゃろな」

 まあ、なんぞ超兵器(笑)とか出て来たら、わからんがなあ、とか。そんな事を考えながら、儂は前線へと舞い戻った。

 

 

 

 姫路城、君主の間に於いて、明石家現当主・風丸は苦悩していた。
 父を、兄を、よくしてくれた多くの父の家臣たちを無惨に殺されて。冷静な自分が心の片隅で無理だと囁くのを無視して抗戦を選んだものの、ほとんど歯が立たずに蹴散らされ。柚原成章率いる種子島からの援軍がなければ、既に明石は滅亡していただろう。
 そしてその援軍でどうにか拮抗まで持ち込んだ戦況も、織田の参戦であえなく劣勢へ逆戻りとなってしまった。

 何のために抗ったのか。半ば感情のままに抵抗を選んだのは、間違いだったのか。
 家族を、仲間を殺されて。それでも国を、人々を守るためなら仇に対して頭を下げて降伏しなければならないのか。

 若い風丸には、そう簡単に割り切れる問題ではない。
 けれどそれでも、国主である限り、割り切り、また判断しなければならない。退くか、退かぬかを。

「……ここまで来て、退けるはずがないじゃないか……ッ」

 人の手を借りてまでして行い、子供や老人までつぎ込んでいる戦争だ。今更退けるはずもない。
 そうやって、怖気づいてしまいそうな自分に喝を入れて、しかしのろのろと風丸は立ち上がる。

 ――と。

 かたん、と。背に負った卒塔婆が床の間にあった掛け軸に引っかかり音を立てた。

「しまった……ん?」

 慌てて元に直そうとする風丸の目に、手紙が飛び込んでくる。卒塔婆が引っかかった拍子に掛け軸がめくれ上がり、裏に隠されていたものが落ちてきたのだ。

 そして、その手紙に書かれていた明石家の秘密。それは、今の風丸にとって、手を出さずにはいられない物であった。

 

 

「盛り返しとる、じゃと?」

 前線で、残弾数が三となった三八式を整備しておった儂に届いた報告。
 ちょっと前まで織田に圧されまくっていたはずの戦況が改善し、戦線を押し返しているという話じゃった。

「……なんかありそうですね〜」

 ……正直、麻耶の言うとおりじゃと思う。援軍でも得たのか? しかし言っちゃあなんじゃが、今の明石に手を貸す国があるとは思えん。
 上杉? ああ、あれは行きずりじゃからの、長く居ついてくれるわけでもなし、持続的な戦況回復にはならん。

「……気になるの。戻る用事もあるしな、少々確認してこよう」

 ひょっとしたら種子島の方針にも関わってくるかも知れんからの。定期報告のついでじゃし、確認とってみるのがいいじゃろな。

 

 で、戻った儂は、対毛利の戦況を補給不足のためじりじりと後退中、と報告した後。織田を押し返したという戦いに参加した足軽たちに話を聞いてみた。儂はどっちかというと足軽連中の方に人気があるからの、聞き込みもしやすいと思ったんじゃ。

 で、聞いてわかった事を、城へ戻る道すがらに整理する。

 一つ、それは明石家秘伝の兵器であり、名を「ぬへ」という。
 二つ、そのぬへは、単独で軍を相手にする事ができる力を持っている。
 三つ、ぬへは風丸が発見し、二体が投入されたのだが、これまでぬへが投入された二回の合戦には、いずれも風丸は参加していない。
 四つ、過去に投入されたぬへが、再度使用された事はない。いずれもが療養中だという。
 五つ、近々ぬへを投入した合戦が開かれる。

 とまあ、こういったところじゃった。

「……ふむぅ? 生体兵器……かの? 興味はあるが……なんか嫌な予感がするのぉ」

 特に再登場がないっちゅー辺りに。
 まあ……次の投入が近いというしの、ちょっと覗いてみるとするかの……ん?

「あ、柚原殿」
「これは風丸様。このようなところでお会いするとは」

 これは好都合、通りの向こう側で儂を呼んだのは、風丸殿本人じゃな。

「そうそう、こんなところでなんですが、対織田戦。ここのところ戦勝続きのようですな、おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます。……といっても、僕はほとんどなにもやってないですけど」
「いやいや、配下の方も民衆も、風丸殿だからこそついていき、また力を注いでおるのです。戦場で槍を振るうだけが国主の仕事ではありませんのじゃ」

 ……まあ、ほとんどの国で国主が最強戦力になっとるのがアレじゃが……。風丸は、準備期間があまりに少なかった。四男である事が災いして、心構えも鍛錬も不足の一言。逸る気持ちがあるのじゃろうなあ。

「特に最近耳にしますのは、風丸殿が見つけた明石の切り札ともいえる、ぬへとやら。これを発見したのは間違いなく風丸殿の功績ですぞ?」

 うむ、突っつくのはこの辺りからにして見るかの。

「功績っていっても……。僕は彼女たちを出してあげて命令しただけで……」
「そうですか……。それでも、風丸殿が行動を起こさねば、こうはならなかったのではないでしょうかな?」

 複数の意味で、じゃがね。
 しかし女性体、とな? しかも違和感なくいっとるという事は、極めて人間に近い……? 人造人間かの?
 ふむ……。

「しかし、そのぬへの戦い。是非儂も見てみたいものですな。織田を相手に大立ち回り、さぞや勇ましい事でしょうや」
「うん、それは僕も思います。でも、百万たちは見せてくれなくて……」
「左様ですか。では、何か理由があるのやもしれませんな」

 例えば、子供には見せられない何かとか、のぉ……。

 

 とまあそんな感じで風丸と会話してから数日後。やってきましたは明石と織田との境界線。いざこれから戦端が開かれようとしているその時ところじゃ。こっそりと森の中に隠れて様子を伺っておる。

「さて……ぬへの投入はいつになるんじゃろな」

 ぬへの戦いを見るためにわざわざ来たんじゃし。見れなかったじゃ無駄足もいいところなんじゃが……。
 と? なにやら織田が騒がしいのお?

「討てえええ!」

 ばひばひばひひ、と放たれた矢は雨あられ。その飛んでいった先には……なんかおるな。あれがぬへか。刺さる矢をものともせず、織田の陣のど真ん中を突っ走って……今首をへし折ったのは、指揮権をもっとる武将、かの?

「……なるほど。ひたすら吶喊して指揮官を潰していくわけか」

 そらまあ? 寡兵で凌ぐにはいいじゃろうし? なんとも言えないんじゃが……。

「なんか。ムカツクのぉ……」

 儂は、兵器開発に携わった人間じゃ。じゃから、必要だから使うのは全く問題ないし、むしろ戦う道具としての本懐を果たせているのだから良い事じゃとは思う。

 じゃが。
 自らが生きるために他を殺す。この大前提に悖るものは、儂は嫌悪する。
 自爆に特攻はもちろんじゃが……儂らの世界にはまだなかった、生体兵器。これは、戦い方含めて非常に引っかかるのぉ。

 戦の結果として傷つくのは仕方のない事じゃ。死ぬのもまた然り。
 じゃが、最初から死ぬのを前提に動くというのは気に食わん。あれは自滅して終わりじゃろうな。

「……気に食わんな。風丸も知らんようじゃし……」

 それに、見るからにあの身体能力というか、戦闘力は驚異的なものがある。それをあんな使い捨てるように使うとは……。もしも知性があるのなら、教え込めばもっと有効に戦えそうなもんなんじゃが……。ええい、まったくもって気に入らんわい!

「やっ……やめろぉぉ!! 撃つな! 撃たないでくれ!!」

 ん? あれは……風丸殿と、有力家臣の田中殿の部下じゃったかな?
 あ〜あ〜、見ちゃったのかいな……。隠すんなら最後まで徹底的に隠せばよかったんじゃろうに……。
 それにしても……あれか、風丸殿はどうやら感情移入してしまっとるようじゃの。まあ確かに見た目は割と美人な女性体じゃし、無理もなかろうが。割り切るのは、まあ難しかろうな。

 まあ、こっそり盗み聞きした結果、やっぱりぬへの秘密は家臣たちが黙っておったようじゃな。
 戦闘用人工生命体【ぬへ】は、痛みも感情もなく武将に突撃し、その命を奪うためだけに生きている、と。

 ん〜、しかしまあ、なんちゅーか……知性を持った(?)兵器か……。扱いが難しいのお……。しかし、兵器扱いよりも兵士扱いした方が……なんかよさげじゃね? コストパフォーマンス的にも。

 しかし、織田、か。ほんとに厄介なヤツじゃの。正直、明石は既に防波堤としては役に立たなくなってきとるし。かといって、切り捨てるのもなぁ……。

「まあ、情勢は国主殿に報告するとして……。麻耶とも今度相談せんとなぁ……」

 

 で、まあその日の夜。
 儂は風丸殿と面会しておった。

 ……え、なんでじゃ? なんかフラグ……立ててたような気もするのぉ……。歳の近い男は儂ぐらいのもんじゃったし、中の人にとっては実際孫か曾孫ぐらいの年齢差じゃったから、事あるごとに可愛がっておったんじゃが、それが頼れるお兄さんルートでの相談イベントフラグとか、そんな感じじゃろか。

「すみません、こんな夜中に呼び立てして」
「いえいえ、いつも色々と便宜を図ってくださっているのですから、お気になさらず。それで、お話というのは」
「……ちょっと……今日の戦での、事なんですけど……」

 悩むように……というか、実際悩んでおったんじゃろな。……機密漏洩にまで気が回っていたとは思えないのがアレじゃが。まあ、しばらくの逡巡の後に、風丸殿はぽつぽつと語りだした。

 既に知る、父や兄を毛利に殺された事や、敵である毛利に抗うと決めた事。けれどまるで歯が立たずにいた事。
 種子島の援軍が、どんなにか嬉しかったのかという事。歳の比較的近い儂の存在が嬉しかった事。鉄砲の威力に驚いた事。
 毛利を圧し留めて拮抗状態に持ち込めた事、それがどんなにか痛快だったかという事。

 けれども、織田が参戦してきて一気に形勢が変わってしまった事。諦めかけた時に、ぬへの事を知った事。それにすがる思いでぬへを解き放った事。ぬへについて詳しく知ったのは、ついさっきだった事。ぬへを生かせば皆が死ぬ。でも、ぬへがあんな風に死ぬのも納得出来ないという事。

「どれを選んでも、死んで欲しくない人たちが死ぬんです……ッ」

 それが悲しくて悔しくて腹立たしくてぐちゃぐちゃで。それらが呻きとなって喉から、涙となって瞳から溢れるのだと。

 

 まあ、わからんでもないんじゃがな、その嘆き。
 じゃが、国主であり、開戦を決めた本人であるならば、その辺りは織り込み済みでなければならん、のじゃが……上の兄たちがいたからのぉ……。そこら辺りの教育がされてないんじゃろうし。まあ不憫といえば不憫よな。

 しかしまあ……一つだけ、ぬへも死なず皆も死なないで済む方法があるんじゃが……。考えられないのか考えたくないのか……。まあ、経験者の助言が役に立つといいんじゃが。

「……ぬへも死なず、また家臣の方々も死なずに済む方法が一つだけ在りますぞ」
「!? そ、それは!?」

「……織田か毛利か、どちらかに降伏なさいませ」
「な……っ!」
「いきり立たずに! ……聞いていただきたい」

 そらまあ、気色ばむのも無理はないじゃろうが……。

「降伏せぬのであれば! 国も民も今以上に傷つきましょう。兵器として使われるぬへも死ぬでしょう。そして残るものは、荒れた無人の国土、そして明石は最後まで抵抗したという事実のみ。それが不屈の高潔となるか、無謀で愚かな足掻きとなるかは、後の時代が決めるでしょうな。降伏すれば、国民は屈辱にまみれましょう。指導者層は言わずもがな。しかし、国と民はより少ない傷で済みまする。そして名誉は、命と違いいずれ取り戻す事ができるものです」

 そしてその繁栄は、時として世界を驚愕させもする。……自立の仕方を間違えねば、その上、先をも伺えるじゃろうしのぉ。

「しかし……しかしそれでは、僕が戦うと決めたから死んでしまった者たちが……ッ」
「死者を思うお心は立派です。しかし、それに囚われて今を生きる者を傷つけてなんとしますか」
「う……うぅううっ……!」

 ぽろぽろと涙が零れ、嗚咽が漏れ出る。そらなあ、悔しかろうなぁ、迷おうなぁ。必死に気張って国主になって抵抗を選んで、命を憂うなら取るべき道は降伏だ、などといわれれば、そりゃあ、なぁ。儂だって散々泣いて悔しがったもんじゃ……。

「さんざ言いはしましたが……お決めになるのは風丸殿ご自身。新たに儂が示した事実、これらをどう処理するかは、風丸殿の自由ですじゃ……。重く圧し掛かりましょうが……それが国民の、命の重さでございますれば」
「くぅ……っ」

 食い縛る、若しくは噛み締めるような呻きの後。どうにか「一晩考えさせてください」と搾り出して、風丸殿は幽鬼の如き有様で退出していかれた。

「はあ……。儂、何様のつもりなんじゃろな……」

 口出しする権利なぞ欠片もないのに、口出しせずにはおれんかったんじゃよなぁ。いくら向こうから持ちかけてきたとはいえ……。

「……じゃが、言わずにおれんのも、また事実じゃし。難儀なもんじゃな、戦に触れる子供というもんは……」

 孫みたいな風丸殿。じゃからこそ、取るべき道をとって欲しかった。甘やかすだけでは、時代が時代じゃからなぁ。
 ……や、正直ぬへを惜しむ気持ちもあるんじゃけどね? その打算がないわけじゃあ、ない。こっちも難儀じゃよな、最早業じゃよ、業。兵器開発者のな。

「ま……あとは風丸殿がなにを選ぶか……。後はそれ次第、じゃな」

 それが一つ、大きな分かれ目になるじゃろうな、なんて事を思いながら、儂も自分の屋敷へと引き下がった。

 

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(c)Ryuya Kose 2005