- k a r e s a n s u i -

昏君†無双

 ――洛陽――



 帝辛たちが洛陽に到着してから十日ほどが経った。商人たちも粗方の取引を終え、また帝辛たちも休養と補給を済ませ。いよいよもっていざ并州へと旅立つところである。
 そしてその旅路には、丁原より董卓に貸し出される事となった華雄、そして彼女の薫陶厚い三千が新たに加わっていた。
 三千! 帝辛が并州より連れてきた兵数より千少ないだけである。この兵力増強は并州にとって非常に利となるものであった。
 ……あった、のだがそんな簡単には終わらないのが華雄である。
 実はその華雄以下三千が合流するにあたり、ちょっとした騒動が起こったのである。



 并州への出向に際し、華雄は丁原より兵を連れて行く事を許されていた。政情には疎い華雄であるが、それでも黄巾党やらなにやらで、軍事力が必要なのはわかっていたので、取り敢えず洛陽における自身の配下全員に声を掛けてみる事にしたのであるが……。



「……仰聞さま」
「徐栄か。どうした?」
「……ありのまま、今起こった事を報告しますぞ。『華雄将軍が兵を連れてきたと思ったら、一万人も連れてきた』」
「……なに?」
「何を言っているのかわからないとは思いますが、私自身何を言っているやら……。頭が痛くなりそうですな。命令ですとか、黄巾党ですとか、そんなチャチな集まり方では断じてありません。もっと恐ろしいものの片鱗を味わった思いです……」
「………………そうか……」
「………」
「……取り敢えず、減らしてもらうよう伝えてこよう……」
「お願いいたします……」



 というように、声を掛けたほぼ全員が「将軍が行くなら」と参加を願い出たらしく。華雄は驚きはしたものの、多い事はいい事だ!とそれらを全員連れてきたのである。
 しかしながら、というか当然というか。

「こんなには連れて行く事はできん。三分の一程度に減らしてくれ」
「なんだと!?」
「……いや、なんだともなにもないと思うが……」

 というやり取りを経て、しぶしぶながらも華雄が選抜した三千のみを連れて行く事となったのである。
 加えて言うならば、洛陽に残る事となった残りの七千も、有事の際には助力してくれる事を確約してくれた。なので結局は一万を味方につけた事には変わりはなかった。



「前方、商隊及び并州軍、出発しました!」
「うむ。よし、我らも出発する! 全体進めぇ!」
「はっ! 全体進め!」

 一時帝辛と徐栄の思考能力の大半を奪った、噂の華雄はというと。
 帝辛が率いているだろう并州軍と、それに先導されてぞろぞろ進む商隊とを前方に置き、護衛隊の後衛として行軍を始めていた。

「しかし、いきなり後衛をそっくり任されるとは意外でしたね」

 馬に揺られながら、古株の部下が愉快気にいう。
 なるほど、確かに仲間になって間もない連中を、戦闘能力が皆無に等しい商隊の後背に配するというのは思い切った行為といえるだろう。
 しかし、それは同時に、それだけ信用しているのだ、という意思表示にもなり得るし、なにより華雄の思考をいたく刺激した。

「ひねくれた見方をすれば、試されているという事なのだろうな……」
「そうですなぁ(ひねくれてなくてもそうなんですけどね)」
「我々は武人だ。黄巾党やそこらの匪賊とは違う。武人が武を振るうのは、己が武を示す時と、敵を倒す時。そんな我らが何故商人なぞを襲うなどと考えるのか……。私にはわからん」

 ふんっ、と鼻息も荒い華雄である。
 戦馬鹿ではあるが、ただの戦闘狂ではない華雄には、確固とした武人としての矜持があるらしい。仕方がない事とは言え、それを疑われた格好になる華雄は少々面白くない。
 ここはどこかでガッチリと信用、そして信頼を勝ち取らねばなるまい、と思う華雄であった。





「華雄」
「うん?」

 洛陽を離れて半月あまり。速度の差や連携不足のために些かぎこちなかった行軍も、どうにか形になってきた頃。後衛の先頭で馬を駆る華雄の下に、ふらりと帝辛がやって来た。供回りもつけず、単騎でである。

「何だ帝辛、随分と身軽じゃないか。指揮はどうした?」
「なに、徐栄も指揮官としての場数を踏むべきであろうからな。それに、この近辺の賊はあらかた片付けてある。私がいなければならないような事態には、そうそうなるまい」
「ふん、サボリに来たというわけか」
「そう言ってくれるな。老骨に長旅は堪えるのだ」
「ふん、あれだけピンピンしていて何が老骨だ」

 鼻で笑い飛ばされても気にした様子もなく、「まあ、一応仕事の話でもある」と言って切り出した。

「お前の兵と并州軍とで、合同の訓練をすべきだと思ってな。直接的な連携をしていない現状でも、暗黙の了解という形で連携を取るようにそれぞれで動いて入るが、やはりそれでは効率が悪い。お互いの警戒心も解けた頃合いだろうし、どうだろうか」
「うん? 何だ、そういう事なら嫌はない。よし、早速やろうではないか! 部隊長を呼べ! 割り振りを決めるぞ!」
「……即決か。いや、まあいいのだが……」

 今日やると決まったわけでもないのに、華雄とその部下たちは既にやる気満々で盛り上がっている。
 それを伝えようかとちらと思いはしたが、結局水をさすのも悪いと思い直す帝辛である。気分は既にやんちゃな飼い犬を見守る飼い主のそれであった。





「陣形を魚鱗陣から突撃陣へ変更! 然る後ぃ…………突撃ぃいいい!」
「うむ……やはり見事なものだ」
「ですな」

 旅程も半ば以上を過ぎ、上党の辺りを通過した頃である。
 合同訓練を持ちかけてからというもの、華雄は非常な熱心さで訓練に取り組んでいた。
 初日からいきなり全軍を動員した訓練を行おうとしてもちろん失敗し帝辛に叱られて凹みはしたものの、すぐに立ち直って少人数での合同訓練を開始。将に似たのか、比較的単純な華雄軍の兵の方から積極的に歩み寄る形で連携訓練は進んでいった。
 そしてその一つの結実が、今帝辛と徐栄の眼前で繰り広げられる、一糸乱れぬ見事な突撃であった。

「これほどの突撃はなかなか見れるものではありませんな」

 徐栄の感心したような声に、帝辛も頷かざるをえない。これほどの突撃、董卓軍で限って言えば、できるのは神速将軍張文遠ぐらいなものだろう。帝辛もやって出来ない事はないし、性格的にもその方が好きだったが、某太師に(文字通り)叩き込まれた王の行動規範云々は、最早無意識下で突撃より迎撃を重視するように誘導していた。恐ろしいくらいの調教っぷりであるが……それはさておき。

「いやしかし、本当に見事な突撃だな……」
「そうですなぁ……」
「………」
「………」
「「これの十分の一でも迎撃戦や射撃戦の能力があれば……」」

 つまりはやっぱり猪であるというわけで。
 幾度か行った迎撃・射撃戦闘演習では、華雄は並以下の将程度の戦闘行動しか取れなかったのである。使いこなせる陣形も突撃に偏ったものばかりで、なんとも使いどころに困る将であると言わざるを得ない。

「はははははっ! どうだ帝辛! 私の用兵は!」
「……まあ、見事としか言えんな」
「そうだろう、そうだろう! はははははは!」
「やれやれ、ですな」

 そうは思うものの。意気揚々と帰ってきて、愉快げ誇らしな華雄を見ていると、苦言を呈す気も起きず、もう笑って受け入れるしかなくなってしまうのも無理はないというもので。

「まあ、手綱をしっかり握って、使いどころを間違わなければいいだけの事……か?」
「とんでもないじゃじゃ馬ですが、文遠将軍と仰聞さまならば。……多分」
「……不安になるような事を言わんでくれないか……」

 一抹どころではないの不安を覚えずにはいられない帝辛であったが……幸か不幸か、それを許容できてしまう事件が、まもなく起きる事となる。





「……仰聞さま、これは……」
「うむ……」
「惨いものだな、これは……」

 無数の死体と打ち壊された家屋。その何れもがまだ新しさを残す滅びた村に、沈痛な声が流れる。
 先行させていた斥候が、壊滅した村を発見したとの報を携えて帰還したため、急ぎ調査に訪れたのである。

「周囲には少なくとも百を優に超える人数が移動した形跡があります。加えて……」

 斥候の兵士が差し出したのは、複数の薄汚れた黄色い頭巾。言わずと知れた、黄巾党の象徴である。

「黄巾党の仕業に仕立て上げた、という可能性もなくはないが?」
「はっ。その可能性も考慮し、周囲を捜索したところ、腕に【中黄太乙】の刺青をした死体が発見されましたので、ほぼ間違いないかと」
「うん? 帝辛、并州の黄巾党はあらかた片付けて、どっかの山の中に押し込んでいたのではなかったか? あれだ、葉っぱ賊、だったか?」
「そうだな、確かに押し込めてはいたが……」
「(葉っぱ賊……訂正したいところですがまさか無視しなさった……)」

 何故か愕然とした様子の徐栄を横目に帝辛はふむと腕を組む。が、予想は付いていたのだろう、すぐに華雄に向き直る。

「恐らく、我らが蹴散らして回った黄巾党の敗残部隊が流れ込んだのだろうな。押し込めていたという事は、まだ滅びていないという事。傍目には根強い抵抗をしている、とみえたのだろう」
「成程。それが敗残兵共からすれば尚更ですな」

 ふむ、と理解を示した徐栄と同じようにうんうんと頷いている華雄。そして彼女は言い放つ。

「うむ、なるほど。さっぱりわからん!」

 ………。

「華雄将軍……」
「な、なんだ徐栄! そんな可哀想な人を見るような目は!?」
「いえ……。いや、コレはコレでむしろ可愛……いえ、ナンデモアリマセンゾ」

 何故か急に厳しくなった華雄の部下の視線に姿勢を正さずにはいられない徐栄である。
 決して「しかしコレでこそ我らが華雄将軍」「そこに痺れて憧れて俺達はついていくんだよな」「頭のいい華雄将軍なんか華雄将軍じゃないし」「そんなオレタチの将軍に……まさか、ねぇ?」などとぼそぼそ聞こえてきたりはしないのである。

「つまり、傍目に強そうに見える并州の白波賊を頼って、黄巾党の敗残部隊が集まってきている、もしくは既に合流した、という事だ」
「ごほん。……となると奴らの事、我々が抜けているせいで幾分手薄になっている太原を目指すでしょうな」
「なにぃ!?」

 平静をどうにか取り戻した徐栄の結論に、華雄が驚愕の声を上げ。そしてすぐさま口にするのは。

「ならば太原に残っているという董卓と賈駆が危ないではないか! こんなところでもたもたしている場合ではないぞ!」

 まだ顔も人となりも知らぬはずの新たな主君の身を案じる、力強くも優しい言葉であった。

「……なんとも、まあ」
「ははは! それでこそ、だな。途中の何もかもを素通りしてそこに辿りつける」
「何を笑っているのだ帝辛! 我らの・・・主の危機なのだぞ!?」

 呆気に取られて苦笑するしかない徐栄と、嬉しそうに呵々大笑する帝辛。それを怒鳴りつける華雄。
 こんな状況なのに喜劇じみた騒ぎを見せられる華雄の部下は、そして并州軍の兵士も、笑っていた。

「なあ、并州の」
「なんだ、華将軍の」
「俺ぁ、洛陽ではあんないきいきとした華雄さまは見た事ねぇよ」
「そうか。……太原に戻れば、あそこに文遠さまも加わって、もっとひど……じゃない、面白い事になるぞ」
「で、それを諌める文和さまが大暴れするんだよな」
「ふぅん……。……いいじゃねぇか」
「だろう?」

 騒ぎから視線を外し、互いにニヤリといい笑顔で双方のまとめ役の兵ががっちりと握手を交わす。

「改めてだが……これから頼むぜ?」
「……ようこそ、歓迎しよう!」

 いけ好かないお偉方から猪武者と馬鹿にされる将を主と仰いで幾年月。ここでなら、きっと自分たちも主も報われるのではないか……。

「んじゃまぁ、取り敢えず」
「我らが将軍閣下さま方の尻を叩くとするか」

 この一時は、正にそう。彼らのその希望が、確信へと変わり。そして手に入れたモノのために殉じるその日までの、騒がしく輝かしい日々が始まった瞬間であった。





「張将軍! 郭隊、準備完了!」
「張済隊も準備完了しました!」
「おーし、なんとか間に合ったなあ」

 并州の南西に位置する西河郡。そこから東南へ下ったところにある平原で、霞を総大将とした并州軍一万二千は陣を敷いていた。

「最初はただの白波賊のヤケクソな暴発や思っとったんやけど、いつのまにやらこないな派手な事態になってもうたなあ……」

 偃月刀をふりふり霞が愚痴るように、押し込まれて埒が明かない白波賊と、各地からの黄巾党敗残部隊の流入という状況は、帝辛たちが予想したとおりに合流して膨れ上がった後の太原侵攻という事態へと発展していた。

「ほんまやったら、こないなトコに陣張りなんかしたくなかったんやけど……」

 本来ならば、山がちな地形を利用して、一撃離脱を旨とした奇襲を繰り返し、進行を食い止める予定であったのだが、寄せ集めの軍であるからか、放っておくとバラバラと好き勝手な経路で移動し始めてしまい、如何な霞といえども対処能力を超えてしまっていたのである。
 散られて取り零しが出てしまえば、月と牛輔ら文官、防衛隊千人しか残らない太原が危機に晒される事となる。それは軍師たる詠には看過できない事態である。
 そのため、決戦を思わせる場を設け、黄巾党を一カ所に集結させる事にせざるを得なかったのである。

「は……将軍の持ち味は機動力にありますれば、確かに。されど将軍ならばこの程度の不利、必ず跳ね返せるものと愚考します」
「その代わり、容易ではないと思いますけれどね……。彼我の戦力差は倍ありますから」

 きっちりと型どおりに軍装を整えた郭が淡々と言う。表情が薄く、淡々と己の職務をこなしていくその姿は、武人ではなく軍人という言葉が相応しいだろう。
 対して、憂鬱そうに困難であろう戦いを嘆くのは張済。うだつの上がらない一兵卒、といった風貌であるが、武力と智謀を兼ね備えた優れた将である。些か器用貧乏の嫌いはあれども、どんな状況にも対応出来る汎用性を、霞も詠も高く評価していた。

「まあやっこさんたち……中核なんは白波賊やろ? それ以外はただの寄せ集めやし、大した事はないとは思うんや」
「本命をどうにかしてしまえば、オマケは勝手に崩れるでしょうけど……督戦してるつもりなんでしょうね、奴ら」

 斥候からの情報では、敵部隊は前面に各地から流れてきたと思しき敗残部隊がひしめき、その後方に装備、隊列共にそれらとは一味違う、おそらくは白波賊本隊が居並んでいる、という事であった。
 中核となる白波賊はそれなりにまとまりがあるのだろうが、敗残部隊は士気も低く、統率も殆ど取れていない。そんな烏合の衆を手っ取り早く効果的に利用するための、その配置なのだろう。

「ん〜、まあその為に賈駆っちが動いとるんやし。それに時間は、まあ比較的ウチらの味方や。あんま無茶せんで時間をかせぐんや。わかっとるな?」
「はっ、承知しております!」
「ならええ。……ほな、そろそろ仕事の時間やな」

 翡翠の瞳が睨みつける先には、ドロドロと地鳴りとともに押し寄せ始めた白波賊。約半数が取るに足らない烏合の衆とは言え、自軍の倍以上の軍勢が押し寄せる様は、並の人間なら落ち着いていられないだろう。
 しかし、ここに立ちふさがる一万二千は、驍将張文遠に鍛えられ率いられる猛者たち。なればこそ。

「弓隊構え! 阻止射撃用ー意!」
「騎馬隊前へ! 阻止射撃後、敵最前線に一当てし、足を止める! 文遠さまが直率してくださるのだから、無様を見せるなよ!」
『応!』
「はんっ、ええ返事や。ほな、ちゃっちゃと蹴散らすで!」
「――射撃開始!」

 郭の命令一下、天を駆ける数多の矢。その下でぎらりと霞が偃月刀を天に掲げる。
 背後には、雄々しく翻る張文遠の牙門旗!

「我が紺碧の張旗に続けーーー!!!」

 それは、一つの巨大な矢であったか。阻止射撃後により突進の勢いを一時的に失った黄巾党の先陣へ、その機を逃さずに霞率いる騎馬隊が襲いかかる。

「ふ、防げぇええ!」

 混乱状態にある黄巾党ではあったが、それでもこれだけの人数がいれば、まともな対応を取れる人間も現れる。そんな誰かの悲鳴にも似た怒号に合わせ、腰を落とし槍衾を作り、霞の突撃に対し迎撃の態勢を作る。
 しかし!

「んなもんで、ウチを止められるかぁああ!」

 ――全くの、無為!

 振り上げた偃月刀でまとめて数本の槍を無理矢理跳ね上げ、できた隙間に馬体をねじ込んで、勢いそのままに体当たりをぶちかます。

「そらそらそらあ! 雑魚は引っ込まんかい!」

 まるで襤褸を裂くが如し。白刃が煌めく度に鮮血が飛び、一足騎馬が駆ける度に、大の大人が宙を舞う。
 正しく遮る者はなし、正に無双の強さを見せつける霞の活躍そのままに、このまま先陣を真っ二つにするのも容易いかと思われた。

「よっしゃ、速度そのまま、右翼へ駆け抜けぃ!」
「後を追わせるな! 第二射撃てッ!」

 しかし霞はそうしない。表面を削り取るように離脱を図る。追撃を狙う数少ない勇気ある者も、郭が命じた射撃の前に蛮勇のつけを払わされ、屍を晒していく。
 数の差を物ともしない、圧倒的な強さ。それをまざまざと見せつけられ、黄巾党の足が完全に止まる。
 そして、霞はそれを待っていたのだ。

「よっしゃ! ――全軍退くで!」

 号令一下、勢いに乗っていたはずの并州軍が、潮のように退いていく。まず歩兵が隊伍を乱さない範囲で可能な限り全速で後退し、それを霞率いる騎兵隊が、得物を弓に持ち替えて、見事な騎射で支援する。
 もとより、霞はこの場で決着をつける気などさらさらなかったのだ。練度は間違いなく自分達の方が上回っているだろうけれど、楽に勝てる戦力差ではない。今後の情勢を思えば、こんなところで戦力を消耗するわけにはいかない。
 そう判断した詠は、小規模な戦闘を繰り返しつつ後退し、敵の勢力を漸減していく事を選択した。
 敵の中核は白波賊であり、彼らは自分達の拠点を持ってはいる。しかし、近隣諸州から流入した仲間を吸収し、膨れ上がった勢力は、その拠点が供給する補給能力を遥かに上回っている。それを見抜いていた詠は、戦いをわざと長引かせ、敵の自滅を狙ったのである。もちろん、近隣の住民には太原から移動してくる合間に退避させているので、交代しても住民を戦火に巻き込む心配は低い。

「回りくどいっちゃあ回りくどいんやけど……これはウチらを……ひいては并州を疲弊させんためやからなぁ。ま、賈駆っちなら上手くやるやろ。それに……」

 乗騎を駆りながら、向けた視線は南の空に。

「頼もしい奴がお使いから帰ってくるからなぁ。少しは活躍の場を残してやらんと可哀相やし、な」

 そう言い残して悠然と退却する霞とその部隊。その堂々とした態度を見てなお追撃を掛けられるような猛者は、誰一人としていなかった。



 ――一方その頃。

「……霞は、よくやっているようね」

 位置にして、霞たちと黄巾党とが対峙する平原より南西に下った山中。
 そこで詠は、細い獣道を抜けた先にある、ちょっとした崖の上から戦闘の経緯を注視していた。

「文和さまは、ここからあの戦場がお見えになるのですかな?」
「まあね。ボクはこれでも涼州の出だもの。あそこでいくらも暮らしてれば、目もよくなるわ」
「その上、馬術も達者でおられる。いや、これでは我ら武人も型なしですなぁ」
「けど、ボクの本分は飽くまで軍師。武芸は護身以上のものは修めてないし、兵たちを直接掌握してるわけじゃあないもの。その辺りは頼りにするわよ、李確」
「はっ。お任せ下され、老いたりとはいえこの李確、まだまだ若い者には負けませんぞ」

 騎乗した詠を護るように斜め後ろに侍る、同じく騎乗した壮年の男――李確は厳つい顔をクシャとゆがめて呵々大笑した。
 この李確、そして郭、張済。そして今ここにはいないが帝辛の下で副将として活躍する徐栄。この四人が、帝辛と霞の下で并州軍を支えている武将である。
 太原に月を護るために残っている牛輔、李儒を除けば、主要な人材は全て投入してある。正に総力戦と言っていいだろう。

「頼むわよ。あいつらをどうにかすれば、この平州から黄巾党の勢力はほぼ一掃できる。この戦いは、并州安定のための最終決戦なのよ」

 そして同時に、乱世の始まりの前哨戦でもあるだろう。
 口には出さずに、ただ内心でそう思う。

 ――ならばこそ、こんなところで戦力を消耗するわけにはいかない。

 くるりと馬首を返しながら、改めて気を引き締める。

「李確。霞たちがあと二回交戦したら、その時に奴らの後背を突くわよ」
「その後はどうされますかな? 本隊と合流を?」
「ええ。また奇襲があるかも知れないって思わせる事ができたら上出来よ。すり減らされる前に本隊と合流するわ」

 歴戦の勇士である李確と遜色ない手綱さばきを見せつつ、詠は思う。

(でも、余裕を残して勝つにはもう一手欲しかった……。打つ手はあるのに、打てる手がないっていうのは……)

「……歯痒いわね……」
「……仰聞さまの部隊がおられればまた違っていた……という事ですかな?」
「――黙りなさい。いない奴の事なんか考えても仕方ないでしょう」
「ふむ……それも然り。では、文和さまの智謀の冴、とくと見させていただきますぞ」

 では、儂は指揮がありますので、と李確は去っていく。その背中に向けたわけではないけれど、それでも宣言するように。

「ボクはアイツがいなくても月を護れるっ。これまでもそうだったし、これからもそうっ。だから、あんなヤツの力なんて……ッ」

深々、と頭を下げてすぐさま李確は詠の下から足早に逃げ出した。追いかけてくる声もない事だし、構わないのだろう。李確とと入れ替わるように護衛の兵士が近づいてくるのを見て詠は口を噤む。しかし、口から出た言葉は返らない――。



「……ふう。やれやれ、じゃな」

 老齢に差し掛かっているとはいえ、それでも名のある将。李確の耳は、詠の口から零れた本音をしっかりと拾い上げていた。

(さて、嫉妬か、その類に近いとは思うが)

 軍人として、そして人間として優に詠の倍以上を生きてきた彼には、詠が帝辛に対して負の感情を抱いている事は薄々ながら察せていたが、これで隔意がある事が確定した事になる。
 感情ではなく理性と理論で策を練る軍師であっても詠も人間。しかもまだ年若い少女である。
 ままならぬ情動に揺れ動く事もあろう。

(それも若さ故、か……。いい事じゃ。それを乗り越えれば、尚更)

 そしてその手伝いをするのが、自分達大人の役目である。
 縁の下の力持ちとしての働きを、より頑張ろうと思う李確であった。





 繰り返す事、実に五会戦。
 三度目の会戦時に行われた、李確率いる騎馬隊二千の奇襲は、後退を繰り返す霞の本隊に意識をとられていた黄巾軍の後背を痛撃。それに呼応して反転、突撃した霞直率の騎馬隊の突撃と合わせて、黄巾軍左翼を真っ二つに分断。大混乱に陥った黄巾軍を尻目に、霞は李確隊を吸収し、またも無事に撤退を遂げたのだった。

「――とまあやる事はやってんねん。せやけど、やっぱこのままやとこの兵力差はきついで賈駆っち」
「そんな事承知の上でしょ! ほらぼやいてないで指揮とんなさいよ、本陣の将は今はアンタだけなんだから」

 しかしそれでも、霞の言うとおり戦況は芳しくなかった。
 李確隊の奇襲の甲斐もあって、当初三万を誇った黄巾軍も、今では二万を切るほどにまで数を減らしていた。
 しかしながら、被害を避けつつ戦っていたとはいえ、自軍にも損害は出ており、李確隊の合流を含めて現在の兵数は一万と千弱。戦力差は相変わらず二倍近く、そして伏せ札はもう手元にないときている。
 現在行われている六回目の会戦では、李確らの諸将は前線に赴いており、霞は詠と共に本陣で戦況を見据えていた。

「……もうちょっと減らせると思ってたんだけど……白波賊の統率力が予想以上だったって事かしらね」
「せやな、連中の首領は郭太やったか? あれでなかなかやり手みたいやしな」

 霞の同意にきり、と唇を噛む。
 制約の多い今回の戦いではあったが、それでももう少し楽な戦いにできると考えていたのだが、少々甘かったかと自戒する。
 白波賊も、追い詰められ続けた中で団結力が増したのか、なかなか動揺せずに統率を保っている。

「こら小細工だけでどうこうするんは、ちょっち難しいやろな。連中にしてみれば、山際まで追い込まれてた頃に比べれば、囮もいる事やし今の方がまだ気が楽なんやろな」
「……しょうがないわね。今度の戦いからは積極攻勢に出るわ。被害は大きくなるけど……これ以上戦域を都市部に近づけるのもまずいわ」
「せやな。ここまで引き伸ばせただけでも上々やんな。しっかし、やっぱ辛がおらへんかったんは痛かったなぁ……」
「……仰聞じゃなくて、アイツが連れてった四千がいなかったのが痛いのよ」
「……賈駆っち、あんまり意地張っとっても可愛くないで? 兵だけおるより将も一緒におった方がええんは、わかりきった事やで?」
「………」

 むすっ、と不貞腐れた表情が、普段の知的な軍師の印象とかけ離れていて笑みが溢れそうになるが、実際そうそう笑っていられる問題ではない。
 今はまだいいだろう。しかし今後、可能性の高いもしもの話で、群雄割拠の時代に突入した場合。こんな事では到底やっていけないだろう。

「……ウチにとってな? 今の并州は居心地がええんよ。できる事ならこの面子で行けるとこまで行ってみたいんや。せやけど、要にの内の二人が不仲やーいうような勢力が、この先やっていけるかっちゅうたら……な。好きになれとは言わへん。せめて、能力と同じように、それを持つ帝辛っちゅう人間を、ただ認めてやって欲しいんよ」
「………」
「辛がおった方がええ。それくらいなら認められるやろ?」
「………」

 返らぬ答えを待たず、霞は待機していた連絡兵に指示を与えては走らせ、一万の軍勢を縦横に指揮し、攻撃態勢を整えさせていく。
 そしてそんな并州軍の陣形の変化を見て、その意図を察したのだろう。黄巾党もまた、のろのろと決戦を意識した陣形へと蠢きながら変わっていく。
 どろどろと響く地鳴りの中。
 それでも呟く声を霞は聞き漏らさない。

「もし……」
「ん〜?」
「もし、私たちがいま積極攻勢に出ようとしてて、白波賊もそれに対応しようとしてて緊迫してるこの時に……。もしも都合よく帰ってきて、連携した挟撃ができて、被害も少なく連中を撃破できて、ボクの目論見さえも守ってくれたなら。……印象は変わってたかも知れないわね」
「そらまた随分な条件やな。ちゅうか、辛たちが通るだろうこの場所で陣を張ってるのは、そもそも心のどっかで期待してたって事なんちゃうん?」
「――っ。……ふん……まあ、今更よ」
「今更なぁ……ん?」

 虚を衝かれて動揺しているのを隠そうとする意地っ張りに、やれやれと首を振り、どうしたもんかと虚空を眺め――そしてそれに気がついた。

「……ふぅん……」
「なによ、にやにやして」
「ん〜ん、なんでもあらへ〜ん。……さって、ぼちぼちやね」
「なんだか知らないけど白々しいわね……まあいいわ。……全軍前進! 奴らを粉砕するわよ!



 そして両軍は進撃する。土煙を、地響きを、喚声を上げて互いへ向けて突き進む。
 かたや死の恐怖に煽られて、こなた死の恐怖を踏み越えて。剣を、槍を、矛を、弓を手に手に。
 誰もが敵を見据える中、軍師たる賈文和は敵の動きを見定めようと見過ごすまいと、一際鋭く、しかし全体を見据える。
 動きの鈍いところはないか、動きのいい場所はあるのか。見据えて、見据えて、見極めようとして……。

「……え?」

 はっと振り向けば、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべた張文遠。

「あんた、まさかわかってて!?」
「なんや、もう見えたんか。賈駆っちも目ぇいいんやなぁ。ま、ウチが気づいたんもついさっきなんやけどな」

 黄巾党が巻き上げる土煙、地響き。
 辺境の民としての、そして騎馬隊指揮の最高峰としての目は、耳は、感覚は。
 それらの後ろに潜んでいた、高速で突っ込んでくる騎馬の一団の存在を知らせていたのだ。

「まさか……まさかでしょ!? なんでこんな時に!?」

 途中で気づいていなければ、そしてこちらの戦術を理解していなければ、現れる事のないはずの存在が、まさか。

「騎馬主体の高速進軍、ウチがこの音を間違うわけがあらへん!」

 そして今、ようやく気づいて反転しようとする黄巾党の背後、土煙を突き破って!
 漆黒の華旗が翻るッ!



「――ってあんた誰よ(や)!?」



「はぁああああああああああああっ!!!」

 ぶん、と一振りする度に撒き散らされる鮮血……が混じった肉片。正に弾け飛ぶという表現が相応しいその凄惨な光景を生み出しているのは、間違いなく超重量武器に分類されるだろう自身の得物【金剛爆斧】を、高速で駆ける馬上にてぶんぶん振り回す華雄である。
 槍衾も肉の壁も、何もかもをその重量と膂力と疾駆する速度とが生み出す圧倒的な破壊力で吹き飛ばしている。
 霞も帝辛も、それぞれ速度、技量でもって無双を示していたが、華雄もまたその力によって無双の強さを誇示していた。

「敵の士気を減じるにはもってこいの戦いぶりだな」
「余所見をしながらぽんぽん首を飛ばしている貴方も見ていて恐ろしいのですが……ねっ、と」

 続く帝辛も、巧みな矛捌きで確実な戦果を挙げ続ける徐栄も。更にはその周囲、後方に続く部下たちもが、それなりに精強を誇っていたはずの白波賊を蹂躙していた。

「しかし、なんとも理想的な挟撃になりましたな」
「うむ。前方の霞たちと決戦、と意気込んだ矢先に背後に痛撃を食らったのだからな。生半可な将では御しきれまい……む?」
「どうなさいましたか? ……おお、あれに見えるは……」

 【蒼天已死 黄夫当立】の旗の下、切歯扼腕しながら罵詈雑言をまき散らしている、髭面の男。供回りを連れ、上等な武装をしている辺り、恐らくは敵の将と窺い知れる。

「子将軍! 前方に張旗、賈旗を確認! お味方の本陣の位置がわかりました!」
「む……」

 そして間を置かず霞と詠の居場所が判明し。
 倒しに行くか、護りに行くかの決断は迅速だった。

「華雄! 手柄首があるぞ! 討ち取って手土産にするといい!」

 偃月刀の切先で以て指し示してやると、華雄はニィと牙を剥いて笑った。正しく獲物を見つけた獣の相である。

「私は霞と詠……張遼と賈駆の下へ行く! お前は奴の首を取り、白波賊を制圧しろ! 徐栄、五十騎だけ兵を連れて行く、あとはお前ごと華雄の指揮下に入り、これを補佐せよ!」
「ははっ!」
「感謝するぞ帝辛! よし徐栄、着いて来い! 我こそは華雄! そこな白波の首領よ、今貴様の首を取りに行くぞ! うぉおおおおおおおっ!」
「よし、我らも行くぞ!」

 勇ましくも頼もしい声を背に、帝辛も馬を駆る。
 彼我の将同士の戦いを見守るまでもなく、既に戦いの趨勢は決していた。



「いやあ痛快痛快! 圧倒的やな! あっはっはっはっは!」
「あ〜……全くもう……」

 片や腹を抱えて大笑い、こなた頭を抱えて大吐息。
 やっている事は違えども、それでも張り詰めていた気が緩んだのは二人とも同じ事である。
 そしてそれは、特に戦い以外にも色々と抱え込んでいた詠からより多く気を抜けさせていた。

「あ〜……。もうなんかどうでもいいわ……」

 帝辛、子受、子仰聞。
 ここのところずっと頭を悩ませていたあの男。自分の立場とか役目とか月との関係とか、そういった諸々にことごとく影響を及ぼしている鬱陶しいヤツ。
 胸の内に渦巻いていたそれらが、なんだかもうポーンと吹っ飛んでいってしまって、いっそ清々しいくらいである。

「霞、詠、無事か!」
「おー! よう戻ったなあ! もうめっちゃどんぴしゃりな時に戻ってきたやん! ニクいなぁこのこの!」
「あ〜、お帰り。おかげで楽に決着がつきそうだわ」

 そんな心境だからだろう、息せき切って駆けこんできた帝辛に、霞ほどとは言わないまでも、それなりに気安く言葉をかける事ができたのは。

「――ああ。苦労を掛けた」

 そんな変化に驚いたのだろう、帝辛はわずかに言葉を詰まらせはしたけれど。すぐに嬉しげな顔と言葉が返ってきて、詠は自分の顔がわずかに――主観的に――紅潮したのを感じて慌てて顔と話題を背ける。

「と、ところで! あんたたちの先陣切って突っ込んできた、あの【華】の旗! あれは一体どういう事?」
「あ、それはウチも聞きたいで。さすが賈駆っち、ただの話題逸らしとは一味違うなぁ」
「なんの事だかさっぱりね! ……で、誰か連れてきたの?」
「うむ。なかなかに面白い奴でな、華雄という。丁原から貸し与えられたのだが、霞なら知っているのではないか?」
「ん〜? 華雄……おお、おったおった、猪武者で有名やったなあ!」

 ぽん、と手を打つ霞。しかしやはりそんな名前の売れ方なのだな、と帝辛は些か悲しくなった。

「なによそれ。そんなの貰って大丈夫なんでしょうね?」
「……うむ。まあそこは霞の腕の見せどころだ」
「ってウチに丸投げかい!」

 しかし実際のところ、帝辛はそんなに心配はしていなかった。確かに些か……些か以上に手綱を取るのが難しくはあるが、部下から好かれ、また彼女自身さっぱりとした性格をしているので、優秀であっても人となりが怪しいような輩よりも余程頼りになる、と見ていた。

「まあ、見ればわかるだろう。じきに渦中の人がお出ましだ」

 百聞は一見にしかずだったか、と言いながら指した先には、勝ち名乗りを挙げている華雄と、自分たちの首領が討たれて戦意をなくした白波賊の、そして黄巾党の兵たちの姿。

「へ〜、奇襲とはいえ李確たちが手こずってた相手をこうも容易く討つとはなあ。やるやないの」
「そういえばさっきの突撃陣形も堂に入ったものだったわね」
「……まあ本領はここからよ、見ておれ」

 本当に突撃戦法でよかった、と内心で思いつつ見守っていると。

「? なんや、あれは……徐栄になんか命令しとんのか」
「徐栄の奴、慌ててるわね」
「………(ああ、また無茶言われたのだろうな……)」
「って、なんかこっち近づいてきてるわよ?」
「ああ……まあ見ておれ」

 そう言われて、取り敢えず詠は見る。霞も見る。
 戦い方が戦い方だけに、赤グロい何かをそこかしこにつけた長身の女丈夫が、白銀の髪を乱して必死の形相で迫っていた。

「「怖ッ!!!???」」

 さもあらん。

「文和どのぉおおおお! ご無事ですかぁあああああああ!?」
「ちょ、アンタ誰ッ、ていうか怖ッ!?」
「あなたが賈文和どのか! 私は華雄! この度董仲穎さまの配下と相成りまして、帝辛と共に并州へと向かっておりました際に御身の危機を悟り、お救いに参りました! お怪我はありませんか!?」
「ちょ、だ、大丈夫よ、怪我はないからそんなに迫らないでっ!?」

 一気に言い切って、華雄は手勢に本陣を囲んで護るように指示を出しつつ詠の体を案じる。一方では既に徐栄が降伏した敵兵の武装解除を始めているというのに、念入りな事である。

「なあなあ辛、あれって素で言ってるんよな?」
「だろうな。単にして純、表も裏もない見たままの人物よ」
「へえ……」

 あの丁原の下にこの華雄がいたとは思えない、と同時にだからこそ今ここにいるのだろう、とも思う。
 まだ出会って一刻も経っていないというのに、既に人となりが透けに透けて見える言動。なるほど確かに宮廷にいるよりこちらにいる方が余程肌にあっていそうである。

「こら確かに面白くなりそうやな」
「既に体感した私が保証しよう」
「ちょ、ちょっと子受ッ! アンタ一番事情わかってるんだから何とかしなさいよっ!?」
「……あっちはなし崩しになんとかなりそうみたいやな」
「そうらしいな」
「どうでもいいからこの猪突猛進女を止めなさいーっ!」



 さっきまで戦闘が行われていたとはとても思えない、なんとも混沌とした空間に、詠の悲鳴が物悲しく響いていた。

 

戻る
(c)Ryuya Kose 2005